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『元転生勇者だけど魔王討伐に惨敗して無職になったので、魔物専門の精肉店を始めたら美味くて滋養があると大繁盛!〜なお、一番美味い食材は魔王の模様〜』  作者: 藤台団二
【第1章】勇者廃業、そして実家の精肉店へ

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第一話(前編):勇者、廃業する。

初めまして、異世界精肉店へようこそ、ご来店いただきありがとうございます!


実家がお肉屋さんの転生勇者カイトが、

最高にポンコツで愛すべき仲間たちと織りなす最強お肉屋さんファンタジー、ここに開幕です!


まずは前編からお楽しみください。

「すまない、カイト……!


私の、私のせいで……っ!


あんな、あんな恐ろしいものが世界に存在していいわけがないのよぉぉぉ!」


「うおぉぉん!


俺の、俺の渾身の一撃が掠りもしねぇなんて!


親父、俺はとんでもねぇ無能だ! 面目ねぇぇぇ!」


「当たらない……


ボクの最高密度の極大魔術が、

なんで一発も当たらないんだよぉ!


計算は完璧だったのにぃぃぃ!」


「うるさいわねあんたたち!


私だって、


私だってあいつの顔を見た瞬間、


頭が真っ白になって突っ込むしか……


うわぁぁぁん! 悔しい、悔しいよぉぉぉ!」


地獄の底のような、


あるいは壮絶な修羅場のような大号泣の合唱が、薄暗い洞窟の入り口に木霊していた。



泣き喚いているのは、いまや人類の希望の星、あるいは最終兵器とまで謳われていた若き天才たちである。


涙と鼻水でぐしゃぐしゃの美貌を歪めているのは、

教会史上最大の聖気を持つと言われる天才聖女マリア。



地面を拳で叩き割らんばかりに号泣しているのは、

帝国騎士団長の息子であり、生まれながらにギガントゴーレム並みの怪力を誇る重騎士ラインハルト。



杖を抱きしめて体育座りで咽び泣いているのは、

王立魔導院を歴代最年少で首席卒業した神童、第三王子ルシウス。


そして、

愛剣の柄を握りしめたまま烈火のごとく怒り、

次の瞬間には子供のように涙を溢れさせているのは、

隣国の男勝りな第一王女シア。


世界を救うために集められた、最高峰の英雄候補たち。


彼らがなぜ、このように見るも無惨な姿で泣き叫んでいるのかといえば、理由はただ一つ。


――先ほど、魔王討伐に挑んで、文字通りの『歴史的大惨敗』を喫したからである。


「みんな、落ち着いてくれ。


生きて戻れただけで、奇跡みたいなもんだからさ……」


俺――カイトは、

ボロボロになった聖剣(国から支給されためちゃくちゃ高いやつだが、

いまや刃こぼれだらけだ)を地面に置き、疲れ果てた体を岩壁に預けながら、

深く、深いため息をついた。


みんなの気持ちはよく分かる。


勝てると思って挑んだのだ。


人類の命運を背負って、

さんざん国中から壮行会で煽られて、

鳴り物入りで魔王城の最深部に突入したのだ。


結果は、一太刀も浴びせることができず、

魔王の放った最初の一撃(たぶん、挨拶代わりの軽いジャブのようなもの)の余波だけで、

パーティが半壊した。


命からがら逃げ出せたのは、

ひとえに俺の転生特典である『無限浄化』を、

防御障壁代わりに全開にして瘴気を相殺し続けたからに他ならない。


だが、冷静に振り返ってみよう。


俺は、心の中でそっと、

自分たちのパーティのステータスと『戦犯ポイント』を指折り数えてみた。


まず、聖女のマリア。


彼女は回復と結界の能力に関しては右に出る者がいない。


いないのだが――信じられないほど、本質的な部分で『臆病』だった。


普段は清楚で凛とした聖女様なのに、いざ命のやり取りが始まる戦場という場所に立つと、恐怖のあまり完全に理性を失ってしまうのだ。


「いやぁぁぁ!


