魔法対決に敗れた私は呪われた辺境伯に嫁ぐ
よろしくお願いします。
「勝者、イチカ!よってジェームズ第一王子の婚約者及び白鷲魔法騎士団の団長はイチカとする!」
わあっという歓声と拍手が沸き起こり、イチカは輝く笑顔を浮かべた。やった、とうとう勝ったのだ!喜びで胸がいっぱいになる。良かったね、イチカ。
と、凛々しい姿のイチカが私に近付いて来て。
『ん?』
「ありがとう、お前というライバルがいなければ私はここまで頑張ることはできなかった。心から感謝するぞ」
そう言って私に手を差し伸べてきた。
咄嗟に手を伸ばすとイチカは強者の言葉遣いとはそぐわない、剣や杖なんて握ったことがないかのような美しい手で力強く握り返し、私を立たせた。
「遠く離れても、私達はいつまでも同志だ!」
「お、おう…?」
私の返事にイチカは私を力強く抱きしめ、その姿に観客はさらに沸き立つ。
「辺境に行っても元気でな、リッカ!」
私は近付いてきた護衛騎士たちに付き添われ、歓声に送られながらスタジアムを後にした。
「なんでこんなことに…」
辺境に向かう馬車の中で私、リッカは頭を抱えた。
ここはゲーム、『テッペン取るぜ!一花咲かせてもらいます』の世界。私が前世プレイしていたゲームだ。
前世というのはどうもこの世界に転生したらしいから。原因は多分熱中症。過酷な環境で働いた後で家に帰ったら古いアパートのエアコンが故障してて、でも疲れてたし夜中だったから涼しいデパートなんかにも行けなくて。
ああ…。
ベッドに寝転んで朦朧としながら直前にプレイしていたのが『テッペン』だった。
でもね、何も転生先がライバル令嬢じゃなくてもよかったじゃないの?主人公でさ?と思う。
まあ、主人公の名前が大好きな姉と同じ『一花』だったから変えずに、ライバルの方を自分の名前の六花にしましたよ?
それにしても、このライバル令嬢は強すぎて強すぎて本当に本当に倒せなくて、ナビ役の可愛いキャラクター、ソロモン君に励まされアドバイスをしてもらいながら、どうにかこうにかレベルをあげてパラメーターを調整して、101回目でようやく倒せたんだよ?多分100回超えたら起きると噂のお情けシステムが働いて倒せたんだと思う。
それでも、
「ようやく倒せて、ゲームクリアだ!」
…って思ったところでブラックアウトからの転生で、強敵になっちゃうなんて。酷い。
エンディングも見られなかったし、ここでもすぐに支度をさせられて両親と兄…これはゲームにも登場したから覚えている…に見送られながら馬車に乗せられたせいでイチカの晴れ姿は見られなかったし、行き先は『呪われた辺境伯』の屋敷だよ?私が強いからって護衛もできるっていう御者が一人しかついてこないんだよ?
「大体さ、イチカが幸せになるだけでいいじゃないのよ。なんでライバルのリッカが辺境に行くストーリーなの?ライバルなだけで悪いことなんて何もしてないのに…って、ああそうか…」
そこで思い出したのは、辺境伯は国を守る黒鷲魔法兵団の団長だということ。そしてイチカに続く力を持つリッカがそこで団長の妻となり国を守るのは理にかなっているということ。
でも、ゲームの中では主人公が辺境に行くことはなかったし、そもそも最後の試合で負けたら再度挑戦して勝つのがエンディングなのだから、そんなのあるわけがない。
「とうとう勝ったのに、負けた方に転生かぁ…。しかも、イチカに続く強さって言っても101回目のお情け勝利だから、本当は私の方が強いんだよね、多分…」
上げまくったイチカのパラメータのさらに上をいくだろう私の実力を体内に感じ、ちょっとだけ国の行く末が心配になったが、いや、今はそれどころではない。何と言っても名前もわからない設定だけだった『呪われた辺境伯』様に嫁がなくてはならないのだ。
「呪われたってどんな呪いなんだろう。誰に呪われたのかな。姿形が人間じゃないとかだったらいやだなぁ…ヌルヌル、グチョグチョしてたり、とか?無理無理!せめてフワフワした小犬系で!大きくてもモフモフならなんとか…クッ…やっぱり普通の人間であってほしい!」
これまでに読んだ様々な話を思い出して嫌な想像ばかりしてしまい、馬車の中で体調を崩し、途中の町で何度も休憩をとってもらった。御者は私に配慮してか、強いという噂に恐れをなしてか、距離をとっていて必要なことだけをやり取りした。
まあ治癒系の魔法もいけるので本当はすぐに体調は良くなったけど、なんとなく辺境に着くのを先延ばしにしていたというのもある。
だって怖い。ものすごく強い私だけど、でも、知らない場所に行くのは心細い。これから先はゲームにはなかったのだから。
