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その欄は、“永久欠番”と呼ばれている
その婚約欄は、“永久欠番”と呼ばれている
──王宮での七不思議のひとつ。
それは”ある方”の隣を巡る話がまるで聞こえないこと。
“その話”が、誰の口にも上らないのに、誰もが沈黙を守る恐怖。
王女の婚約が告げられようとしている中、
もう一人──本来なら、誰よりも先に”その話”が出るはずの人物。
その“欄”は、空白のままだった。
なぜ、あのお方には婚約話がないのか?
なぜ、あの欄は、今も埋まらないのか?
答える者はいない。
誰もが口をつぐみ、
視線をそらし、
あるいは震え、祈った。
その“沈黙”が、
やがて“圧”と“期待”と“恐怖”へと
姿を変えていくとも知らずに。
これは、そんな「婚約欄が白紙であること」をめぐって──
王宮の内と外で起きた、五つのさざめきの記録。
誰かが囁き、
誰かが焦り、
誰かが立ち止まった。
それでも今日も、“その欄”は、埋まらないままだ。