……で、それは何か?私へのあてつけか?
タイトルつけるのが下手で辛い
「それで、部長」
「なんだ?告白か?だが悪いな。私は面食いなんだ」
あれー、おかしいぞ?なんか、勝手にフラれた。
「……どうして、今日俺たち呼ばれたんですか?」
「あぁ、そっちか」
「なんで、先に告白と思ったんですか……」
そんな俺の言葉を無視して部長は、落ち着いた感じで一口紅茶をすする。
始業式のすぐあとに部活なんておかしい。
真面目にやってる運動部とかならともかく、真面目にもやってないし、第一ここは文芸部だ。何をするわけでもない、ただダラダラと、各々好きなことをやってる部活だ。
そんな部活が普通はすぐに帰る始業式の日に、活動をするなんておかしい。
「もうそろそろ来るはずなんだが……」
部長がちらっとケータイを見たとき、廊下からコツコツコツと足音がした。
走っているのであろうその足音が、どんどん大きくなっていく。
「ごめんねー。遅くなっちゃったー」
聞くだけでHPが回復しそうな声と共に、部室のドアが開かれた。
「進路のことで先生捕まっちゃってねー。いやぁ、なんで先生って話長いんだろうねー?」
椎名沙織先輩、普通科三年。
その可愛らしい容姿に、本人の放つ癒しのオーラから男女問わず人気が高い。
この人がいれば世界が平和になるんじゃないかとついた名称が『女神様』という、文芸部部員である。
……いや、誰がつけたんだよ。バカじゃねーの?
「沙織、遅刻だぞ」
そんな女神様もとい椎名先輩に対しても、部長は冷たく言い放つ。
「もーう、立夏ちゃんそんな怒らないでよー」
「……あまりくっつくな」
ご立腹な部長に、椎名先輩がギュッと抱きつく。
部長の絶対零度も椎名先輩の風船のように、どこかへ飛んでいきそうな暖かい雰囲気の前では、ぬるま湯になってしまう。
嫌がってはいるものもあまり抵抗しないあたり、二人の仲の良さが伺える。
「……で、それは何か?私へのあてつけか?」
「えー、なにがー?」
「これだ、これ!」
「ひゃあっ!」
そう言った部長が、抱きつかれたことによって、頭の上に乗った二つの山の片方を鷲掴みにする。
椎名先輩の可愛らしい声が聴覚を刺激して、思わず前屈みになってしまいそうだ。
グルルと椎名先輩を睨む部長の姿はまるで獣みたいだが、それに対しても微笑む椎名先輩はさすが女神と言ったところだ。ん?違うな、これはおちょくってるのか。
「やだなぁ。立夏ちゃんもないわけじゃないだから、そんなこと言ったら雪ちゃんがかわいそうだよ?」
「それもそうだな、柊、すまん」
「……すごく不本意です」
柊は不満顔で、持っていた紅茶が入ってるカップを両手でギュッと握って、一気に飲み干した。
「うぅ……」
「大丈夫かい?」
熱かったのか舌を出している柊に、ヒョロ先輩がさりげなく水を渡す。
さすがヒョロ先輩、できる男だね!
