現れた男
よだかはいつものように軒下に座りうとうとしていた。
いきなり誰かがよだかを蹴り飛ばした。
またいつもの奴らかとよだかはぶつけた頭をさすりながら上を見上げる。
しかしその相手の顔を見たことはなかった。
よだかを小突き回す相手は大体固定されていた。だから適当に急所を避けるように身を守りつつこらえていた。
目の前の男は若く割合見目がよかった。こんな見目好い男を屋敷で見た覚えはなかった。
「お前が、裏切り者か?」
唐突に聞かれてよだかは首をかしげる。
「話に聞いたが、お前は盗賊の仲間で、その仲間を売って牢から逃れたそうだが」
「そんなこと知らない」
よだかはそう言いながら奴婢がよだかにつらく当たる理由がようやくわかったと思っていた。
最初から最後まで間違っていたのだが。
「そうだろうな、俺もお前を知らない」
男はにんまりと笑う。
「お前、盗賊か?」
よだかは顔をこわばらせた。
「それで、どうしてこうなったか最初から話せ」
そう言われてよだかに拒むことはできなかった。
「それは国主が盗賊ヨダカを捕らえよと触れを出したからだ。だからたまたま私の名がよだかだったから差し出された。そのまま牢につながれた」
「おい、誰も人違いだと言わなかったのか?」
頭痛を覚えたらしい盗賊の男はそう呟く。
「国主もそう言ったが、村長が聞かなかった。これはよだかだから盗賊だと言い張って、そのまま牢につながれた」
「ええ?」
すでに相手は話についていけていない。
「その後、牢に抜身の刀を持った奴らが来て、びっくりして悲鳴をあげたら、そいつらは侍たちに捕らえられた」
相手の男は頭を抱えた。
「ヨダカが捕らえられたと言われて助けに来たんだな」
「人違いとは知らずに」
二人は深い深いため息をついた。
「つまり、お前は巡り合わせ以外は何も悪くないわけだ」
そしてよだかの顎をつかみ目を合わせた。
「お前はどうしたい?同じ名のよしみで聞いてやろう」
ヨダカはにやりと笑った。




