それで、なにか用?
人物紹介回みたいなものです、いろいろ出てきます!
「どう?武久、クラス何組か分かった?」
「いや、ここからじゃよく見えん」
武久と光が学校に着いた時にはすでに大勢の生徒が掲示板のクラス発表の張り出しを眺めていた。
ここ、私立星宮学園は全校生徒750人、偏差値50の普通科と65の進学科という二つのコースから成るどこにでもあるような高校だ。武久と光は普通科である。
普段はあまり人がいないこの掲示板付近だがこの日は一年で一番人が群がる。逆に言えば、この日以外ここにあまり人がいることはない。あと集まるとすれば、成績優秀者の発表の時ぐらいだ。
その人多さに思わず光が愚痴を吐く。
「去年は入学式があったからここに来る必要なかったんだけど、にしてもこんな多いとは思わなかったよ」
「まったくだ、だから俺は家を早く出てきた不良に絡まれるし本当にツイてない」
「武久は新学期でテンション上がっただけでしょ?」
「うるせぇ、そのテンションにクラス発表も含まれてんだよ」
「友達少ないのに?いや、友達が少ないからこそ、もしも友達が誰一人としていないクラスになったらという不安が……武久ってMなの?」
「なんでそうなった!」
思わず武久が声をあげる。その途端、急に大声をあげた武久と隣の光に周りにいる生徒の視線が向く。
武久は瞬時に声のボリュームを間違えたと自分を戒めた、さらにただでさえあまり目立ちたくない彼にとって非常に好ましくない状況になってしまった。
「あれ、1組だった志田くんじゃない?カッコいいよねー」
「ね!超イケメンじゃん!それに比べてあの隣にいるやつキモくない?」
「ほんとだー、てかなんで頬腫れてんの(笑)」
みたいな会話がそこら中で繰り広げられていた。
光は学校全体でも五本の指にはいる女子人気だ。その隣に、はんぺんみたいな顔をしたのがいたら大体の人が疑問を抱くだろう。
そうは言っても、全員が武久の悪口を言ってるわけではないので、次第にそれは、ただの話し声となりクラス発表で騒いでいる生徒の声と同調し雑音と化していった。
そんなころに光が口を開いた。
「武久っては高校生になってからもこういうことがあったのに、本当に名前覚えられないよねー、もうこれ特技に入れたら?」
「悪口言われて傷ついている友達に最初にかける言葉がそれか?」
「んー顔は覚えられんのになぁ」
「え、顔は覚えられてんの?」
「まぁ、そんな顔してたら誰でも覚えるでしょ」
「どういう意味だよ」
「前空いてきたよ、行こう」
「おい」
武久の言葉にピクリとも反応せずに光はスタスタと掲示板へ進む。
ナチュラルに無視されたことに不満を感じつつも、武久は仕方なしにそれについていこうとする。
その時、武久の左腕が何者かに掴まれた。
「十川、クラス発表のやつ見た?」
「おお、寺島か」
腕を掴んでいたのは、武久の中学からの同級生、寺島空花だった。
寺島空花という女子は俺の数少ない中の友達のそのまた少ない女友達のひとりである。というか寺島自体の友達が多いため、俺は大勢いる友達の一人にすぎないと言った方が正しいだろう。
寺島の友達のラインはとてもアバウトであり、以前、お前の友達のラインはどこからからどこまでなんだと聞くと、「言葉を交わせば友達!」という驚愕の答えが返ってきたほどであった。
「それで、見たの?」
これはおそらくクラス発表の張り出しのことだろう。
「見れてない、さっき学校来たばっかだしな」