来ないでぇぇぇ!


ズタズタのボロボロになっちゃうゥゥゥ!」


と叫びながら、


味方へのバフではなく、大事な聖水が詰まった水瓶を魔物に投げつけてしまう。


当然、回復の連携など崩壊する。


次に、騎士団長の息子、ラインハルト。


彼は生まれた時から大岩を軽々と持ち上げるほどの怪力を持っていた。


持っていたのだが――致命的に、不器用だった。


彼の剣技は、どれだけ訓練しても大振りで、

当たらなければ意味がないの典型例だ。


魔王の俊敏な動きに対し、彼の渾身の一撃は空気を激しく切り裂くだけで

周囲の地形を無駄に破壊するだけのダイナマイトと化していた。


そして、第三王子のルシウス。


彼は全ての属性魔術を瞬時に構築できる、まさに魔法の天才だった。


だったのだが――驚くほど、コントロール(命中精度)が悪すぎた。


「これぞ我が一撃、受けるが良い!」


と放たれた極大火炎魔術は、魔王の遥か十メートル右側を通り過ぎ、

魔王城の立派な壁画を木っ端微塵に吹き飛ばした。


魔王も思わず「え? そっち?」みたいな顔で困惑していたのを俺は見逃さなかった。


最後に、隣国の王王女シア。


彼女は剣の腕前自体は、この若さにして達人の域に達している男勝りの剣士だ。


だが――絶望的なまでに、沸点が低すぎた。


魔王に「ほう、小娘か」


と一言煽られただけで完全に頭に血が上り、

「誰が小娘よぉぉぉ!」と叫んで、

パーティのフォーメーションを無視して単身で猪突猛進。


魔王のカウンターを食らって一撃で吹っ飛んできた。


そして、


そんな『才能の渋滞』でありながら、実質的な中身はポンコツ極まるパーティを率いていた勇者、カイト


俺の前世は、日本の寂れた商店街にある『カイト精肉店』の二代目になるはずだった男だ。


高校を卒業し、さあこれから親父の跡を継いで、

極上のバラ肉やロース肉を捌くぞと意気込んでいた矢先、

トラックに撥ねられてこの世界に転生した。


女神様からは


「君には勇者としての素質がある。特典として『無限浄化』のスキルを授けよう」


と言われ、気がつけば聖剣を握らされていたが、

前世の俺はただのお肉屋さんの息子である。


剣の修行は一応やったものの、

本物の戦場での戦闘経験なんてあるわけがない。

つまり、剣技に関しては完全に未熟な素人だった。


「……なぁ、みんな」


俺の呼びかけに、四人が涙目で一斉に顔を上げる。


「俺たち、一人一人のポテンシャルは確かにすごいと思うんだ。


でも……圧倒的に、連携が取れてないし、実戦の経験が足りなさすぎる。


今のままだと、何度挑んでも犬死にだ」


俺の言葉に、誰も反論できなかった。


彼ら自身、自分がどれだけ足引っ張りをしていたか、心の底では理解しているのだ。


「私……修業し直すわ。


教会の奥の院に引きこもって、

どんな恐怖にも負けない、

あるいは恐怖を力に変える術を身につけるまで、

二度とシャバの空気は吸わない!」



マリアが鼻をすすりながら、悲壮な決意を口にする。


「俺もだ……っ!


この不器用さを呪う暇があるなら、

どんなに素早い敵だろうが、

かすっただけで消し飛ばせるような、

超巨大な鉄塊でも振り回せるように身体を鍛え直してくる!」


ラインハルトが血の滲む拳を握りしめる。


「ボクも……


命中精度が悪いなら、

どこに撃っても必ず当たるような、

広範囲を完全に消滅させる魔法を開発してみせるよ。


もう絶対に明後日の方向には撃たない」


ルシウスが眼鏡をクイと上げながら、暗い炎を瞳に宿した。


「私は……


頭に血が上っても、

その勢いのまま音速を超えるスピードで突撃できるような、

超高速の剣技を体得してくるわ。


連携なんて関係ない、

私が最初に魔王を両断すればいいのよ!」


シアが愛剣を鞘に収め、力強く言い放つ。


……いや、みんな、なんか方向性が不穏というか、

欠点を克服するアプローチが力技に寄りすぎている気がするんだけど、大丈夫か?


