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BE DAYS!!  作者: 正葉
3/12

オバケ?

ゆったりと更新中です

Twitterの垢作ってみました。フォローよろしくです。


@seiyo_11

俺には部活に行く前にしなければならないことがあった。


「4組だっけ……あいつ」


同じ学年の部活のメンバーの柊雪ひいらぎゆきを迎えに行くことだ。

俺が在席する2年3組は教室棟の1階にある。対して柊がいるはずの4組は下の階の2階にあるのであたりまえだが階段を使う。

まったく、クラスの番号は隣なのに階をまたぐと面倒だな。

階段を降りたあと2階の廊下を覗いてみると、終礼が終わっていないクラスに友達がいるのであろう生徒がちらほらといた。ということは俺のクラスは早く終わった方だったんだな。


「おう!十川じゃねーか!」

うるさっ!声がでかい!

「都田……」

声の方を向くと、体もでかい都田がそこにいた。


「なにしてるんだ?志田は?」


都田が暑苦しい笑顔を向けてくる。

いや、ほんと暑い。君がいるだけで体温5度ぐらい上がっちゃう。

そして、その笑顔の意味がわからない。


「知り合いがいるから、待ってるんだよ。光はバイトだからって寺島と帰った」

「そうか!」


だからなんでそんなに元気なの?


「……都田はなんでここに?」

「俺か?俺も野球部のダチがこのクラスにいるから待っているんだ。でも、このクラスの担任、島川だからなかなか終わらないんだよなぁ」


背中にバットを背負っているってことは、都田はやっぱ野球部なのか。教室でバット持ってたから喧嘩しに行くんだと思った。

ちなみに、島川というのは中年の社会教師でとにかく話が長い。生徒がなにも反応しなくてもずっと話続けるという感じで、新聞部がだした担任にしたくないランキングぶっちぎりで一位らしい。


「あ、でもやっと終わったみたいだな」


俺が風見と話していた時間もずっとラジオパーソナリティのように一人喋りをしていたわけだから、今回も変わらず長かったのだろう。

ぞろぞろと2年4組の生徒たちが教室から出てくる。


「じゃあな、十川」

「おう、また」


都田も友達が来たみたいで部活に行くようだった。二回目のやりとりはなんだか違和感を感じる。

……出てこないな、あいつ。

やっぱり、出てこないか。


「失礼しまーす……」


ある程度、人が出ていったのを見計らって、俺は教室の中に入った。

教室の中には友達同士で、雑談している生徒が何人かいた。

しかしその輪には入らず、一人、机に突っ伏して爆睡しているやつがいた。


「はぁ……」


溢れ出たため息を消費して、俺はそいつの方へ向かった。


「おい」


呼び掛けながら軽く人差し指で、そいつの頭を弾く。

パチッと思ったより、良い音が鳴った。


「……痛い」


もう分かっているだろうが、もぞもぞとして顔を上げ、頭を押さえながら大あくびしているこいつが柊雪ひいらぎゆきである。


こいつは放っておくと、ずっと寝ているようなやつなので、それを部長が危惧したというか、押し付けられるような形で俺が起こしに行ってる。

俺が光じゃダメなんですか?と聞くとなんかラノベみたいになるという訳の分からない理由で却下された。いや、訳分からなくもないが。


「オバケ?」


なんて失礼なやつだ。

人を顔見るなり、第一声がそれか。


「中指の方が威力が出そうだ」

「……何の用だ、武久」


いかにも不満そうな目で、柊が俺を見る。

おそらく、これがジト目というやつだろう。

起こしてやった上に、オバケ扱いされた俺が、こんな不満そうな目で見られるのは絶対おかしい。


「部活だ」

「……あぁ、なるほど」


自分の中にあった不満をかき消して、柊に伝える。

納得はしてない。

寝起きだからか反応は少し遅かったが、柊は鞄を持って立ち上がった。


「じゃあ俺は職員室に鍵返しに行くから、先に部室行っといてくれ」

「待て」

「ゲコッ」


俺が行こうとすると首が急に締まった。

思わずカエルの鳴き声が出てしまう。


「痛いんだけど……」


どうやら柊が俺の首根っこを掴んでいたみたいだ。ていうかこういう時って服の袖とか掴むんじゃないの?なんかトキメキもくそもなくない?端から期待してないけど。それ差し引いても、お前ちっちゃいんだから配慮してくださいよ……。


「ボクもいく」

「なんで?」


普通に意味がわからなかったから純粋に聞き返す。


「ボクもいく」

「わかったから、とりあえず俺の首根っこを解放してくれ。このままだと窒息死する」


表情一つ変えず答えられたし、『君と一緒に行きたいんだ……』っていう萌デレセリフも聞けなかったので、言及する気もなくなった。それに、さっきから掴んだままでちょっと苦しい。いくら柊が小柄でだからといって、人一人の体重の負荷がかかるとさすがにきついんですよ。