「あれ?早く家出たんじゃないの?」
「なんで知ってる」
「だって、いつも始業式とかの日、家出るの早いじゃん、十川って」
こいつがどうしてそんなことが分かるのかというと、中2の時、寺島が俺と光がいた中学に転校してきたときに、その引っ越し先が俺の家の隣だったからである。
いわゆる、お隣さんというやつだ。
というか、思い返してみたら俺って始業式の度に浮かれて家早く出てたのか。なんか恥ずかしいな。
「色々あったんだよ……。」
「確かに色々あったって顔してるね」
俺の頬を見て寺島が苦笑する。
「今、光のやつが見に行ってるよ」
話をそらそうと切り替える。不良に絡まれて殴られたなど言えるわけもない。
「同じよ」
「へ?」
急な寺島の発言の意味が分からなくて、そのまま聞き返す。
「なにが?」
「クラス」
「誰が?」
「あんたたちが」
「誰と?」
「私と」
いまいちよくわかってないことを俺の表情から察したのか、寺島ががあきれたように言う。
「だから、私とあんたと光が同じクラスなの!同じ3組!」
「そっか」
「いや、反応薄くない?」
俺の反応が気にくわないのか、寺島が不満そうに頬を膨らませる。
そんな顔されても、同じクラスでよっしゃーとかやるの高校生にもなって、恥ずかしいだろうが。
「なに期待してんだよ……」
「もっとなんかあるでしょ、やったー!愛しの空花ちゃんと一緒だぁ!とか」
思ってたのと違ったー、それに何で、俺がラブコールしないといけないんだよ。
ていうか、こいつよく自分でこんなこと言えるな。
「とりあえず教室いこーぜ」
「光のこと待たないの?」
「もう大分、人も少なくなってきたしそのうち来るだろ」
周りを一通り見回したが、光の姿はなかった。
あいつも俺のこと置いていったんだし、今度はこっちが置いていってもバチは当たらないだろう。
やられたままじゃ胸くそが悪いし、これでおあいこだな。
校舎付近や中には、結構な数の先生がいて、それぞれがおはようと生徒にあいさつしていた。
こういうものって最初の方だけでだんだん先生の数減っていくだよなぁ。なんてことを考えていると、先生の群れを抜けた辺りで、寺島が話かけてきた。
「そういえば、知ってる?転校生の話」
「なんだそれ?」
「やっぱ知らないよね、あんたは」
じゃあ聞くなよ。
「逆になんでお前は知ってんだよ」
「いや、多分このこと知らないのあんたぐらいだよ。ツイッターとかで普通に流れてきてたし」
今ってネットで転校生の情報とか知れるのか。
そういう周辺の人たちと繋がるようなネットの使い方は基本しない。なにが悲しくて、家にいるときも人のどうでもいいこと知らなきゃいけないんだ。
「今日は○○と語ったー」とかほぼ毎日言ってるけど、お前らは評論家か。
……おっと、ついやっていたころの愚痴が出てしまった。いけない、いけない。
「それで、その転校生がすっごく美人なんだって!」
「ほー」
俺の反応に対して寺島が大きくため息をつく。
「普通こういう話聞くと、男子ってテンション上がると思うんだけど」
「俺みたいなやつがそんな美人と接することがないだろ」
第一にネットの噂なんて信じる気もないしな。偏見だがネットの噂というだけで信憑性に欠ける気がする。
同じクラスとも限らないしな。
そんな俺の発言に何か思いついたかのように、寺島がフフンと笑う。
「あれー?それじゃ、あんたの目の前にいるのはー?」
寺島が俺を挑発するように顔を近づけてくる。
近い!顔が近い!
