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第1章 *1 非凡かつ非日常は唐突にっ!

初投稿の処女作となります。拙い文章になるとは思いますが、末長くお付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。些細なことでも何かお気づきになられた点がございましたら、どうかご指導ご指摘ご鞭撻の程、よろしくお願い致します。また、作者自身が受験生のため、頻繁には更新できないかとは思いますが、そちらの方もよろしくお願い致します。

上品で気高くて、美しくて、いい匂いがして、……う〜んと。



思い付く限りの謝辞賞賛(しゃじしょうさん)の語を並べても、到底表すことの出来ないような、そんな"もの"、(しか)り人が君には思い付くだろうか。


我が口言で形容する事さえおこがましい。それを形容するくらいならば、そんじょそこらの数学の証明問題を解くことなんて屁でもない。


そんな存在が、君の近くにはあるだろうか。


世界遺産として名を馳せる、絶景たる自然が築き上げた名築(めいちく)?若き盛りの者達が血潮を(たぎ)らせるインターハイの決勝戦?



ノンノン。全く違うね。



それらは決して傷つけてはならず、見ることだけが許されたから遺産として残り、過酷な鍛錬を積み上げてきたからこそ、そこに成せたパフォーマンスとしての見せ物。



双方、共に素晴らしいことこの上ないだろう。見る者を圧倒し、その壮大さに引き込まれることだろう。死力を尽くしてぶつかり合う者同士の真髄を目にしたのなら、それはまさしく感動物だろう。



ーーだが、俺は思う。



絶景と呼ばれる世界遺産も、感動を呼ぶインターハイの決勝戦も、共に俺は見たことも経験したことも無い。


ただ釈然と、思うのだ。




きっと、それはかの遺産達をも軽く凌駕(りょうが)し、どんな者でも(とりこ)にしてしまうだろう、と。


この、秀麗たる、方の前には。





……はっ!な、何だ!今のは!


まるで意識が熱烈な信者の如くなっていた気がする!


くっ、くそ!だ、駄目だ。"こいつ"にこれ以上意識を持って行かれては……っ!。


もっと気を強く持たなければ……俺が、俺の心までもが屈してしまう。


ここで落ちるわけにはいかない!

か、体は占領されようが、我が鉄靱たる心は絶対に……。


……あっ。


……あっ、そ、そこ。イイ。もっと……上の方を踏んぅぅぅううう!


……。


って、あがぁぁぁあんん!初っ端からあかん!あかんやつや!

俺の心が折れる前に世間的な何かに対する俺が折れてしまう。



体を踏まれた男子高校生が悶え(えつ)る図なんて、どっかの地下競売に売りに出された同人誌だけで充分だ!



くそっ!俺はマゾでも何でも無いただの高校せええぇぇああああ!



そ、そこはだ、だめええぇぇぇぇぇっっっ!





……かはっ。


ライフ全部持ってかれたぜ……。俺は、こんなに踏まれて逝けるなら……そ、それは……本望……って、



あかーーーーーん!



な、何が悲しくてこんな清々しい5月の頭から激しいSMを二回三回も繰り広げなきゃなんないんだよ!


ほ、本当に何か、猥褻物陳列罪(わいせつぶつちんれつざい)とか何かで捕まってしまう。いや、実際には何も陳列はしていないけども。


もし仮に今の俺の心の内を覗いている君!違うんだ!俺はマゾでも何でもない!

ただの清純たる男子高校生です!純情少年ですから!



俺はそんな者はいないと分かっていても、どこかで聞いて見ているかもしれない我が心の読者様に向かって盛大な身の潔白の証明をしてみた。


だってそうだろう。その読者様達は俺の心の声を小説の如く読み進めているに違いないのだから。小説の初っ端から主人公がハードなSMプレイをぶっ放したとなれば、確実にBANされる。

それだけはご勘弁願いたい。まだこの人生を終わりたくないもんでね。



そして、この阿保らしい自己語りの5秒後に、俺は否応(いやおう)なく現実へと引きずり戻らされた。



再来する、我が肢体を襲う甘い果実の如き痛み。的確に我が(何かの)ツボを刺激する微妙なタッチ。



もう、クセになっちゃ……。

「ねぇ、聞いてるの?さっきからKONOYONOOWARI見たいな顔して私に踏まれてるけど。いい加減やめてくれないかしら。その満員電車で猥褻行為を行う中年男性みたく激しく気持ち悪い顔面を晒すのは」