確かに、柊の胸は見た目と相応した代物だ。
もし、効果音をつけたとしたら、すとーんというのがしっくりするだろう。
……ドンマイ、柊。
でも需要はあると思うよ、うん。
「それで、用って何ですか?」
このままだと、柊が不憫すぎるので本題に戻す。
部長には悪気はあるが、椎名先輩は悪気なく、天然でたまに毒を吐くので本当に困ったものだ。
その毒が殺傷能力が高いせいで、柊いじけちゃったし。
「今日皆に来てもらったのは、この文芸部がピンチだからだ。言うなれば、文芸部クライシス。どうだ!なんか、カッコよくないか?」
「部長、それは寒いじゃ……痛っ!なんでハリセン!?」
俺がツッコむと、部長にハリセンでしばかれた。
どこから出したんだよ、それ。
素直な感想ぶつけたのに、理不尽すぎる……。
「それで、立夏。ピンチってどういうことなんだい?」
気になっていたところを、ヒョロ先輩が部長に聞き返してくれる。
「それはだな……」
部長は深いため息をついて目を閉じる。
珍しく部室の空気に緊張が走る。
だからか、思わず生唾を飲んでしまった。
そして部長はカッと大きい瞳を現し、口を開く。
「シンプルに部員が足りない!」
ない。ない。ない。とかかっているはずもないエコーが響く。
恋じゃない。いや、古いわ……。
「でも、立夏ちゃん。部活申請出したとき、部員六人で通ったんじゃないの?」
そうだ、確か部活を作るとき必要最低限の人数が五人。
一人多い六人部員がいる、文芸部は大丈夫なはずだ。
「私もそう思っていたんだがな……。今日、担任に言われたんだ」
部長は、普通に喋っていたのに関わらず、急にかすれ声で続ける。
「……創部二年目の部活は、最低八人部員がいるらしい」
キャァァァァ!!ってなるか。怖い話かよ。
「何ですか?その制度」
ツッコむのは心の中だけにしておこう。
またハリセンで、殴られるかもしれないし。
「いや、そこはツッコめよ」
「痛っ!なんで!」
再びハリセンで、頭をしばかれる。
理不尽すぎる……。
「部活をつくって、一年間の間だけ部員が足りていても、数年たって人がいなかったら意味がないからな。毎年、コンスタントに人が入る部活じゃないと、部活の意味がないということなんだろう」
「……筋は通ってますね」
「あぁ、そこには、なんの不満もないんだ」
「でもそんな制度、今までなかったじゃないか」
そう、ヒョロ先輩の言った通り、俺もそこが気になった。
「今年からできたそうだ。今日の朝、部長会議で言われた。どうやら、運動部や真面目にしている文化系の部活に部費を当てたいらしい」
真面目な文化部ってこの場合、ちゃんと大会とかがある吹奏楽とか書道部とかか。
当たり前だけど、文芸部にそんなものはない。
「それで、なにもしてないような部活は潰すと」
「まぁ、そういうことだ。なによりいけすかないのが、この制度を学校側に申請したのが、生徒会なんだよ」
部長がチッと舌打ちをする。
なるほど、学校から一方的に出したなら、まだしも生徒会からの案だったら、反発はしにくいよなぁ。
むしろ権力が高い運動部からしたら、部費上がるしラッキーってことになるし、そもそも反対意見の方が弱いに決まっている。
「生徒会ってことはマリちゃんかー。確かに立夏ちゃん、あの子と仲悪いもんねー」
「というか、上園さんが立夏にいつも成績負けてるから、気にくわないんじゃないかい?」
「私は悪くない。私に負けるあいつが悪いんだ」
部長が自慢気に胸を張る。
前にヒョロ先輩に聞いたところによると、部長の一位は、いつもぶっちぎりで全教科満点、もしくは満点近くとっているらしい。ほんと、どういう脳をしているのか疑問だ。
そんな人に、よく対抗意識を燃やせるものだ。
「もーう。一回ぐらい負けてあげれば良いのにー」
「絶対嫌だ。ああいうやつは、一度勝ったら調子に乗るタイプだからな」
「負けず嫌いなんだからー」
フンッと部長がそっぽ向く。
っといかん、また脱線してる。このままじゃ話が進まない。
「それで、どうやって勧誘するつもりなんですか?」
「あぁ、それはだな。……柊」
呼ばれた柊はソファに横たわったまま、ピクリとも動かない。
「柊?」
返事がない。ただの屍のようだ。……ベタか、俺。
にしてもどうしたんだ?寝てんのかな。
「おーい、柊」
三回目にやっと反応して、こっちを向く。
「……部長も椎名先輩もキライです」
あ、拗ねてる……。
「ほ、ほら、小さくてもその方面の人には需要あるらしいよー」
「……何ですか、需要って」