その目線に対して思わず顔を背ける。
「おまえは、あれだ、別だ」
この瞬間の動揺を象徴するかのようにうまく言葉が出てこなかった。
「美人ってとこは否定しないんだね。」
寺島はひょいっと一方後ろに下がりニヤついた顔でこちらを見る。
「性格悪いぞ、お前……」
こいつは俺に女子の耐性がないのを知っていてこういうことをしてくる。普通の女子だったら俺みたいなブサイクには触れることすら嫌う。なのになぜか、寺島はお構いなしにこういうことをしてくる。
俺をからかって遊んでることは明白なのだが、それでも毎回のように動揺している自分に情けないと感じてしまう。
女子というだけでどこか構えてしまう。これは、多分、異性と付き合ったことのない男全員にあてはまるのだろう。
「そんなこと言って、嬉しいくせに~」
「嬉しくねぇよ」
というか、嬉しさ感じるところがない。
「まぁありがとね」
「なにが?」
礼を言われる理由が分からなかったので聞き返す。
「可愛いって言ってくれて!」
彼女は眩しいくらいの笑顔でそう言うと振り返り、扉を開けて教室に入っていった。
いつの間にか教室に着いてたんだな。いや、っていうか……。
「言ってねえよ……」
寺島に続いて教室に入る。
「武久遅いよー。席、俺のとなりー」
俺にそう呼び掛けたのは掲示板前に置いていったはずの光だった。
図々しく誰も座っていない俺の席であろう場所を指差し満面の笑みでこちらを向く。縦に6列あるうちの右から4番目の列の後ろから2番目の席、なかなか悪くない。
「なんでお前先にいるんだよ……」
第一に浮かび上がった疑問をぶつけると、わしゃわしゃと頭を書きながら光は答えた。
「いやぁ、空花と話しているの見かけたんだけど、なんかいい雰囲気だったから邪魔したら悪いかなぁと思って」
「人混みの中を戻るのめんどくさくなっただけだろ」
「それにしても三人一緒になるなんて偶然だね」
話変えやがった。まぁいいけど。
「寺島が転校してきたときだから中2の以来だな」
「まだ二人ともサッカー部の時だ」
「だな」
俺と光は中学の時、サッカー部だった。というよりは小学生の時、俺は光に誘われてサッカーを始めて、それからずっと同じチームでやっていた。光は元々、運動神経が抜群によかったのもあって、すぐに上達して中学に上がる頃には県内でも有名な選手になっていた。
一方、俺はサッカー以外に打ち込むものがなかったので、バカみたいに練習して、試合に出してもらえるぐらいの実力はつけていた。
そして、中3の時には全国大会に出るまでになった。結果は一回戦で負けたが俺はそれでもう満足して、引退と同時にサッカーはやめた。
「またサッカーやればいいのに」
そう言いながら俺の前の席に座ったのは寺島だった。「て」と「と」だったら、出席番号が前後でも不思議はないし、多分前の席はこいつなんだろう。
「今さら、サッカー部に行きますとか言ったらあの人にどやされるだろ」
「俺らあの人に逆らえないしね」
あの人というのは俺と光が入っている部活の部長ことだ。
もちろん、サッカーをやらない理由はそれではない。
「あんたたちのところの部長、怖いもんね……。いい人ではあるけど」
「いい人ね……」
寺島の言葉に思わず苦笑いをする。
ちなみに寺島は女子バスケ部で、中学の時からやっていて続けている。
「おう、志田!また同じクラスだな」
いきなり、ドン!と後ろで鞄を置く音がした。後の席のやつだろう、光と知り合いなのかと後ろを見るとそこには身長190以上はあるだろうという大男が立っていた。
でかい……しかも大きくて細いのではなく、でかくてガッチリとした肉体のプロレスラーみたいな体だ。
「おう、またよろしくな。ツヨシ」
大男にビックリすることもなく光は普通に話す。
こんな体のサイズの高校生本当にいたんだな、流石に寺島もびっくりして……ってあれ?いない。
あ、他の女子と話してるのか。
「あ、そうだ、ツヨシ!こいつが話してた、武久」
「おぉ!あのブサイクな幼なじみのか!」
お前、俺のことどう話してんだよ、いや大体、予想つくけど。
「よ、よろしく」
紹介されたので一応、あいさつする。どうもこういうのが苦手だ、少し顔をうつ伏せてしまう。
「おう、俺は都田剛だ」
そう言って大男がて手を出してくる。
「十川武久」
俺はそう自己紹介し、出された手を握る。
すげぇ固い手だな、岩みたい。
ピキっと嫌な音が鳴る。って痛って!力強っ!手から鳴っちゃいけない音が鳴ったぞ!
「あの手が痛いだけど……」
初対面なので痛い痛いから!バカバカバカ!みたいなツッコミをするわけにもいかないので、控えめに藤堂に伝える。ホント痛いし。
すると都田は、すまんとだけ言って、すぐに解放してくれた。本人的にはあまり力を入れてなかったみたいだ。骨折れるかと思ったけど。
「ははは、力加減が難しくてな」
得意気に都田が胸を張る。握手に力加減が必要なことが疑問に残るが、聞いても無駄そうなのでやめておこう。
それから他愛のない話をしてるうちにチャイムが鳴った。
それぞれが自分の席へと戻る。
「はーい、みなさん席についてくださいー」
そう言って入ってきたのは、若い女の先生だった。見たことがない、新任の先生だろうか?