突然響いたのは、音階でどれに当たるか、などと問われれば間違いなく最上高音を示してしまうような、甘いソプラノボイス。


こんな天使のような甘声で、それもささやくように甘い言葉をかけられようものならば、瞬時に野獣と化す自信が湧いてくるような、そんな声色だった。


だが響いたのは、甘い仮面を被った鬼の如く攻撃力を持った一撃だった。


……っておい!某人気男女四人組アーティストと中年男性を同じ例えにするのはやめろ!


て、誰が激しく気持ち悪い顔だよ!そこまで酷く悶えては……。



だが、そこである疑問が生じる。



何だ?今の状況は。


さっきから時折我が肢体を襲う(エロチックで)激しい痛みは?耳に響くこのとろけるようなソプラノボイスは?


そして、なぜだか、全身がうんとかすんとも言うどころか、1ミリも動かないのだが。



「説明しよう。僕は現在絶賛SMプ「んぐぅっ!ぐぐぐっぅっっうう!」


そんなわけあるか!大いに誤解をお招きする代弁はやめろぉぉぉおお!

てか、俺の心をナチュラルに読み取ってんじゃねーよ。


俺は響くソプラノボイスにそれこそ被せて否定してやる勢いでツッコミを入れた……つもりだった。


だが、我が口部から放たれた渾身のツッコミ達は(ことごと)く解析不能な呻き声に姿を変えた。


それもそのはずだ。口にはそれ系の漫画とかでよく見る、猿轡(さるぐつわ)と来たもんだ。おかげで言葉の一つも発することが出来そうにない。



……明らかに拘束というやつである。


そして、幸か不幸かは分からないが、目だけは塞がれておらず、可能な限りで視野を広げてみる。


まず、視界の向きがおかしい。どうやら俺は寝転がっているようだ。

いや、それはまぁ体の感覚で分かるのだが。


それと同時にあることに気付く。


……この床。


学校だ。それもあまり普段は使用しない選択教室とかいうものだ。それに明るい。まだ昼頃というわけか。


確かここの鍵は一つしかなく、内からの解錠、施錠は出来ず、それゆえ使おうにもどうも勝手が悪くあまり使用されない結果となった。


なんで、こんなとこに。


そして、そこから導き出されるのは拘束という状況に加えて、監禁も加わってしまったということだ。



監禁拘束SM。


一体いつから俺はそんなファンタジックでデンジャラスな性癖に目覚めたのだろうか。



(いな)


それも相手がいなければ始まらない。監禁も、拘束も、果てはSMも。

いや、俺は全く持って好きこのんでこんな事してるんじゃないんだけどね⁉︎


仰向けになっている我が肢体の側面を、容赦無く踏みつける忌まわしい足の持ち主を再度目視しようと、俺はできる限り首を後方に捻ってみる。



そこにいたのは、まるで雪のような純白の足がスラっと伸び、黒を基調としたセーラー服に身を包んだその華奢なシルエットは、やはり女性独特の柔らかなイメージを感じさせ、出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでいる。


