訪れた男
牢の中は黴臭かった。座り込んだ床はじっとりと湿っており、蓆すら敷いてなかった。
鼻はとっくに馬鹿になっている。
よだかが考えているのはただ一つ、腹が減った。
一日にとても薄い雑穀粥一杯しか貰えないのだ。
よだかに何の罪もないことはこの館にいる誰もがわかっている。しかし牢につながれたものは一日一杯の粥とこの館では定められている。
そのつながれた者のに罪があろうとなかろうとその定められていることが絶対なのだ。
よだかは小さくため息をついた。
何しろ、あの頭の悪い村長が騒ぎ出したのが発端なのだが。よだかを盗賊呼ばわりするとは思わなかった。
山で葛をとったりキノコを採ったりする以外は家事と機織りしかしていないよだかにいつ盗賊をする暇があるというのだ。
しかし村長が騒ぎ出せば村全体の騒ぎになる。村の連中は声の大きい人間の言うことを聞くものだ。
よだかはあまり村の人間に好かれていない。
よだかは自分が村の中で浮き上がっているのをずっと感じていた。
しかし村の人間はわかりやすい言葉でよだかを呼んだ。
醜女。
よだかの丸い目とぽってりとした口がまるであの醜い鳥、夜鷹のようだとあざ笑われ、いつしか呼び名もよだかになった。
親がつけてくれた名もあったはずだがもう誰も本人すら覚えていない。
まさか偉い人にいさめられればあの馬鹿な村長も考えを改めるだろうと高をくくっていたのが完全に裏目に出た。
まさか村長を説得するのが面倒くさくなってよだかを牢につなぐとは思わなかったのだ。
一日一杯の粥ではゆっくりと餓死する未来しかないだろう。じわじわと弄り殺されていくようなものだ。
すでに今日の分の粥は食べてしまった。また長い一日が始まる。
よだかがまたため息をついた。
その時誰かがこの牢の近くにやってきた。
一日一回しかこの牢にやってくるものはいない。それなのにいったい誰が来たというのだ。
よだかは身じろぎもせずに様子をうかがっていた。
「お頭、そちらにい……」
そう呼びかけられた声は途切れた。
「誰だ、お前」
そう呼びかけたのはずいぶんと大柄な男だった。
ぼうぼうに生えたひげで人相も定かではない。ぼろけているが望都は上等な木者だったのではないかと思われる着物を着ていた。
その男が手に大太刀を握っているのを見てよだかは盛大に悲鳴を上げた。
「おい、お前」
牢の奥に逃げ込んでよだかは叫び続ける。
その悲鳴にまた大勢の足音が聞こえた。