「あー、すまない」


柊は気づいてなかったのかすぐに手を離してくれた。あれ?さっきもこんなことあったような……。

「いくか」


特に柊を拒む理由もないので、そのまま俺たちは教室を出た。

実を言うと俺は柊のクラスの鍵もついでに返そうと思っていたのだが、二つの誤算があった。一つは、4組の担任が島川だったということだ。そう、俺の予想ではもう風見とのやりとりのあと4組もすでに終礼は終わっていて、柊が一人、教室で爆睡していると思っていた。


だから俺は、わざわざめんどくさい教室の鍵の施錠を請け負ったのだ。そう、4組の教室の施錠をして、鍵を職員室に返しに行くついでになると思って。

そしてもうひとつはたいした理由ではないが、まだここに生徒が残っているということだ。まぁこれも島川の話が長かったのもあるが。


にしても、高校生ってどうして、こんなに無駄話が好きなのだろうか。

話したことなんてほとんど記憶に残らないのに。ずっと話し込んでいる。

ファミレスとかで、たまに会議みたいになってる時もあるし。

大体、人間がやることなんて、八割方無意味な気がしてしまう。なんてことを冴えない男子高校生は考えちゃったりしてしまうのだ。そのことさえも無駄だと気づかずに。いや、気づいていても、意味がないと知っていてもその無意味なことをやってしまうだろう。

意味があることだけをやってもつまらないと、理由をつけて。





用事、もとい職員室に鍵を返し終わった武久と雪は部活棟2階にいた。

星宮学園は土地で言えば、相当広い方の学校だろう。

各学年の教室棟があり、一つの階に3つの教室があり、1学年7クラスで1、2、3組が1階があり、4、5、6組が2階で7組が3階にある。これは全学年共通だ。ちなみに3階の残りの教室はいわゆる空き教室になっており、放課後に軽音部が練習している。


そして、部活棟も二種類ある。

ひとつは運動部が使用している部室用の棟だ。そしてグラウンドもそこそこ広い。

そしてもうひとつが武久らが今いる棟が文化系の部活棟になっている。

文化部室棟3階の角部屋にあたる部屋に武久たちの部活の部室があった。


「こんにち……」

「おそーい!!このくそブサイク!」


武久がドアを開けると同時に放った挨拶に食いぎみで罵声が飛んだ。


「遅刻じゃないか!十川。なめてるのか?殴るぞ?」

「……なんですか部長、そのテンション」


椅子を二つ並べてその上に仁王立ちで立っている女生徒が武久を見下ろす。というか見下す。


「担任がめんどくさい先生だから機嫌悪いんだよ、立夏。十川くん、なに飲む?」

「あぁ、なるほど。俺は緑茶でお願いします。ヒョロ先輩」


武久がヒョロ先輩と呼んだ人物は進学科3年の扇朔太郎おうぎさくたろうこの部活の副部長だ。

身長がスラッと高くて、体の線が細いということでヒョロというあだ名がついた、らしい。

武久が入部した時には、もうこのあだ名が定着していた。


「高校最後の年に担任が生活指導の相原だぞ。もうこれは神様のいたずらにしか思えん!」


そして、このぶつぶつと文句を言っているのが部長こと四宮立夏しみのやりっか特進科3年である。


「ほんとにこの人が3年の成績トップなんですか?」

「立夏は要領いいからねー。はいこれ緑茶」


四宮立夏は優秀だ。

容姿端麗、成績優秀、運動神経も良い、トータルのステータスを考えれば、光をも凌駕する。


「あ、ありがとうございます」


武久は机に置かれた湯飲みをとってお茶をすする。

部活の楽しみのひとつだ、


「……要領よくなんでもできちゃうから分からないんだ。凡人には天才のことが」

「はぁ……」


優しい、いや、遠い目をして立夏を見る朔太郎に、武久はサッカーをしていた頃に自分が光に抱いていた感情を思い出した。

嫉妬とは違う言い表せない感情、いくら努力しても逆立ちしたってこいつには一生勝てない劣等感。それゆえの憧れ。理解したくてもできない、天才ならではの苦しみ。

理解不能、しかしこれは、決して悪い意味ではないのは確かだった。


「そういえば、柊さんは?」


思い出したように朔太郎が周りを見渡す。

武久が部活に来ると雪も一緒に来るのが当たり前になっているのだが、姿が見えない。


「あれ?一緒に来たはずなんですけど……」

「……ここ」


声がする方を向くと、ソファの上の毛布からもそっと雪が顔を出す。

雪の体なら普通の毛布でも体全体が隠れてしまう。


「お前来てからずっとそこいたのか?」

「……寒かったし」


今日は春とはいえまだ肌寒い。

雪は毛布にくるまるようにしてソファに座る。


「なにか飲むかい?」


朔太郎が雪に優しく語りかける。

雪は少し、考えて応答する。


「……紅茶で」

「りょうかい」


朔太郎は簡単に言ってしまうといい人というやつだ。

誰にでも平等に優しく、誰からも頼られて、誰からも信頼される。

仏という言葉がよく似合う温厚な人物なのだ。


「じゃあそろそろ部活始めようか!」

「始めるって言ったってなにもすることなくないですか?」

「馬鹿者、なにもしないからここは文芸部なのだ」

「全国の文芸部に謝ってください」


そうです、無駄に焦らしましたが、ここはなんでもない、どこの学校でもあるようなただの文芸部です。


「だいたいここは私が学校に自由に使える部屋が欲しいから、部活申請を出したん!文芸部なんて称号、後付けの理由に過ぎないわ!」


そんな申請が通るのもどうかしている。


「俺らその部活に入れられたんですけど……」

「いいじゃない、助けてあげたんだし」


立夏が言ったように、武久がこの部活に入部したのは、中学時の光と武久の話を聞いたサッカー部が彼らをあまりにしつこく勧誘していた時に、偶然通りかかった立夏によって助けられたからである。

