逆転構図
周りに誰もいないのを何度も確認してながらよだかはそっと牢の中に包みを入れた。
よだかは牢の中にいる相手の顔を確認する。あの時牢にいたよだかをのぞき込んでいた相手だった。
あの時と全く逆の構図だ。向こうもよだかをの姿を怪訝そうに見ていた。
それでも座り込んでいた相手は恐る恐る包みを掴んだ。
包みの中には握り飯が入っている。それを臭いで確認するとよだかを見た。
「食べろ、毒は入っていない」
そう言って促す。握り飯を口に入れたのを確認してよだかは包みを回収した。
「何のつもりだ」
よだかは答えない。何が起きているか知らせる方法はない。男たちもよだかも読み書きができない。
「これはヨダカからだ」
よだかはそう言った。そして、足音をひそめてその場から立ち去った。
毎日、奴婢として生活するうちに牢番のいない時間を知ることができた。その間をかいくぐってこっそり食料を届けることにした。
その食料を用意したのはヨダカだった。
「お前はどうしたい」
そう聞かれたときとっさに思いついたのは、ここから逃げたいということだった。
「中にいる連中にも暴れさせればいい、内と外で連動して暴れだしたらここを焼き打てばいい」
そうとつとつと呟く。独り言のように。
だが、それを聞いてくつくつとヨダカは笑った。
「いいだろう。もちろんお前は手伝うよな」
そう言われてよだかは頷いた。
そして、ヨダカから届けられる食料を牢に毎日運んだ。
よだかの仕事は薪割りだ。つまり手元に鉈がある。
決行日にはその鉈をこっそり届ける予定になっていた。
牢の中に差し入れられる食事は薄い粥だけだ。毎日そんな生活していれば身体も弱る。ある程度日数が経てばこの屋敷の住人は牢の中の人間に対する警戒を緩めるはずだ。
その日数を待てばいい。
よだかはまた仕事を始めた。
手に血豆ができてその血豆が潰れ、それを気にすることもなく何度も鉈をふるった。
そう、この屋敷の人間すべて憎い。
だからその憎しみを鉈に込めて何度も鉈をふるった。
よだかは誰からも避けられているので。よだかが何かしていても気にする人間はいない。
食料を届けに来るだけでまだヨダカは何も言わない。
だがそろそろだろうとヨダカはその日を心待ちにしていた