髪は濡れたかのように(つや)やかで、一切の鮮やかな色彩も乱すことのない黒髪は腰まであるロングだった。


抜群のスタイルの少女がそこにいた。


きめ細やかな、本当に美少女と呼ぶに相応しい容姿も体躯もした少女がそこにいた。


よく分からないが、アキバ?的に言うのであれば、"マジ天使"。


なぜごく一般高校生であるはずの俺の背中を、こんな天使様が踏んでいるのだろう。はっきり言って至福すぎ……って違う違う。



「何かしら。その舐め回すかのような下品この上ない穢れた目付きで見られると、私も困るのだけれど」



前言撤回しよう。この女は天使どころか邪知たる魍魎(もうりょう)の魔王だった。



そして、魔王はその冷徹な目を細め、勇者をあざ笑うがの如く、足技(攻め)を繰り出した。



「ん?で、どうするの?私のお願いは聞いてくれるのかしら、九郎薙斗くん」


先にも増してその美脚から放たれる、恐らくドSという属性の打撃性魔法が我が肢体側面にヒットする。こうかはばつぐんだ。

おっふ。


言ってる場合か。


「ふふ、私の手先になるなら世界の半分をあなたにあげるわ。さぁ、返事の答えを」


魔王のテンプレ的発言をかましながら、魔王様は俺こと九郎薙斗の猿轡を強引に引き剥がした。答えろということなのだろう。


ちょ、口に引っかかって痛い!あとなんか、長時間こうして咥えさせられていたわけだから、もの凄く顎も痛い。


「さぁ、時間が無いわ。答えて。私と共に……」



ーー思えば、俺の本当の物語は、ここから始まったのかもしれない。


世界を巻き込んだ超常現象の渦中に巻き込まれ、覆り、歪んでいく。その始発点に。



平行世界(パラレルワールド)へ、そして命をかけた戦争に」



魔王様はグッと手を差し伸べてきた。僅かなセーラー服の隙間から豊満な胸が覗く。


……いや行きたくねぇ。行きたいわけねーだろ。そして、その手も絶対取らないけどもまず状況的に取れねぇよ。


身体が拘束されているのも忘れて次元を3個くらい超越した問いかけが降ってきた。

某ネコ型ロボットもビックリだ。



「そこに、あなたが望むものがある。私は保証する。あなたは絶対に来て良かったと思うはずよ。だから……」

「悪いが断る」


俺は彼女の口言を切るように否定する。


平行世界?戦争?


はっ、笑える。そんなものがあるはずが無い。どこの物語のお話だ。


「狂言ならやめて他に当たってくれ。あいにくこちとらそんなお遊びに付き合ってる暇は無い。それに俺は……」

「……私には、私には……あなたが必要なの。他の何にも代えられない、あなたでなければダメなの!狂言?そう思ってくれて構わない。けれど、私にはあなたでなければいけない!私の"(きみ)"になって!」




……急にS嬢兼魔王様から求婚じみた暴投を投げつけられた。

なんだこのテンションの違い。さっきとはまるで別人じゃねぇーか。芝居か。

え、まず王って何。手先になれとか仰って無かった?


美少女天使が仲間(奴隷(眷属))になりたそうにこちらを見ている。

仲間にしますか?《天使Lv70》

◇はい

いいえ


俺の脳内でアウトなゲームの選択肢みたいなやつが出てきた。いや、括弧(かっこ)を被せるな。仲間でいいだろ。

てか強ぇな。ボスキャラ並かよ。まずこんな強いやつを手懐けられる気がしない。なんか逆に従わされそう。いや、マジで冗談にならなぇ。


だが自分が従わされようが美少女というだけでソッコー迷いなくはいを押すのがゲームでの俺だが……。


現実は違うのだ。つまり、ここではいを押すとこの美少女天使の、平行世界とか戦争とかが出てくる危ないおままごとに付き合わされる羽目になるのだ。それに加えて一生奴隷かもなんておまけ付きだ。どんなに金を積まれたって人生をドブに捨てる気は無い。


答えは決まっている。


「悪いが俺は「お願い!何でも言うこと聞くから!私の……ご主人様になって!」


抱きつかれた。それはもう、なんと言うか、この世の……花園が見えた。

身体に押し付けられる破壊力抜群の二つの山。

ご主人様と呼んでくる、さっきまではドSだった絶世の美少女天使。


そして、俺は……負けた。もう、平行世界とか戦争とか、奴隷とか正直どうでも良かったのかもしれない。背中に押し付けられた柔らかな二つのお山に俺は全神経を集中させていた。いや、奴隷はあんまりよろしく無いが。

瞬く間に、そんな非日常は俺の頭からすっかり消失していた。



ただ、この時から、俺の人生が大きく揺れ(ひず)み、傾いていくとは、知る(よし)も無かった。


そして、その天使ちゃんの口が、まさにしてやったりと言わんばかりに三日月型になっていたことも……。それもそうだろう。



だってこの女は、真性のサディストなのだから。


デレる?はん。そんなの地球が滅亡したってありはしないだろう。



そしてここから、平凡な俺とドSな超絶美少女との、ごく非凡な非日常が始まった。

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