助けてあげたんだから、私の部活に入りなさいと立夏の言われるがままに、二人は文芸部に入部することになった。直感的にこのりっかには逆らえないと二人とも感じてしまったのである。


「そういえば志田は?」

「バイトがあるって帰りましたよ」

「お前といい志田といいほんとに部活をなんだと思ってるんだ……」


頭を手で抑え、やれやれと立夏はため息をついた。


「そのセリフ、部長にだけは言われたくないです」



一方その頃、光と空花は学校の駅のホームにいた。

この美男美女が親しそうに一緒にいると、周りは恋人だと認知するのか、レベル高いカップルだね、みたいな声が聞こえたりする。

こんなことは二人にはよくあることなので気にせず会話する。

二人ともレベルの高い容姿の上、よく一緒にいることが多かったのもあって中学時代からよく付き合っていると誤解される。

ちなみに光は異性と付き合った経験はあるが、空花にはない。


「それで、十川の顔、なんで腫れてたの?」

「ん?」

「あいつ、聞くなって顔したから」


そんな態度をとられたら、嫌でも気になってしまうのが、人間の性分だろう。


「武久にもプライドはあるんじゃない?」

「プライド?」

「男が女の子に不良に絡まれたなんて言いたくないでしょ」

「今あんた普通に言ったわね……」


光はあははと笑って誤魔化そうとするが、効力はない。

そんな光の様子にため息をついて空花が続ける。


「まぁ、そんなことだろうと思ったけど」

「あーでも、武久には言っちゃダメだよ」

「言わないわよ。プライド?があるんでしょ?よく分かんないけど」

「それもあるけど……」


光は親指を上に立てて爽やかスマイルを見せ、口を開く。


「なにより、俺が武久に怒られる!」

「あんた、どうしようもないわね……」


そんな光に空花はあきれ顔を浮かべる。

駅には虚しく電車が到着しますというアナウンスが流れていた。


「それで、いつ武久に告白すんの?」

「は??」


電車に乗り込み、ちょうど二人分空いていた席に座ったところで、光が放った言葉に空花はこれでもかというぐらい顔を赤らめる。


「あんた、急に何言って……」

「だって、あれから三年だよ?いまだに進展ないし」

「それは……」


呆れたように淡々と言葉を発する光に対して、苦い顔をする空花。


「言っとくけど、武久が空花の気持ちに自分から気づくことはないよ。多分だけど」

「……分かってる」


鞄を抱き寄せてうつむく空花を光が仕方ないとばかりに微笑む。

端から見るとそんな二人の姿はイチャイチャしているカップルそのものだった。


「それに多分、風見さんだって……」

「風見さん?どうして風見さんが出てくるのよ」

「いや、これは黙ってた方がおもしろいか」


光が空花にも聞こえないように呟く。


「質問に答えないさいよ……」


空花が光をジト目で見ると、光が誤魔化しスマイルを向ける。

今日の朝、風見弥生を一目見てから、ずっと引っ掛かっていたことがずあった。

確信はしていないが、たぶんこの引っ掛かってることは正解のはずだ。


「じゃあ、俺この駅だから」

「はぁ……」


光はタイミング良くとまった駅で空花から逃げるように電車の降りる。光が答える気がないと察した空花はバイバイとそれとなく手振った。


「いつも言ってるけど、とにかく後悔はしないようにね」


出口をくぐったところで、光は振り向かずに真剣な声音で言い残した。

空花が返答するのを拒むようにドアが閉まる。いや、ドアが閉まっていなくても空花は何も言えなかっただろう。

空花の胸にこの言葉はいつも刺さる。それを知った上で光はこの言葉をぶつけたのだ。


光が電車から降りて出発してしばらくしたあと、空花はポケットから、ケータイを取り出した。

無料通話アプリを開いて、武久とのチャット画面を開く。

いきなり好きですなんて送ったら、どんな反応されるだろう?やっぱり冗談か?なんて返されちゃうのかな?などと、どうしても考えてしまう。


今までも、これを繰り返してきた、どうしても一歩が踏み出せない。

この一歩は空花にとって、重いものになってしまっている。

もう既に打ち慣れてしまった、『好きです』という文字をまた消して、ケータイをホーム画面に戻した。


「後悔か……」


光が去り際に言った言葉が、頭に残ったまま空花は自分の弱さが嫌になった。




もうそろそろ物語を動かせるかな……

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