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4-3



レイが食器洗いや部屋の掃除をしている間に、ロリエンは書斎で作業、ギルミアは洗濯を済ませる。


それぞれ作業が終わると、三人は畑へ出てポーション作りに必要な植物を採取した。




"イザナリ草"と言うメイン薬草があり、それに合わせる実や薬草によって効果が変わってくるらしい。


今回は、イザナリ草と、"ポフの実"、"レン草"、"モングラ草"という薬草と実をカゴいっぱいに摘み採った。




それを井戸水で丁寧に洗っていく。


レイが教えられた通りに洗っていると、ロリエンが近付き感嘆を漏らした。




「ほぉ。ウィアは手先も器用なんですね。先程の家事の作業といい、とても丁寧です」


「あ、ありがとうございます」




いつも通りに作業していただけに、突然褒められ、レイは少し戸惑った。


それと同時に、今までやってきた作業は無駄ではなかったな、と嬉しくもなる。




すると目に入ってくるギルミアの姿。


カゴには次々と薬草が入れられている。素早く綺麗に汚れをおとされた薬草は、輝いて見えた。




(す、すごいなぁ……ギルミア、なんでも出来ちゃう)




レイはギルミアの流れるような手際の良さに感服する。そして、自分も頑張らなくては、と作業を再開した。






午前中の作業が終わり、三人は昼食を取る事にした。


昼食は、ギルミアお手製のサンドウィッチだった。


朝食を作る際に、一緒に作っていたと言うので、レイは感心しっぱなしだった。




しかも、具材たっぷりで食べ応えのあるサンドウィッチはたまらない美味しさで、レイはその幸福感にサンドウィッチを堪能した。




その時もやはり、ギルミアの視線はレイに注がれ、レイは何度も居た堪れない気持ちになっていた。


ロリエンはその様子を笑って見ていたのだった。






午後――




リビングの奥にある部屋へと案内される。




そこは、4人程座れるスペースと机が置かれている。机は壁に向けて置かれており、その上には、たくさんの試験管や小瓶、フラスコが置かれている。


更に蒸留する火元や、すり鉢、薬研など、たくさんの専門道具が揃っていた。




「ウィアは、そこに座って下さい」




ロリエンに指示され、レイはドアから一番近い席に座った。




「貴方には、先程洗った薬草を見てもらいます。汚れている所や黒くなっている部分は手で千切って下さい」


「わかりました」




レイが返事をすると、奥の席に着くロリエン。


そしてロリエンとレイの間にギルミアが座った。


すると、ロリエンが声を掛けてくる。




「何かわからないことがあれば、ギルミアに聞いて下さい」


「は、はい」




レイは返事をしながらチラリとギルミアを見る。


ギルミアは気にせず、薬研を手元に寄せ、作業に取り掛かろうとしていた。




(な、なんだか、聞きづらい……とにかく、作業に集中しよう)




レイは気を取り直し、薬草を見分けながら、丁寧且つスピーディに作業を進めるよう努めた。




作業中、精霊達がレイを応援してくれていたのか、かなり作業が捗った気がする。


開始から1時間程でだいたいの汚れは取り除いただろう。




最後の薬草を見て、黒い部分を千切ると、カゴに薬草を入れる。




「お、終わった……」




レイが言うとギルミアがそれに気付き、薬草の入ったカゴを覗き見てくる。


レイは身を縮こませながら、ギルミアの判定を待った。




「まぁ……良いんじゃないか」


「ほ、ほんと……!?」




レイは思わず前のめりになる。




「……俺の言うことが、信じられないのか?」




ギルミアがボソリと呟く。




「あ、いや……ごめん。ギルミアに褒められると思ってなくて、嬉しくて、つい……」




レイが目を泳がせながら言うと、ギルミアから反応がなかった。


パッと顔を上げると、ギルミアの耳の先まで赤く染まっていた。




(あ、あれ……?)と、レイが思ったのも束の間――。




「お前、素直に気持ちを言い過ぎだろッ!! そんな無表情で……!」




ギルミアの怒号が炸裂する。




レイはギルミアの勢いに押され、後ろに倒れそうになった。しかしなんとか堪えると、慌ててギルミアに頭を下げる。




「ご、ごめん! そんな、つもりは……! 後、無表情は生まれつきです!」




無表情を指摘され、レイは思わず語気を強めてしまった。




「生まれつきか、なんだか知らないが、急に感情を出してくるのは、止めろ!!」




ギルミアも何故か必死になっている。


それを見兼ねたロリエンが、間に入ってきた。




「二人とも、一旦落ち着きなさい」




ロリエンが苦笑しながら言うと、二人はロリエンを見て我に返る。




「す、すみません、師匠」


「す、すみません、ロリエンさん」




お互い声を揃えて謝ると、




「仲が良いのか、悪いのか」




と、ロリエンが小さく呟き、笑った。


そして、ゆっくりとカゴの薬草を一枚手に取り、頷いてみせる。




「うん。ギルミアの言う通り、綺麗に汚れを取ってますね。言うことなさそうです」




その一言で、レイはホッと胸を撫で下ろした。


ギルミアも、ほっとしたような……けれど照れ隠しで無表情を装っているような、そんな顔をしていた。




その時、ロリエンが何か思いついたように目を見開いたのを、レイは見逃さなかった。




「ウィア、暫くはギルミアからポーションの作り方を学んで下さい」


「え?」




レイが目を見張るように反応すると、同時にギルミアも驚いた表情でロリエンを見上げていた。




「し、師匠!」


「ギルミアも、教わるばかりでは、成長しませんからね」




何か言いた気なギルミアだったが、微笑むロリエンに言われ、グッと言葉を飲み込み、悔しそうな表情を見せる。




そして、小さな声で、




「わかりました」




と、ロリエンに告げた。




そんなギルミアをレイはそっと見る。


机に向かって何か考えているようだったが、意を決したように顔を上げ、レイを素早く見た。




レイが身を震わせると、ギルミアが目を細める。




「やるからには徹底的に教えるからな。覚悟しとけよ」




レイは、捕食される寸前の小動物のように、固まってしまった。




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