「えーと、このクラスの担任になりました。荒木涼子です。教師は二年目でクラスを持つのは初めてです!みんなよろしくね」
なんとも、初々しいあいさつでクラスメイトたちに笑顔を振り撒く。
「じゃあ早速、みんなの自己紹介をお願いしようかなっ!出席番号1番の人からお願いねー」
いきなりのことに戸惑いながらも、クラスメイトたちは自己紹介をすすめていく。みんな、特にふざけることもなく無難にやり過ごしていく。当たり前だ、こんなとこでふざけても引かれるというリスクしかない。
こういうときの自己紹介なんて、一日立てば誰が何を言ったかなんて覚えていないのが現実だ。
「あんな子いたか?」
「すげぇぇ、かわいい」
「あれじゃない?噂の……」
クラスが急にざわめきだしたので、それまでほとんど聞いてなかった自己紹介の方へ気を向ける。
一番右の列から始まった自己紹介も、いつの間にか2列分終わろうとしていた。
順番が回ってきて、立ち上がった女生徒は長い黒髪に綺麗な顔立ちをしており、クラスの男女問わずざわついていた。
彼女は軽くため息をついて、「風見弥生です。よろしく願いします」とだけ言って、早々に座って読んでいた本を手にとった。
一瞬、教室内が静まったが、すぐさま次の人に順番が移る。
「多分あの子ね、転校生」
寺島が上半身を軽く捻って俺の方を向く。
「多分な。あの容姿で全く目立たなかったってのは、考えにくい」
「へー。やっぱ、かわいいと思ったんだぁ」
なんかバカにされてる気がする。
「客観的に見てだよ……」
「素直じゃないなぁ」
そう言い、寺島は前を向き直した。
素直にかわいいなんて言ったらお前絶対バカにするだろろうが。
決して恋ではないが、なんとなく気になって風見の方を見ると、自己紹介に全く関心を示さず読書をしていた。
そんな光景に思わず、絵になるなと感じてしまう。
「志田光です!みんな、ひかるんって呼んでね!」
教室にはバカな自己紹介をしているやつの声が響いていた。
いや、何キャラだよお前。
新学期初日から授業があるわけではなく、一時間目に自己紹介や委員長を決めるやら、なんやかんやして、二時間目に全校生徒が体育館に集まって、恒例の校長の長い話を聞かされ帰るというのがノルマである。
「武久、部活行く?」
教室で帰る準備をしていたら光が話しかけてきた。
「一応、顔は出す。っていうか呼ばれてたし」
さっき、終わったらすぐ部室集合とメッセージが来ていた。
「そっかー、空花は?」
寺島がケータイをいじっていた手を止めてこっちを向く。
「部活夕方からだから、一回帰る」
「じゃあ一緒に帰らない?」
「いいけど、あんた部活行かなくていいの?」
「俺、今日バイトなんだよ」
「部活よりバイト優先なんだ……」
まぁ何をするってわけでもないしな、あの部活。
「ってことで、武久、部長に言っといて」
「わかった」
「はーい、じゃあもうかえっていいですよー」
前で何か話していた先生がそう言うとみんな立ち上がって帰っていく。
全く聞いてなかったな。寺島に関してはケータイいじってたし。
「じゃあな、志田、十川!」
そう言って後の席の都田も立ち上がった。
「おう、じゃあな」
「おつかれー」
都田は野球部らしく背中にバットを担いで教室を出ていった。
「さて、俺ら行くわ」
「じゃあねー、十川」
「あ、そうだ。雪、4組だって」
「……りょーかい」
俺も部活行くか、その前にやることあるけど。
「じゃあ、十川くんか風見さん、鍵お願いね。職員室に置いといてくれればいいから」
「へ?」
そう言い、荒木先生は出ていった。教室を見渡すと、そこには俺と風見しかいなかった。他のクラスメイトたちは帰っていいよと言われた瞬間にすぐに帰ったのだろう。そりゃそうだ、教室に長居する理由にがない。
「あの……風見さん……」
仕方ないので、緊張しながらも、彼女に話しかける。
が反応がない。風見は本を読みながら微動だにしない。
「あのー」
なんとかアプローチをとろうとするが、リアクションがない。
んーこれは無視されてるのか?それとも気づいていないだけなのだろうか?だとしたらすごい集中力だな。どちらにしても、職員室に用があるので鍵は俺が返した方が効率いいんだよなぁ。
「あのー風見さ……」
最終手段として仕方なく、本当に仕方なく風見の肩を持とうとした時、俺の手首が捕まれた。
「……」
「ぐほぉぉ!!」
次の瞬間、なぜか俺の視界は床を写していた。うずくまっていたのである。
何が起こったんだ?殴られた?なんで?