ダラダラ進む口実に立ち寄った村や町で具合の悪い人の治療をしたり、魔獣の討伐をしたり、農地の土の改良をしたり、薬草から薬を作って常備薬として置いてきたり。
そんなことをしているうちにようやく覚悟も決まって、もう頑張るしかないという決意とともに辺境に着いたのは王都を出発してから3週間も経ってからだった。
「リッカ・デイリスキー公爵令嬢の到着!!」
馬車が着くと、辺境伯のゴツい屋敷の前に大勢の兵士が並び、号令に合わせて『ガイド伯爵領へようこそ!!ウォーー!!』と武器が掲げられた。びっくりしたが、まあ良かった。歓迎されているらしい。
それにしても『デイリスキー』って、『出入り好き』か、任侠か、と自分の家名を思い出し、微妙な心持ちで笑顔を浮かべながら兵士達に挨拶をする。歓迎されているなら応えなきゃね。
「歓迎に感謝します。そして、黒鷲魔法兵団のため、私も精一杯努力します」
にっこり微笑むと兵士たちは一斉に
「うわ、あの笑顔」「ま、眩しい…」「魔力すごっ!」
とどよめく。堅苦しくなくていいわ、とホッとする。
と、ここで屋敷の前に立っている人物に気がついた。背の高い、眼鏡をかけた黒目黒髪のその人が辺境伯だろうかと思ったが、訊けば執事だった。結婚相手は私を歓迎していないのか、と少しばかり悲しい気持ちになったが、すぐに執事が恭しく頭を下げ、
「リッカ様、ようこそおいでくださいました。国境の森に魔獣が出たためそちらにかかりきりで護衛も送らず大変申し訳ありませんでした。
…旦那様は魔獣討伐の後片付けに追われて今は執務室にいらっしゃいます。旦那様に会っていただけますか?」
と尋ねられたのでもちろんだと答えた。
良かった、道中ほぼ一人で寂しかったけどちゃんと理由があったんだと思った。まだわからないけど。
そうして、大きな暖炉のある、おそらく屋敷で最も立派な部屋に通された私はソワソワしながら待っていた。きっと本当はもっとどっしり令嬢らしく構えていないといけないのだろうけど、転生してから間もないもので。いろいろ習う状況でもなかったし。
と、扉が少しだけ開いた。が、そのままで誰も入ってこない。これは執事さんではないだろう。
外にいる誰かが入ろうかどうしようか迷っているような気配を感じた私はそーっと扉のところまで行くと、パッと開けた。お行儀は良くないが黙って様子をうかがっている相手だって同じだ。
大丈夫、私は強いんだから。そう自分に言い聞かせて。
果たして、立っていたのは、輝く銀の髪、紫の瞳、透き通るような白い肌の美しい子。私は息を呑むと、思わずしゃがみこんで彼の手を取った。
「やだ!ソロモン君じゃない!」
それはゲーム内で私をいつも導いてくれた、ナビ役の可愛いソロモン君だった。5歳くらいの見た目なのに話し方は大人びていて、そのギャップがまた人気だった。
私が手を取ったため、ソロモン君はギョッとしたようだったが、
「どうしてここにいるの?
あ、私の新しい人生が始まったから助けに来てくれたとか?
そんなの嬉しすぎる!新しい土地で心細かったし、ここで辺境伯様と仲良くできるか不安だったし、ソロモン君がいてくれるなら私また頑張れそう!
よろしくね!」
という私の言葉に
「あ…こちらこそ、よろしく」
とあの可愛い声で答えてくれた。可愛い!
それにしても嬉しい。地獄で仏と言ってもいいほど。だってルートで悩んだ時、パラメータの調節で苦労した時、アイテムの使い方がわからない時、いつだってソロモン君は助けてくれた。
「本当に会えて嬉しいよ!
私ね、勝負で負けたのもここに来ることになったのも最初はショックだったけど、今はもう納得はしているし覚悟はできているの。
でも、ガイド辺境伯様が私を大切にしてくれるかはわからないから…
ソロモン君、私、どうしよう、勝負に負けたお前なんていらないって言われたら。そうしたら私はもう行くところなんてないよね」
ソロモン君に話しているうちに、決まっていたはずの覚悟が揺らぐ。ちょっと涙が出てきた。
転生してからこっち、ずっと不安な中頑張ってきたから。でも、ソロモン君の手を握ったまま片方の袖口でグイッと拭いて、頭をブンブン振って続ける。
「ううん、そうなったら兵士の一人としてここで雇ってもらう。
それくらいきっと許してくれるよね。
まさか追い出したり…いや、黒鷲の団長だもの、戦力を放り出すなんてことはしないと思う」
弱気になっちゃダメだと自分を奮い立たせる。
「私、またソロモン君の言うことを聞いて頑張るから。
ガイド辺境伯様に見捨てられないように。だからいろいろ教えてね!
