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第5話 息子・春斗の冷ややかな視線

最後の悪あがきとばかりに、息子を盾にしようとする元夫。 「パパだよー」なんて甘い顔をしていますが、子供は親の背中をよく見ているものです。


小さな騎士ナイトの登場です。


 私が鍵を交換する業者の手配をしようとスマホを操作していた、その時だった。  インターホンが鳴るのではなく、玄関の外から騒がしい声が聞こえてきた。


「おい春斗! 春斗じゃないか!」


「え……パパ? その人は?」


「いいから、ちょっとママに言ってくれよ! パパを締め出すなんてひどいって!」


 ……最悪だ。  学校から帰ってきた春斗が、まだ門の前でグズグズしていた健太たちと鉢合わせしてしまったらしい。


 私は慌ててサンダルを突っかけ、玄関のドアを開けて外へ飛び出した。


「ちょっと健太! 春斗に触らないで!」


 門の前では、ランドセルを背負った春斗の肩を掴み、必死な形相でまくし立てる健太の姿があった。隣には、あからさまに不機嫌そうな顔をした里奈が腕を組んで立っている。


「おお、美咲! ちょうどよかった。ほら見ろ、春斗もパパと一緒にいたいって言ってるぞ!」


 健太は春斗を盾にするようにして、私に向かってニヤついた。  春斗はまだ小学5年生だ。父親がこんな必死な顔で頼めば、情に流されて「パパも一緒がいい」と泣きつく……健太はそう計算しているのだろう。


「春斗、パパはな、この家で新しい生活を始めようと思ってるんだ。この隣のお姉さんは里奈さん。優しくていい人だぞー。みんなで仲良く暮らしたほうが楽しいだろ?」


 健太は猫なで声で、春斗に同意を求める。  里奈も一応、愛想笑いを浮かべて「よ、よろしくね、ボク」と手を振った。


 私は春斗を守ろうと駆け寄ろうとしたが、その必要はなかった。  春斗が、健太の手を鬱陶しそうに振り払ったからだ。


「……ねえ、パパ」


 春斗の声は、驚くほど低く、冷めていた。


「なに言ってるの? 僕、全部知ってるよ」


「え? し、知ってるって、なにを……?」


「パパ、お爺ちゃんの介護、全部ママに押し付けてたじゃん。お爺ちゃんが夜中にトイレ行きたがって呼んでても、パパ『うるせえな』ってゲームしてたよね。僕、部屋で聞いてたよ」


 健太の表情が凍りつく。  子供は見ていないようで、大人の行動をしっかり見ているものだ。


「それに、お葬式のあと、ママのこと『汚い』って言ったんでしょ? ママ、お風呂で泣いてたよ」


 春斗は私の方をチラリと見ると、安心させるように小さく頷いてくれた。  そして再び健太に向き直ると、その瞳には軽蔑の色が宿っていた。


「自分の親の面倒も見ないで、ママをいじめて、そのうえ知らない女の人を連れ込んだパパなんて、僕いらないよ」


「なっ……! は、春斗、お前、何を……パパだぞ!?」


「パパだったら何? カッコ悪いよ。お爺ちゃんも言ってたよ。『健太は昔から自分のことしか考えない馬鹿だ』って。……本当だったね」


 グサリ、と何かが刺さる音が聞こえそうなほどの決定打。  しかも敬愛していた(と健太が思い込んでいる)父親からの遺言めいた悪口まで暴露され、健太は口をパクパクさせて絶句した。


 春斗はそんな父親に見切りをつけると、隣にいる里奈を一瞥した。


「おばさん」


「っ!? お、おばさん……!?」


 20代後半であろう里奈にとって、小学生からの「おばさん」攻撃は地味に効いたようだ。


「この家は僕とママの家だから。パパみたいな人と付き合うなんて趣味悪いね。……さようなら」


 春斗はそう言い捨てると、二人の横をすり抜けて私の元へ走ってきた。  私は春斗を抱きしめ、「おかえり、偉かったね」と頭を撫でた。


「おい、待てよ春斗! 俺はお前のために……!」


 健太がまだ何か言いかけたが、私は冷たい視線でそれを遮った。


「聞いたでしょ? これがあなたの息子の答えよ。……さっさと消えて」


 私は春斗の背中を押して家の中に入れ、二人の目の前で玄関のドアを重々しく閉めた。  ガチャリ、と鍵をかける音が、彼らとの本当の決別を告げる鐘のように響いた。


 ドアの向こうからは、「くそっ! あいつ、誰に似たんだよ!」という健太の怒鳴り声と、「ちょっと、子供にあんなこと言われて黙ってんの!? 情けなっ!」という里奈の罵倒が聞こえてきた。


 廊下で靴を脱ぎながら、春斗がふと私を見上げた。


「ママ、僕、生意気だった?」


「ううん。すっごくかっこよかったよ。ありがとう、春斗」


 私が涙ぐみながら微笑むと、春斗はようやく年相応の子供らしい笑顔を見せてくれた。


「うん! あんなパパいなくても、僕がママを守るからね!」


 頼もしい小さな騎士ナイトの言葉に、私は心の底から救われた気がした。    ――さて。  家の中はこれで平和が訪れたけれど、外の二人はこれからが本当の地獄の始まりだ。

春斗、よく言った! 「おばさん」攻撃は効果絶大でしたね。これで家の中の憂いは完全に断たれました。


しかし、外に取り残された二人はまだ揉めています。 そこへ、さらなる「追い打ち」が近づいてきて……?


次話、ご近所さんたちへの公開処刑(監視カメラ視点)をお送りします。


(全話投稿済みです。続けてお読みください!)

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