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荒んだ心
額にじんわりかいた汗を拭ってくれるかのように
夏の心地よい風が通り抜けていく。
高校受験に追われている僕には
こんな些細な風までも幸せに感じてしまう。
両親は弁護士。そこそこ裕福な家庭に生まれ、
そこそこ綺麗な容姿に生んで貰った僕は
周りの人間から観たら、「幸せ」なのだろう。
しかし、そんなことは決してあるはずがない。
どんな人間にも悩みはあるもの、そして尽きないものなのだ。
僕の場合は、両親からの圧力。
いわゆる、プレッシャーというやつだ。
「完璧な息子」
これが両親の口癖。
物心ついた時には塾に通っていて
「秋人はあの子の分も頑張るの。」
そう言われて生きてきた。
「…あの子って誰なの?ママ…」
まだ幼かった僕は純粋に知りたかった。
「…」
しかし母親は顔を曇らせただけで、何も答えようとはしない。
聞いてはいけない事なんだと、物分りの良い振りをした。
それからは一度も尋ねることはしなかった。
勿論、今でも「あの子」が誰だかわからない。
誰かもわからない「あの子」の分も僕は
頑張らなければならない。
「こんな生活、もう終わりにしよう。」