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七月五日の牽牛織女

『ねえ、地上の人間の一部が、なんだかおかしなことを言い出しているのよ』

 愛しのハニーからの臨時通信は、一年振りの逢瀬の相談にしては、やたら色気がなかった。


 ナニソレ、地上なんて僕たちにはあんまり関係ないだろう?

 いや、天気の悪さに関しては関係大ありなんだけども、人間の動向に僕らは然程左右はされない、はず。


『おかしなこと?最近は、通年妙な事を言い散らかす輩が沢山いるじゃないか』

 でも無視して予定の話をすると、彼女は絶対機嫌を悪くする。なので取りあえず当たり障りのなさそうな返信をしておく。


『それが、七月五日に人類が滅びるっていうのよ!

 私たち、人類の記憶と歴史的イメージで形成されている部分があるから、人類が滅びたら一蓮托生よ?せっかくのダーリンとの逢瀬の寸前にそんな寸止め喰らって消えるなんて嫌よ?!』

 戻ってきた回答は、予想外に問題大ありだった。

 人類、そんな精密予測技術ゲットしてたんだ?


 僕は牽牛。牛郎とも彦星とも呼ばれる、天の牛飼いだ。普段は天の川のほとりで、牛を追って暮らしている。

 愛しのハニーは当然織女、織姫ともいうね、天帝様の娘の一人で、僕のお嫁さん。

 普段は天帝様の元で、機織りの仕事をしている。


 うん、知っている人は知っているよね、僕たちラブラブが過ぎて、一緒にいると二人とも仕事にならないからって、年に1回、七月七日にしか会えないんだ。

 それすら、雨が降るとキャンセルになる。僕らの概念上の天の川は、地上の雨と連動して増水するからね。橋をつくるカササギ達が溺れちゃうようなことは、しちゃいけない。


 ……でもなんで、新暦七月七日って、雨の特異日なんだろうねえ……

 あまりに酷いので、天帝様が旧暦でもいいよ、と言ってくださるレベルだよ!


 そんな僕らが、七月五日に人類が滅ぶなんて噂に振り回されなくてはならないのは、僕らが人の想いの蓄積から生まれた存在だからだ。


 人間の意思や思考、それらが積み重なってできた歴史や科学や非科学、それに物語。

 そういったもので、僕らはできている。

 気が付いたら言葉の使い方やら、語彙が随分と変わっていたけど、これも地上に生きる人類からの影響だ。まあ、昔のただくだ素朴だった頃に比べると、皆スレたっていう人もいるね。

 西王母様なんかも、最近ちょっとギャルみが出ている、と、こないだ呑みニケーションに付き合った天帝様が頭を抱えていたし。


 まあともかく、そんな風に僕らの存在の根本を構成しているといえる人類の滅亡は、実質的にほぼ僕らの滅びに繋がっちゃうって訳だ。


 物語は、知る人が喪われたときがその命の終わりだから、ね。


 で、だ。


 流石に、現状で人類が滅亡する兆し自体は、天でもないこともない、かなー?くらいには認識されている。ただ、それはもっとずっと先の事だ。

 そんな、明日明後日に滅亡なんてのは、予定にあるとまでは言えない。

 いやまあ赤い宮殿のクマ辺りがやらかしたらアウトな感じではあるんだけど、流石にまだそこまでは……ないよな?


 僕だってハニーと会えないまま人生終了は御免だからね。

 取りあえず天の牛たちや、待機してくれていたカササギ達に頼んで、地上の様子を探る。

 うん、だいぶんと、悪い感じにはなっているけど、やっぱり滅亡とかまでは、いかないんじゃないかな。

 だけど、ちょっとゆらゆらと揺れ続ける地面やら、むずかる火山やらは気になったので、あっちこっち手回しはしておく。

 特に火山。あいつがどっかんすると、これまた天の川に悪影響がだね。

 僕らの逢瀬は見られてナンボ、いや新暦だと天の川、東アジアじゃそこまで良く見えないんだけども。


 人間のどっかんばったんには、僕らは干渉する手段がないからね、そっちは残念だけど放置だ。

 そっちの方がヤバい気も、ちょいとしなくはないけどね。


 そうやって手配を掛けたり自分でも走り回ったり(僕は生まれは人間だったから、僕の方がより地上に近い所にいるから、自然こっちが動くことになるわけだ)、ハニーの方も天帝様に色々相談したり、何かを実行したりしていたようだけど、とにかくどたばたしているうちに、七月五日はすんなりと過ぎていった。


『ダーリンお疲れ様ぁ!これで、無事に七日を迎えられるわね!!腕によりをかけて御馳走を用意しておくわ!』

 日付けが変わった瞬間に、ハニーからの連絡だ。うん、走り回った甲斐はあった、かな?


 とはいえ、僕のしたことなんて、地上にとってはちょっと痒い所を掻いた、そんな程度ですらない。この行動の結果は、ただの自己満足。


 それでもだ。


『君も、お疲れ様。そしてありがとうハニー、御馳走、期待しているよ!』


 僕を報いてくれるハニーに会える日は、万全で迎えたいんだよ、僕だって!

 お土産、何を持って行こうかなあ!


 があ。


 そこに、いつも橋を作ってくれているカササギ達の一羽が、なんか冊子のようなものを咥えてきて、僕に押し付けてきた。


「なんだいこれ。……毎日滅亡カレンダー……?」


ねえ人類!もうちょっと自重して?!


という訳で突発時事ネタでした★

僕の他の作品とは一切関係ありませんし、当然完全にフィクションです。

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