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第4話 不法占拠者はお帰りください

自分から捨てておいて、いざとなったら「ここに住ませろ」。 そんな図々しいお願いが通るわけありません。


不法占拠者には、それ相応の対応をさせていただきます。


 私の宣告に対し、リビングは凍りついたような静寂に包まれた。  先に口を開いたのは、顔面蒼白になった里奈だった。


「ちょっと……トシアキ……じゃなくて健太! どうすんのよ! 私、あんたが『広い家に住めるから』って言うから、今のマンションの解約手続きしちゃったのよ!? 今月末で出なきゃいけないの!」


 里奈が健太の胸ぐらを掴んで揺さぶる。  うわあ、自業自得とはいえ、なかなか悲惨な状況だこと。


「う、嘘だろ? もう解約したのかよ?」


「当たり前でしょ! 今日からここに住むつもりで荷物だってまとめちゃってるし、敷金も礼金も新しい家具の頭金に使っちゃったわよ! どうしてくれんのよ!」


 里奈の悲鳴のような怒号が響く。


 健太は脂汗をダラダラと流し、視線を泳がせていたが、やがて縋るような目で私を見てきた。  その目を見て、私はピンときた。ああ、こいつ、まだ甘ったれたことを考えているな、と。


「……なあ、美咲」


 健太が手のひらを返したように擦り寄ってくる。さっきまで「汚いババア」と罵っていた相手に対して、よくもまあそんな顔ができるものだ。


「……済まなかった。俺が間違ってたよ。法律の解釈をミスしてたみたいだ」


「みたいだ、じゃなくてミスしてたの。致命的にね」


「ああ、そうだよな……。で、だ。少しでいいから、この家に居させてくれないか? 次の住処が見つかるまででいいからさ」


 私はため息をつき、冷めた目で見下ろした。


「あなた、アホなの? なんで私が、離婚した元夫とその浮気相手と同居しなきゃいけないわけ? すぐに出ていけって言ってるの」


「いや、そう言わずに! もう引っ越し費用もきついんだよ! ほんの3ヶ月……いや、2ヶ月でいい! 頼む、この通りだ!」


 健太はその場で土下座でもしそうな勢いで頭を下げた。  それを見て、里奈もプライドを捨てたのか、「ねえ、私もお願い! 女同士のよしみで少しの間くらい置いてよ!」と訳のわからないことを言い出した。


 女同士のよしみ? 人の夫を寝取った女がどの口で言うのか。


「お断りよ。生理的に無理」


 私が即答すると、健太が逆ギレしたように顔を上げた。


「なんだよその言い草は! 俺はこの家で生まれ育ったんだぞ! 5年も俺の親父の世話になったくせに、少しの恩情もないのかよ!」


「恩情? あんた、私に『お前の介護は無駄だった』って言ったわよね? 自分から縁を切っておいて、困った時だけ家族面しないでくれる?」


 私はスマホを取り出し、画面をタップして通話画面を表示させた。


「……さて、何度言っても日本語が通じないみたいだから、然るべき対応を取らせてもらうわね」


「な、何する気だ?」


「何って、警察よ。ここは私の管理下にある家。そこに所有者の許可なく居座る人間は、ただの不法侵入者、あるいは不法占拠者でしょ? 警察官に来てもらって、つまみ出してもらうわ」


「け、警察!?」


 健太と里奈がビクリと肩を震わせる。


「ああ、それともちろん、弁護士にも連絡するわ。それと……健太、あんたの会社の人事部にもね。『不貞行為の末に家族を追い出そうとして、逆に自分がホームレスになりかけて元妻に不法侵入で訴えられている』って、相談してみようかしら?」


 会社、という単語が出た瞬間、健太の顔色が土色に変わった。  外面だけはいい男だ。会社での評判や世間体を何よりも気にする。


「や、やめろ! 会社だけはマジで勘弁してくれ!」


「だったら今すぐ消えて。二度と私の視界に入らないで」


 私が冷たく言い放つと、健太は悔しそうに唇を噛み締め、拳を震わせた。  しかし、これ以上抵抗すれば本当に社会的地位まで失うと悟ったのだろう。


「……くそっ! わかったよ! 出ていけばいいんだろ!」


 健太は捨て台詞を吐くと、里奈の手を引いた。


「おい、行くぞ里奈!」


「ちょっと、行くってどこに!? 今夜寝るところはどうすんのよ!」


「うるせえ! あとで考える!」


 ドタドタと足音を立てて、二人は玄関へと向かう。  まるで逃げ出すゴキブリのようだ。


「あ、ちょっと待って」


 私が声をかけると、二人がビクッとして振り返る。


「合鍵、置いていって。……それと、その鍵はもう二度と開かないわよ。明日にはシリンダーごと変えるから」


 健太はギリギリと歯ぎしりをしながら、ポケットから鍵を取り出し、床に投げつけた。  チャリ、と乾いた音が廊下に響く。


 二人が玄関から出ていき、ドアが乱暴に閉まる音を確認してから、私は大きく息を吐いた。


「……はあ、やれやれ。馬鹿の相手は疲れるわね」


 床に落ちた鍵を拾い上げる。  手のひらに残るその冷たい金属の感触が、私にとってはようやく手に入れた「自由」の重みのように感じられた。


 ――だが、これで終わりではない。  彼らはまだ、本当の意味で追い詰められてはいないのだから。

合鍵も回収し、無事にゴミ出し完了です。


しかし、まだ終わりではありません。 外には、学校から帰ってきた息子・春斗がいます。


次話、息子からの強烈な一撃が、父親面する元夫に突き刺さります。


(全話投稿済みです。続けてお読みください!)

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