プロローグ
僕は君のためだけに歌を届けよう
君のためだけに歌おう
僕のすべてを君に捧ぐから
たとえば君が寂しいときは
僕は君のために優しい歌を歌おう
たとえば君が僕の名を呼ぶときは
僕は君を一番に優先しよう
たとえば君が記憶を亡くしたときは
心を亡くしてしまったときは
僕だけは君を想っていよう
哀しかったら呼べば良い 僕の名を
痛かったら泣き叫べば良い 僕が肩を貸すから
辛かったら僕のところにおいで
切なかったら僕と一緒に鼻歌を歌おうよ
ヤなこと全部吹き飛ばして
明日のチカラにしてしまえば良い
そうして僕らは強くなれるから
僕は君のためだけに歌を届けよう
君のためだけに歌おう
僕のすべてを君に捧ぐから
ヤなこと全部吹き飛ばして
明日のチカラにしてしまえば良い
そうして僕らは強くなれるから
僕は君のためだけに歌を紡ごう
君のためだけに歌うよ
僕のすべてを君に捧ぎたい
「良い歌ですね」
沢山の拍手を浴びながら、少年は声のした方向を振り向く。さっきまで曲をずっと聞き入っていた少女はしゃがみこんで晴れ晴れとした表情で少年を見た。
「ありがとうございます。嬉しいな。」
「私、この歌好きです」
少年が顔を綻ばせると、少女も釣られて微笑む。夕方の空の下影が伸びてゆく。ぱらぱらと街灯がつき始めた。少女以外に曲に聞き入っていた客たちも疎らになってゆく。
「優しくて、明るくて、…でもどこか切なくて。心に染みる良い曲ですね」
「気に入っていただけたなら光栄です。…思い入れがあるので」
「そうなんですか…素敵ですね」
からん、と石の転がる音が聞こえたので二人はほぼ同時にその方向を見やった。少年の後ろでにゃお、と鳴きながら猫が毛繕いをしていた。少女は「可愛い猫ですね」と手を伸ばす。猫は逃げることなくふわりと撫でられる。
「飼い猫ですか?」
「あぁ、いや…僕の猫じゃないんですけど」
「でも、すごく懐いてますよ?」
そう言われて少年が視線を戻すと、猫は少年に擦り寄り、ごろごろと喉を鳴らしていた。
「よく知らないうちに猫が寄ってくるんですよね…。凄いときは50匹くらいに同時に囲まれたこともあるんですよ」
「えぇ、本当ですか?」
「本当ですよ」
言いながら、少年は自分に懐いている猫の頭を撫でてやった。猫は嬉しそうに鳴く。
「きっと、おにーさん猫の仲間だと思われてるんですよ」
「そうですかねぇ?」
「それか、猫が寄り付くようなフェロモンを知らないうちに振りまいちゃってるとか」
「だったら、すごいですねぇ」
「えぇ、すごいですね」
猫は安心しきった表情で少年のひざの上に乗っかり、すやすやと寝息さえ立てていた。少女が嬉しそうに「猫ちゃん」と呼んだ。
少年は楽しげにギターとピックをケースに仕舞いこみ、横にそっと置くと、猫を起こさぬよう静かな声だけで自曲を口ずさんだ。少女はそれに気づくと、幸せそうに目を閉じて曲に聞き入った。
僕は君のためだけに歌を届けよう
君のためだけに歌おう
僕のすべてを君に捧ぐから
ヤなこと全部吹き飛ばして
明日のチカラにしてしまえば良い
そうして僕らは強くなれるから
僕は君のためだけに歌を紡ごう
君のためだけに歌うよ
僕のすべてを君に捧ぎたい