「急になに?」
視界を上にあげた先にいた彼女の声は、氷のように冷たく、体の底から凍るんじゃないかというほどだった。そして、ゴミを見るような目でこちらを見ている。
「いや、さっきから呼んでたんだけど……」
「そう、強姦魔かと思って投げてしまったわ。それで何か用?」
あまりに淡々と言われたので、聞き捨てならないはずの単語が、自然すぎて違和感がなかった。
「教室閉めたいんだけど」
「それならそうと早く言いなさい」
てめぇが無視してたからだろうが!
風見は読んでいた本を鞄にしまって、立ち上がってそのまま扉に向かって歩く。
「そうだ」
教室のドアに手をかけたところで、風見が立ち止まった。
「あなた、名前は?」
あれー?さっき自己紹介の時間なかったっけ?まぁいいや、俺もほとんどの聞いてなかったし。
「十川武久、よろしく風見さん」
「どうして私の名前を知っているの?もしかして本当にストーカーなの?」
まるで虫嫌いの人間がゴキブリを見るような嫌悪に満ちた目で、風見は俺の方を見る。
「HRの時自己紹介しただろうが……」
「あんなものまともに聞いている人いないでしょう。むしろ聞いているあなたが異常よ、おかしいわ」
「たまたま聞こえてんだよ、周りにとっては転校生ってだけで物珍しいから注目が集まるからな。別に俺が異常なわけじゃない」
というか人の話を聞くことは異常じゃない。はずだ。これで俺が罵倒されるのはおかしい、絶対おかしい。訴えてやるんだから!
「まぁいいわ、さようなら佐川くん」
この不毛なやり取りに飽きたかのように彼女ため息をついて、あっさりとドアに手をかける。
「十川だっつーの」
そう言い返した時には俺の視界から彼女はいなくなっていた。
風見弥生、なんて失礼なやつだろう。
「あーでも、初対面でブサイクって言われなかったのって久々だな」
そう気づいた瞬間に、彼女のことを変わり者だと思う辺り、俺は残念な人間なのだろうか。
ブサイクはブサイクだというだけで非難されるというのに慣れている。いや、慣れすぎているのである。初対面の時、まず最初に見るのが顔だ。口には出されなくても、人は自分に対する嘲笑には敏感だ。相手の表情などで大体バカにされてるっていうことはわかってしまう。
だが、風見にはそれが見えなかった。ゴミを見るような目で見られることもあったが、それは俺の言動に、対してのことであって俺の顔に対してでは多分なかった。根拠と言っては弱いかもしれないが、ああいうタイプは思ったことをそのまま言うやつだ。確信しているわけではないが、風見は俺の顔に対してなんとも思ってないのだろう。いや、関心がないの方が正しいか。
「まだちょっと寒いな……」
鍵を閉めるために廊下に出ると、冷たい風が頬をなでる。朝と違って殴られた場所の痛みはない。
すると、桜の花びらが風に運ばれたのか、ヒラヒラと俺の足元に落ちてきた。窓を見ると桜の花がそれは見事に満開に咲いていた。
「きれいなことで……」
春の木漏れ日に柄にもなく風情を感じながら、俺は歩き出した。
てかあの人のパンチ力なんなの?強すぎない?