椎名先輩が火に油を注ぐようなフォローを入れるが、柊ムスッとした顔をする。
「需要というのはな、経済における……」
「立夏、ちょっと落ち着こう」
得意気に、需要の説明をしようとした部長をヒョロ先輩が嗜める。
ヒョロ先輩ナイス!俺が止めてたら、またハリセンでやられるところだった。
「はぁ……もういいです。武久、ボクのパソコンをとってくれ」
「おう、これか?」
「光の席に置いてくれ」
「分かった」
俺は棚に置いてあるノートパソコンを、言われた通りの場所へ置く。
ここで、簡単な部室の説明をしておこう。
文芸部における部員たちの位置は、大体決まっている。
まず、大きい机の部室のドアから見て左側が、俺と今はいないが光が座っていて、俺たちの後ろには文芸部らしく本棚がある。そして、反対側にヒョロ先輩と椎名先輩が座っていて、その後ろに柊が座っていてるソファがある。
部長はいつも中央、いわゆる、お誕生日席というやつだ。誕生日でもないのに。
「これは?」
起動されたパソコンの画面には、数字やらグラフが表示されてる。
「……新入生の意識調査」
「入学式の時、書くやつだねー」
そういや、去年そんなの書いたっけ。
なに書いたか覚えてないけど。
「あのアンケートは学校じゃなくて、新聞部がやってるものなんだよ」
「はぁ……。それで、どうしてデータが文芸部が?」
「ちょっと新聞部に依頼されてね。自分たちでやるより、柊がやった方が正確で早いんだと」
柊を見ると、得意気にVサインをしている。
確かに柊は、パソコンに詳しい。
小さい頃、家にいることが好きだったらしく、その間に勉強したと言っていた。
「あくまでデータだ。これがあれば、大体どの部活に何人が入るかわかるだろう?現代において、情報とは強力な武器なのだよ」
「はぁ……」
あまり納得できてないのが分かったのか、「これを見ろ」とパソコンを指す。
画面に目を向けると、グラフの詳細が分かった。おぉ、すごいな。本当に新入生が、どの部活に入ろうとしてるか、これで知れるな。
「やっぱり、運動部が多いねー」
「うちの高校は強い部活は強いからな。それは、仕方ないだろう」
野球部とテニス部が強いんだっけか。あと、女バスもそこそこ強いって寺島が言ってたっけ。
「文芸部の入部希望0ですね」
「……仕方ないだろう、去年できた部活だからな」
知名度も実績もないしな。あるわけもないけど。
「その他のところにいるかもしれないよ?」
「一応見てみるか、頼む柊」
「……あまりおすすめしませんけど」
そう言いながらも、柊は円グラフのその他の部分をクリックする。
「……なんだこれ」
画面に表示されたのは、アンケートに適当に答えたようなものばかりだった。
そりゃそうか、別に真面目に答える義務ないもんなぁ。こういうやつがいても不思議はないか。これを友達同士の会話で、『俺、アンケートで学園生活部って書いたぜ。ギャハハハ』とか言って、バカみたいな自慢にもなってない自慢をするのだろうか。
てか、誰だよこれ書いたの。ゾンビに食われて死ねばいいのに。
「これじゃなにも分からないですね」
そう言ってソファに座ると、パソコン操作のためにパイプ椅子に座っている柊に不満そうに軽く睨まれた。
あれ?、座っちゃダメなの……?厳しくない?
「いや十川、一つ分かったことがあるぞ」
なにも分かってなく、ほぼ諦めてる俺に部長が得意気に言い放つ。
「入部希望者がいないということは、もう勧誘するしかあるまい!」
結局、そうなるのか……。
「立夏、期限はいつまでなんだい?」
「今月末だ」
約3週間ってとこか、まだ時間あるか。
「だが、来週には一年生の仮入部が始まるからな、行動は早い方がいい」
「じゃあ明日からってことですか?」
「そういうことだ、みんなも大丈夫か?」
みんなそれぞれにこくりと頷き、椎名先輩だけが「大丈夫だよー」とちゃんとしたレスポンスを返した。
「話は以上だ、今日は解散!」
こうして、今日の部活は終わった。
部員はそれぞれ立ち上がる。俺もまたそうだ。今日は光がいないので一人で変えることになる。
それにしても、いきなり理不尽な制度ができたものだな。生徒会長の部長に対しての嫌がらせとしては、効果抜群だ。もう、感心しちゃうレベルで。いや、感心してる場合じゃないか。
まぁ、部長も新学期早々に廃部なんて生徒に負けたみたいなるし、絶対許さないだろう。負けず嫌いだしなぁ、あの人。
俺も文芸部のことは気に入ってるし、明日から頑張ろう。頑張らないとまたしばかれるし。
……腹減ったな、そういや昼飯まだだっけ。
ありがとうございました。