「カイト、本当に申し訳なかった。


君という素晴らしい勇者がいながら、

僕たちの未熟さのせいで……。


僕たちは一度解散し、

それぞれの場所で死に物狂いで牙を研ぐ。

だから――」


ルシウスが、切なげな、

しかし強い信頼の籠った目で俺を見た。


「ああ。

みんなの関係が最悪になって別れるんじゃない。


今度は絶対に勝つための、前向きな解散だ。


お互いに、また会う日まで命を大事にしよう」


「「「「カイト……!」」」」


全員が泣きながら、

俺の手を順番に握りしめていく。


仲間との関係は本当に良好だったのだ。


だからこそ、みんな悔しくて、泣く泣くの解散だった。


彼らはそれぞれの国や組織へと、

命からがら逃げ帰るようにして、散り散りに去っていった。


こうして、人類史上最も期待されていた勇者パーティは、

結成からわずか数ヶ月で、

魔王に一度惨敗しただけで電撃解散することとなった。


仲間たちが去った後、

俺は一人、静まり返った荒野に立ち尽くしていた。


「さて……と」


手元に残されたのは、

ボロボロの聖剣と、

国から支給された「勇者認定証」という名の紙切れ一枚。


パーティが解散し、

魔王討伐の失敗が国に伝われば、

当然ながら勇者の称号は剥奪されるだろう。


つまり、現在の俺のステータスを一言で表すなら――。


「無職、だな」


前世でもニートは経験していなかったが、

異世界に転生して、

世界を救う英雄から一転して無職になるとは夢にも思わなかった。


だが、不思議と俺の心は晴れやかだった。


ぶっちゃけ、戦闘経験ゼロの一般家庭の息子が、

いきなり世界を救えと言われて聖剣を持たされている状態の方が異常だったのだ。


荷が重すぎた。


これからは、誰に文句を言われる筋合いもなく、

自分の生きたいように生きられる。


「無職になったし、戦闘は向いてないってことも分かった。

なら……俺のやるべきことは、一つだけだな」


俺は、自分の手のひらを見つめた。


そこには、前世で親父の背中を見ながら覚えた、

包丁を握るための微かなタコの名残があるような気がした。


この世界には、美味い肉が少ない。


特に『魔物』の肉なんてものは、

凶悪な瘴気が含まれているため、

人間が食べれば一発で身体が汚染されて死に至るか、

魔物化すると言われている。


だから、

冒険者たちが狩った魔物の死体は、

一部の素材を除いてほとんどが廃棄されるか、その場に放置されていた。


だが、俺には女神から授かった、世界で唯一無二の能力がある。


『無限レベルの浄化魔法』。


これが何を意味するか。


世間一般の聖職者が使う浄化は、

毒を消したり、アンデッドを退散させたりする程度だ。


しかし俺の『無限浄化』は、対象に含まれる悪意、呪い、

そして『瘴気』を分子レベルで完全に消滅させ、

対象を「本来あるべき最も純粋な状態」へと還すことができる。


つまり――。

魔物の肉から瘴気を完璧に抜き去り、

人類が安全に、

それどころか極上の食材として食べられるように加工することができるのだ。


「よし、実家の跡を継ぐか。

いや、こっちの世界には実家はないから


……新しく始めよう。


魔物専門の精肉店を!」


勇者を廃業した俺の、第二の人生の方向性が決まった瞬間だった。


(後編へ続く)

第一話(前編)をお読みいただき、本当にありがとうございました!


涙の解散を経て、ついに自分の生きる道を見つけたカイト。

後編では、無職になった元勇者が始めた「魔物専門の精肉店」が巻き起こす大ブーム、

そして意外な押しかけ看板娘が登場します!


【読者様へのお願い】

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