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to live  作者: シロガネ
2/4

2 血と雨が降る



 来ないで


 来ないで!



 なんでこんな日に限って“人間”が来るの



 なんでこんな日に限ってこんな奴らが来るの



 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


 来るな来るな来るな来るな!




 わたしを好奇な目で見ないで!



 私をどこかに連れて行こうとしないで!





 そんな……そんな……

 お願いだから去ってよ





 わたしを生かさないで……












 その後。

 琉貴は、とある事情により自宅で情報収集をしていた。

 雨の暴れる音が響く部屋に、カタカタとキーボードの音が交わる。

 しかしどれだけ裏サイトをまわっても、“改造・人造人間”や“(やく)”、“臓器売買”など別の犯罪ネタの情報にばかりひっかかってしまう。

 昼間から始めた筈だが、外はもう街灯に灯が点り始めていた。

 さすがに疲れてきて、目を擦り小さく欠伸をする。

 と、そのとき。

 コンコン。

 静寂を打ち破る音がドアの奥からした。


「……とお、か?」


 振り向き声をかけると、

「うん」

 ドアを開け、“とある事情”の張本人であるパジャマ姿の小さな影が入ってきた。

「どうした? なにかあったのか」

 ギィ……と椅子を動かし彼に向き合うと、

「今さっき、おにーちゃんに電話来てた。(けい)ちゃんの名前が表示されてた」

 熱のせいで少し潤んだ、兄と同じ銀の瞳を向けてくる。

「秋本警部が?」

 琉貴は、そうかありがとう、と携帯を受け取りリダイヤルする。

 すぐに聞こえてきたのは、秋本の震える声だった。

『琉貴君? いきなりごめんね。……でも、さっきから凄く嫌な予感がして止まらないんだ』


 とたんに琉貴の心臓が飛び跳ねた。


「どうしました?!」

 反射的に立ち上がり、必死に呼びかける。

『分からない。だけど今夜何かがあると思う。ボクらの担当じゃない事件かもしれない。でもさ、だからといって……』

 ほっとけないよ、語る涙声に琉貴は、

「分かりました、すぐ外を見回りに行きます……!!」

 彼を励ますように叫んだ。

『ありがとう。ボクも外にいるから何かあったら連絡してね……』

 それから遥に手短に謝ると、何も羽織らないまま拳銃と携帯をバッグに入れ、外に出て行った。



 玄関を境に一気に襲いかかる豪雨。

 それを無視してバシャバシャと走り抜けていく。


 不安と恐怖。


 琉貴の心の中の全てがその色で染まっていた。

 こんな雨の中にまで起こる事件なんて正気の定ではない。

 一刻も早く見つけないと……。


 一般人が恐怖一色に染まる。


 それは分かっているのに。

 息切れがしてきて、体が言うことを聞かない。

 路地は夜と雨のせいで視界を隠す。

 雨の音が聴覚をも奪う。

 事件の証拠も流す。

 雨粒が余計に体力を奪う。


 彼の心に絶望の影がさしかかったとき。


「……はっ……!」


 信じられない光景が、目の前に広がった。










 痛い……



 痛いよ……




 体中が悲鳴をあげてる



 特に

 頭、割れるように痛い



 血が無くなるのを感じる





 ぁあ……


 でも


 お腹いっぱいだ



 だけど

 もぅすぐ出血多量かなんかで死ぬんだろうな




 ばいばい

 この世……




 最後に不必要な食事をした

 私を許してください……











「……これは…………」

 言葉がうまく出てこない。

 思考が働かない。

 秋本の言葉がよみがえる。


“死体はみんな、どこかえぐられてたように欠落しているんだって……。ほぼ体が無くなってるのもあったらしいよ。まるで……”


 そう、あの時猛獣に襲われたようだと言われた。

 まさにそうだった。


 得体の知れない化け物が獲物をいたぶり殺して、ゆっくりと食事をした後は、このようになるのだろう。

 というか本当にそれが真相なのかもしれない。



「……」

 しばらく雨に打たれ、やっと冷静さを取り戻した。

 恐る恐る1歩ずつ近づいてみると、ぴちゃぴちゃと雨と共に誰かの血も飛ぶ。

 死体は、3つだった。

 3つとも、体のほとんどが無かったり千切れていたりしていた。

 そして地面に、助けを求めようとしたであろう携帯と、それを持った腕のみが転がっていて。

 目玉が近くに落ちていた。

 いくら血に慣れていても、気持ち悪い……。

 こんな状況では犯人はおろか、証拠さえ消えるのは時間の問題だ。

 その前に手がかりを見つけねば。

 彼は丁寧に死体をかき集め袋に入れ、微かなものでも手がかりを全てカメラにおさめ始めた。

 すると。

「……ん?」

 残りの1つの肉片の影に、もう1つ死体を見つけた。

 それはまだ少女と言えるくらいで。

 血だらけだが、体は何処も欠落していなかった。

「……なんでだ……?」

 明らかに死体の状態が違う。

 陰になっていたから化け物の瞳から逃れられたのか……。


「……馬鹿だな……もうちょっと、生きていればよかったのにな」


 哀れみの言葉をかけ、傷の深さや死因を見るために、そっと触れた。

 と、ピクリ、と少女の手が動く。

「生きてる!?」

 抱き上げると、異常な軽さに更に目を見開いた。

 華奢、というどころではない。

 明らかな栄養失調だった。

「……っくそ!」

 考えるより先に、体が動いてしまった。

 胸元にその子が冷えぬようにとしっかり抱きしめ、琉貴は雨の中を走り去っていった。












 歯車が噛み合った


 2人は出会った


 もぅ後戻りは出来ない


 彼は彼女の世界に


 彼女は彼の世界に


 巻き込まれていく……






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