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第6話 泥沼の仲間割れ

金の切れ目は縁の切れ目。 家を失い、お金もないとわかった瞬間、彼らの「真実の愛(笑)」はどうなるのでしょうか。


安全な場所からの高みの見物は、最高の娯楽ですね。


 春斗におやつを食べさせてリビングで落ち着かせた後、私はキッチンの隅にあるインターホンの親機へと向かった。  外からはまだ、ギャーギャーと揉める声が聞こえる。近所迷惑もいいところだ。


 私は「通話」ボタンを押さずに、そっと「モニター」ボタンを押した。さらに、証拠を残すためにスマホを取り出し、ボイスレコーダーのアプリを起動させた。


 モニターに映し出されたのは、門の前で立ち尽くし、互いに顔を真っ赤にして怒鳴り合う男女の姿だった。


「ちょっと! 『あとで考える』って何よ! 今夜泊まる場所もないの!?」


 里奈がハンドバッグを振り回しながら叫んでいる。


「うるせえな! 俺だって予想外だったんだよ! まさか美咲のやつ、あんな法律の知識を持ってるなんて思わねえだろ!」


「あんたが『相続放棄で借金チャラ、家は丸儲け』なんて夢みたいなこと言うから信じたんじゃない! バカじゃないの!? 詐欺よ、これ結婚詐欺!」


「誰が詐欺だ! お前だって『キャハハ、健太くん天才!』っておだててただろうが! お前がそそのかしたせいで、俺は家を失ったんだぞ!」


「はあ!? 人のせいにしないでよ! 自分で勝手に役所行ったくせに!」


 ああ、醜い。  画面越しに見る彼らは、まるで安っぽいコントのようだ。  レコーダーに吹き込まれる罵り合いは、後で聞き返して笑うための酒の肴にもなるだろう。


「だいたいねえ! あんたみたいな冴えないオッサンと付き合ったのは、この家と、そこそこの貯金があるって聞いたからよ!」


 里奈がついに本音をぶちまけた。  健太がショックで目を見開く。


「な……なんだと? お前、俺のことが好きだから一緒になったんじゃないのかよ?」


「ハァ? 鏡見て言いなよ。介護疲れか知らないけど、最近のあんた肌もボロボロだし加齢臭もするし、金がなけりゃただの粗大ゴミなのよ!」


「き、貴様……! よくもそんな口を……!」


「ああもう最悪! マンションの違約金と、新居用の家具の支払いで私の貯金ほとんど飛んだのよ!? どうしてくれんのよ!」


「お、俺だって手持ちは数万しかねえよ! 離婚の慰謝料だなんだって、定期預金解約しちまったし……」


 二人はそこでハッとしたように顔を見合わせた。


 そう、彼らは今、無職になりかけで、家無しで、金も無し。  「愛」があれば乗り越えられるかもしれないが、彼らの間にあったのは「欲」だけだ。切れ目は縁の切れ目、金の切れ目は地獄の始まり。


「……信じらんない。あんたみたいな疫病神といたら、私まで野垂れ死ぬわ」


 里奈が冷たく言い放ち、踵を返そうとする。  健太が慌ててその腕を掴んだ。


「お、おい待てよ! 里奈、俺を見捨てるのか!?」


「離してよ! 見捨てるも何も、もう他人でしょ! 慰謝料請求されたらたまんないし、私は実家に帰らせてもらうわ!」


「ふざけんな! お前だけ逃がすかよ! 俺は家族も家も捨ててお前を選んだんだぞ! 責任取れよ!」


「痛い! 離せって言ってんでしょこのセクハラ親父!」


 取っ組み合いの喧嘩が始まった。  里奈が健太の顔をバッグで殴打し、健太が里奈の髪を振り乱す。


 大の大人が、昼下がりの住宅街で繰り広げる修羅場。


 ……プッ。


 私はこらえきれず、吹き出してしまった。


 あんなに偉そうに「お前は用済みだ」と言っていた男が、今は若い女に「粗大ゴミ」呼ばわりされて縋り付いている。  「女として終わってる」と私を罵ったくせに、自分こそが「金づるとして終わってる」と捨てられそうになっている。  これ以上の喜劇があるだろうか。


 しかし、彼らの騒ぎ声はあまりにも大きすぎた。


 モニターの端、向かいの家の門が開くのが見えた。  斜め向かいの家の窓も開く。


 そう、ここは閑静な住宅街。  そしてこの時間は、井戸端会議が大好きな奥様方が、スーパーへの買い物に出かけたり、立ち話をしたりする時間帯なのだ。


 私はニヤリと笑うと、録音を停止して玄関へと向かった。  そろそろ、仕上げの「ご挨拶」をして差し上げましょうか。

「粗大ゴミ」 浮気相手からの評価は辛辣ですが、的確でしたね。


さて、そんな彼らのコント劇を、ご近所の奥様方が見逃すはずがありません。 この地域の名物、「最強の情報網」が火を吹きます。


次話、町内会レベルでの公開処刑が始まります。


(全話投稿済みです。続けてお読みください!)

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