5-2
数日間、同じように朝の習慣をこなす。
ロリエンから何度も、瞑想上手だ、と褒められ、レイは瞑想が得意なのかなぁと、自分の知らない能力に少し自信を持ち始める。
植物の手入れも水遣りを行い、そして朝ごはんを食べる。
この日の朝ご飯は、前より少し具材が大きくなったクリームのスープに、オムレツといろんな種類の惣菜だった。
惣菜は、夜にだいたい作り置きしているらしい。
ギルミアの家庭的な姿にレイは、意外な一面だなぁ、と思う。
先日の宣言通り、『いただきます』の儀式も定着しつつあった。
「そういえば、朝はだいたいスープがあるんですか?」
レイがふと質問をした。
すると、ギルミアがレイを一瞥する。
「文句があるのか?」
顔を歪めながら言うギルミアに、レイは「滅相もない」と慌てて答える。
「ぼ、僕の家でも、朝はスープが出てたから、むしろ懐かしいというか、有難いというか……」
レイが言うと、ロリエンは笑いながら口を開く。
「実は、ウィアが来てからスープが朝食に出るようになりましたよ」
「っ! 師匠!」
ギルミアはロリエンの言葉に焦ったように反応する。
「ふ、深い意味は、ないからな!」
ギルミアが必死にレイに向かって伝えて来るが、顔が真っ赤なので、何かあるのだろうとレイは感じた。
その時、レイはロリエンに手招きされ、テーブルへと身を乗り出す。
するとロリエンも同じように体を前に倒し、耳元でそっと囁いた。
「ウィアの身体を心配してるんですよ」
「!」
ロリエンがコソッと耳打ちしてくる。
すると、「師匠……ッ」と低い声が聞こえ、そちらを見ると、ギルミアがレイとロリエンを睨んでいた。
耳まで赤くしながら……。
それを見てロリエンが笑いながら話しかける。
「良いじゃないか、ギルミア。消化に良い物を作ってると言えば。いつもウィアの様子を見て、料理も変えているしね」
「っ!!」
ギルミアはぎくりと身体を震わす。
「ギルミアも素直になりなさい」
「俺は! 別に、心配なんて、してません!」
顔を歪めるギルミアが、ロリエンに語気を強める。
しかし、そんなギルミアに対して、ロリエンはニコニコと微笑んでいた。
そのやり取りに、レイはつい笑ってしまう。
その時ーー。
ーグワン
「!?」
昨日も起こった目眩が、突然レイを襲った。
倒れそうになる身体を必死に支え、食器などがひっくり返らないように、レイはテーブルの端に手を掛ける。
「ウィア!」
「おい! どうした!?」
ロリエンとギルミアが、レイの異変に気付き、驚いたように声を掛けてくる。
隣に座るギルミアが急いでレイを支え、椅子の背にもたれかかるようにレイの身体を移動させてくれた。
一瞬歪んだ視界は、だんだんと開けていく。
心配の色を含んだ表情のギルミアとロリエンが目に入り、レイはなんとか微笑んで見せた。
「だ、大丈夫。ちょっと疲れてるだけです」
レイが言うと、ギルミアがレイに近付き額に手を当てる。
「……熱は無さそうだ。師匠、コイツは一旦寝てた方が……」
「ぼ、僕は、大丈夫ですよ……!」
ギルミアが言い終える前に、レイは身体を起こし声を張った。
居候している身でありながら、甘えた事は言えないし、休んでいる場合でもない。
そう思ったレイは身を乗り出して告げる。
すると、穏やかなロリエンの声が耳に入ってきた。
「ウィア、顔色が悪いです。ギルミアの言う通り休んだ方が良い」
レイは心配そうに言うロリエンを見つめる。
反論しようと口を開くが、その前にロリエンが続けた。
「体が資本です。しっかり休んで、体調を早く良くして下さい。休むことに遠慮してはいけませんよ」
ロリエンが優しくレイに微笑むと、ギルミアの方へと視線を移した。
「ギルミア、ウィアを部屋へ連れて行ってあげなさい」
「はい」
ギルミアが返事をすると、ロリエンも合わせて立ち上がる。
「私はウィアに効く薬を調合して、部屋に持っていくから」
「? わかりました」
ギルミアは一瞬首を傾げたが、ロリエンを見て頷いた。レイはそのやり取りを聞いて軽く頭を下げる。
「す、すみません……」
「いえいえ」
ロリエンはニコッと笑顔を見せると、レイの腕を一瞥し、すぐに表情を暗くする。
レイはその表情に違和感を覚えるが、ギルミアが自分を支えて立たせてくるので、意識をそちらに向かってしまう。
レイの腕を肩に回し支えるギルミアは、細身でありながら意外とガッチリした身体をしており、安心して身体を委ねられた。
「ギ、ギルミアも……ごめん」
レイが戸惑いながら謝罪すると「別に」と素っ気なく返してくる。
「お前は、世話を焼かせる天才だな」
眉間に皺を寄せながらギルミアは、真っ直ぐ前を向いた。その表情には心配の色と、責任感を感じさせる。
頼りになるその横顔にレイは頬を緩めた。
するとそれに気付いたらしく、
「そ、その、間抜けな顔、どうにかならないのか!」
ギルミアが恥ずかしそうに顔を逸らした。
「ま、間抜け……!」
レイはギルミアの言葉にショックを受けながら、部屋へと連れて行かされる。
まだまだ、ギルミアとの仲は深まりそうにない……。
レイはそう涙ぐみながら、ベッドに放り込まれるのであった。
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