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Albumblatt  作者: ホワイト
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父帰る



満員電車に揺られること四十分、まもなく自宅の最寄り駅に着く。

今日の仕事を終えたという心地よい疲労感が体を満たしている。家で待つ家族とのやりとりも楽しみだ。なにより、今日はとっておきの秘密兵器を用意しているのだから。


『次は~、水川、水川です。お出口は左側です。快速電車はお乗り換えです。お忘れ物ないようご注意ください。』


車内放送が鳴ってから少しして、列車は駅へと滑り込む。ホームは、会社帰りのサラリーマンたちであふれかえっている。人群れが成す行列の後ろについてのろのろと階段を下り、改札口を出ると、私は駅前にあるデパートへと入って行く。


地下の食品売り場で用事を済ませると、バスロータリーで各々が乗るバスを待つ人々を横目に、横断歩道を渡った。


 そして、しばらく大通り沿いに歩いて、自宅がある住宅地へ入る道を曲がる。さすがに歩いている人の数がぐっと減り、車はほとんどやってこない。この住宅地の一つの売りが、この夜の静けさである。そこでは静けさのキャンバスを背景にして、どこかの家から聞こえてくる、子供に宿題をやるよう急かす声、食事中なのか、賑やかな家族の会話、テレビの音、そしてあちこちの家から漂ってくる夕食の匂い……これは焼き魚、こっちはカレーだな……がやや控えめにそのキャンバスを彩っている。


 もうすぐ家につく。我が家はもうすぐそこに見えている。 ……おや? ピアノの音が聞こえる。 ……ああ、そうか、お隣の彼か。間違いなくうちの娘ではないな。娘には悪いが、お隣の彼は素人の私が聞いても分かるほど段違いに上手い。この曲は……いかん、曲名を忘れた。そろそろボケが来たかな? まぁ『自覚しているうちは大丈夫』という言葉もあることだし、大丈夫だろう、多分。


 そして、我が家の呼び鈴を鳴らす。インターホン越しに、妻が『おかえりなさい、ちょっと待ってて』と言う。その直後、妻が下の娘を呼ぶ声のあと、玄関の明かりがついて、鍵が開けられる。

「おかえり~、パパ~」

「ただいま。」

ああ、娘の笑顔でこんなに癒されるとは……これでとっとと居間に引き返さないでくれたらもっといいのに……

そして、家の中に入ると、ちょうど階段を下りてきた上の娘からも返事が返ってくる。

「おかえりなさい」

そして、上の娘もそのまま居間に入ってしまった。

……娘たちよ、せめて父親に「おつかれさま」とかなんとか言ってくれ……

まぁ、それは気にしないことにする。そして、とっておきの台詞、今晩は私がこの家のヒーローとなれる台詞を言うべく、一呼吸おく。


そして、とっておきの台詞を言い放つ。



「みんな~、デザートにケーキ買ってきたぞ~!」



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