燃える屋根
弓弦の鳴る音がした。
よだかは軒下でその音を聞いていた。うっすらと明るくなる。屋根がぼうぼうと燃えていた。
火矢を撃ち込まれたらしい。
怒号が響いた。誰かが泡を食って水を桶に汲んでいる。
泣きわめく誰かがいる。それらを気のない目で見た後よだかは立ち上がった。
よだかは薪割り用の鉈を二本ちょろまかして牢に降りて行った。
騒ぎを聞きつけたのか神妙な顔をして二人はあたりをうかがいながら立っていた。
鉈を牢の格子の隙間から落とした。
嬉々とした顔で鉈を受け取るとその鉈で格子を叩き壊した。
壊れた格子の隙間から男たちは這い出すとそのままヨダカの腕をつかむ。
「とっとと来い」
そのままよだかは二人にはさまれて歩き始めた。
外に出ると一段と明るくなっていた。火は燃え広がっているようだ。その日を消そうと血相を変えて駆けずり回る者、我先に逃げようとするもの様々だ。
その喧騒を人ごとのようによだかは眺めていた。
よだかたちに気づいた侍たちがこちらに向かってくる。よだかを背後において男たちは無言で鉈をふるった。
刀を持った腕ごと切り落とされる悲鳴が響く。それが火災で自制心を逸したほかの侍や奴婢の狂乱をあおった。
悲鳴と怒号そして炎のくすぶる音。それは耳を弄さんばかり。
逃げていく者たちに逆流するようにこの屋敷に飛び込んでくる者たちがいた。
よだかはその先頭にヨダカがいることに気づいた。
捨て違うたび人が斬られた。
桶から水を撒くような音。それが人の身体から一気に血が抜ける音なのだと初めて知った。
炎と血潮ですべてが赤く染まっていく。
よだかのすぐ脇でも男たちが鉈で人の脳天をたたき割るのが見えた。
それが以前ヨダカに殴りかかった男だと気が付いたが何の感慨もない。
ただその男が死んだのだと思っただけだ
うれしくも悲しくもない。何か心がマヒしてしまっている。
よだかは男たちに促されたまま歩き始めた。
死体が廊下に累々と転がっていた。
よだかは向こうで悲鳴を上げている男を見た。
国司だった。
みじめに床にはいつくばっている。それをヨダカは冷たく見下していた。




