奴婢
よだかの悲鳴に駆けつけてきた侍達に男達はその場で取り押さえられた。
「お前、誰だ?」
頭を床に押し付けられながらよだかに問いかけた。フルフルとよだかは首を横に振っていた。
牢の奥に身体を押し付けて目を伏せて震えているよだかは男たちがそのまま取り押さえられて引きずって行かれるまでそうしていた。
それからどれほど経っただろうか。先ほど男たちを取り押さえたおそらく侍たちがよだかの元に戻ってきた。
「出ろ」
牢の閂が外された。
よだかはそのまま引きずり出された。
「随分と薄汚れているな」
そう言われ庭に連れ出されると井戸の脇で何度も水を被らされた。
ぐしょぬれになり震えていたよだかをしばらく伺い、大きく息をついた。
「これで何とか臭いも薄れただろう」
そう言って再び庭に連れてこられた。
ガタガタと震えながらよだかは庭にたたきつけられた。
国司は地面に突っ伏して動けないよだかを気のない目で国司は見下していた。
「先ほどの奴らはヨダカの配下だった」
額を地面に押し付けた状態でよだかはそれを聞いていた。
「あちらも、ヨダカとお前を間違えたようだな」
そうしてにんまりと笑って顎に手をやる。
「まあ、間違いとしても手柄には違いない、お前を牢から出す」
よだかはほっと息を吐いた。これで里に戻れるかと思ったのだ。
「あの様子では里に戻れまい、これからお前はこの屋敷の奴婢になるといい」
そう言われ、よだかは別の場所に連れていかれた。
そこは薄汚れた男女が雑魚寝をしている場所だった。
ずぶ濡れのよだかはそのままそこにいる男女に隅っこに追いやられた。
そして、よだかはその翌日からこき使われることになった。
この屋敷は人が多い。だから煮炊きに使う薪も膨大なものだった。
毎日鉈をふるって細かく薪の用意を敷ければならない。
ほかの奴婢もよだかに関わろうとはしなかった。
よだかが盗賊の仲間だという間違いが周囲に訂正されずに広まっていたのだ。
一人で黙々と鉈を振り続けた。
少しでも休んだとたんそれを見とがめた誰かがよだかに殴る蹴るの暴力をふるう。
よだかに暴力をふるうのは同じ奴婢であることもあり、また侍の時もあった。
腫れた頬を撫でながらようやく終わった仕事に小屋の軒下に座り込んだ。
小屋の中ではほかの奴婢に暴力を振るわれるからだ。
初日に懲りた。
雨だけしのげればいい。庭より外に出ることはできない。




