木の下闇
よだかは自分の身体を見下した。
青い着物を着ている。生まれて初めて着る手をかけた着物だ。それに茶色い帯まであった。染めるという手のかかった着物に少し浮かれて足取りが軽くなる。
血染めの着物の代わりにヨダカから渡されたものだ。
まるで空の雲のような模様まである。
「いや、それ染めむら。一番安い浅葱だぞ、それ」
ヨダカは呆れたようにそう言った。
そう言われてもこんなきれいな着物を着たのは初めてだ。
「お頭、もうちょっと器量のいいのはいなかったんで」
ヨダカの配下の男達がちょっと残念そうな顔でよだかを見た。国司の館を襲撃した一段だ。総勢はおそらく二十人ほどだろう。きちんと数えたわけではないが。
これも今更だ。醜女なのは自分でもわかっている。
「ああ、これくらいでちょうどいいんだよ、下手に器量よしなんか使ったら目を集めてどうしようもない。こいつなら誰にも気づかれない」
器量よしならかそうよだかはため息をつく。
もしよだかが器量よしなら、おそらく奴婢ではなく妾にされただろう。いや、そもそも周りだってかくまってくれただろう。意味はなかったが。
「これからどこに行くの?」
「ああ、ちょっと向こうの豪族のところだ。あっちの国司にちょっと恨みがあったらしくてな」
「盗賊働き以外に、そんな仕事もするんだ」
盗賊だけで食っているわけではないと聞いてよだかは目を丸くした。
「まあ、お前の働きには期待している。俺飲み込んだ女だし、同じ名の誼でな」
街道は通らない、ヨダカのようなものが通るための道が山の尾根沿いにあるのだ。
関所やぶりはさすがに面倒くさいらしい。
山を歩くのはよだかも慣れたものなので、さして抵抗はない。
頭に笠を被り杖を手にしてよだかは山に踏み入っていった。
杖を手にしているのはよだかだけだ。外の者は重そうな荷物を背負ってそれでも足取りは軽々としていた。
国司の館からの分捕り品だろう。もしかしたら今よだかが着ている着物もその分捕り品の分け前なのだろうか。
踏みしめる足元はかなり硬い、常に誰かが歩いている道だと思った。
山の中の冷たい風、ずいぶんと時間がたったのに何も変わらない。つい癖で、適当な蔓がないか目で追った。もう機を織ることもないかもしれないのに。
「さっさと来いよだか」
木の下闇の下でヨダカが手招く。
よだかは薄く笑い足を速めた。