そうだ、辺境伯様の呪いを解くための方法も考えよう。そうしたらここに置いてもらえるかもしれないもんね!」
ソロモン君の手を握りしめながら、自分自身に言い聞かせていたその時。
「あっ、旦那様、こんなところに!探していたんですよ?」
と、さっきの執事さんが部屋に入って来た。
「…旦那様?」
私は部屋の中をキョロキョロと見回した。もしや隠れて私を見張っていたのかとドキッとした。
だが、そんな私に答えたのは。
「…リッカ殿、その…私が、その、ソロモン・ガイド、辺境伯、だ」
手を握っていたソロモン君が言った。
私は最初意味がわからずソロモン君を見ていたが、彼が
「すまない。
君の、リッカ殿の話をどう止めたら良いかわからず…その…」
と申し訳なさそうに話すのを聞いて、手を握ったまま固まってしまった。
つまり、このゲームでナビのソロモン君だった人はこの世界では辺境伯様で、私の旦那様になる人で…
「ソロモン・ガイド辺境伯様…ガイド…がっ、ガイドっ?ガイドってあ、あんない…でもナビ…いえ、あの、その…」
「え?案内?屋敷や領地のことか?それなら明日にでもするとしよう。
…とにかく、私がガイド家の領主、ソロモンだ。よろしく頼む。
それと、さっきから君が言っていた話の内容でよくわからないところがあったが…私達はどこかで以前会ったことがあったか?王都に行った時だろうか。
いずれにせよ私が君を追い出すことはないから安心してほしい。
私としてはイチカ殿と互角に戦ったあなたを尊敬するし、歓迎する。
あなたがこの辺境で私と共に頑張っていきたいと言ってくれたこと、大変嬉しく思っている」
「あ、あああの、わ、わわ私…大変し、失礼なことを…」
その話しぶりからこれは本当に辺境伯本人だと確信した私は握った小さな手を離すこともできず、彼の目の前にしゃがんだままアワアワした。
「魔獣の出現で迎えに行けず寂しい、不安な思いをさせてしまったようだ。すまなかった。
これからは私の妻として丁重に扱うと約束しよう」
「は…はいぃ…お願いいたします…」
それ以外は言えなかった。
その後、呪われた辺境伯のかかった呪いは子どもの姿になってしまうものであったことを教えてもらった。
姿形は子どもだが中身はいろいろ問題なく大人で、隣国に知られて侮られても厄介なので姿を見せずにいたそうだ。
「呪いそのものも、おそらく隣国によるものだろう。
成功したと知られないように姿を隠して生活してきたこの3年間は不便だった。
最近ではとうとう呪われているという噂も流れるようになったし、なにせ子どもの身体は疲れやすく、すぐに眠たくなる。
なんとか早急に対策をと思っていたところにあなたが来てくれるというので、皆楽しみにしていたのだ。
頼りにしているぞ」
そんな彼と身体の調子や症状についてああだこうだと言いながら研究し、私はより一層努力して魔法を磨き、半年で彼の呪いを解くことに成功した。
そしてその半年の間に、私がここに来るまでの道中の領地で手伝ったり助けたりした人たちの報告があってソロモン君はとても喜んでくれた。私としては不安から到着を先延ばしにした結果だけど良い方に受け止めてもらえてホッとした。
そんなに喜ばれるなら、と、私は解呪の研究だけじゃなく、せっせと領地を回って魔力をバンバン使って、みんなの暮らしをサポートをした。そうしているうちに、私はすっかりガイド領が気に入ったし、もう不安になることもなくなった。
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「じゃあ、いきますよ?」
「ああ、頼む」
「大丈夫です、絶対うまくいくので!」
いよいよ解呪という時はソロモン君の方がちょっと緊張しているみたいだったから、
「大人になったソロモン君に会えるのが楽しみです!大きくなったら結婚できますね!」
と声をかけた。ソロモン君は一瞬言葉に詰まったが
「ああ、頼む」
ともう一度、今度は力強く言ったので、これは本当に失敗できないと、これまでで一番集中して魔力を流した。
驚いたことに呪いが解けたソロモン君はとても立派な大人で、私はもうソロモン君なんて呼べないと思った。カッコ良すぎだった。
でもそれまで小さいソロモン君だと油断してとても近い距離で生活していたせいで、大きいソロモン様はそれまで通りに接してくるのでドキドキして仕方がなかった。
「わかっててやってますよね」
時々執事さんが何か言っていたけど、ソロモン様がすぐに
「リッカ、明日は町に出てみよう」
なんて話しかけるので、聞き返す余裕もなかった。
来月はとうとう結婚式。きっとこれからも楽しい辺境暮らしが送れると思うし、そのための努力も惜しまないつもりだ。
だって私には頼れるガイド、ソロモン様がいるのだから。
お読みくださりどうもありがとうございました。
どうしても長々と書きたくなるので頑張ってスッキリさせました。切った執事とリッカの出会いのところには任侠の「お控えなさって」の挨拶場面がありました。どう考えてもいらないですね…。そして、思っていた以上に評価をいただきとてもありがたいです。どうもありがとうございます!またいろいろな系統の作品を書いていきたいと思えました。頑張ります!
評価をいただけると嬉しいです。




