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(ロリエンさん……心が読めるのか? いや、僕が顔に出してたのかな……?)
レイは、以前、エリオットから『顔に出ている』言われた事を思い出す。
すると、返事を待つロリエンが微笑んだまま首を傾げた。
それに慌ててレイは口を開く。
「あ、その……家の庭と似てるな、と思って……」
レイはフワリと優しい風を感じながら畑を眺める。
「ウィアの家にも、畑があったのですか?」
「はい。同じくらいの広さがありました。食べれる野菜や果物、後は、その時期のお花とかを育てていて……」
レイが懐かしみながら質問に答えると、ロリエンは感心したような表情を浮かべる。
「この広さで育てるのは大変でしょう。私達二人でも骨が折れます」
苦笑しながら畑へ目を移すロリエン。
レイも釣られて畑を見た。
「ですね。一緒に住んでいた人も、『時間がいくらあっても足りないくらいだ』って、よく言ってました」
毎日庭に出ていたマリーが言っていた一言。
レイはマリーの姿を脳裏に浮かべ微笑んだ。
ロリエンは気付いたようにフッと笑う。
「大切な人なんですね」
「!」
不意を突かれてレイは息を呑む。
家のことを話してしまったと気付いた瞬間に胸がざわついた。
まだここに留まると決めたわけではない。
深入りは避けたほうがいいかもしれない——そんな思いがよぎり、レイは話を変える事にした。
「あ、あの……ロリエンさんは、薬を作る人なんですか?」
レイが問うと、ロリエンは少し首を捻る。
「そういう類ですね。そういった質問にお答えする時は、"治癒士"と言っています」
「治癒士……?」
レイが聞き馴染みのない言葉に目を瞬かせる。
ロリエンはそれを面白そうに見つめてきた。
「えぇ。患者の症状を診て、薬等で癒したり、食事の提案をして体調を改善させるのです。魔力を使って癒すのではなく、自然にある物で、怪我や病気を治す治癒士を目指しています」
レイは「へぇ…!」と声を上擦らせ、前のめりになる。
レイの反応にロリエンは笑みを溢し、続ける。
「ただ、それだけでは生きていけないので、回復薬の"ポーション"や、魔力を回復する"アクアヴィーテ"を作り、少数の薬屋に買って頂いてますね」
「結構評判は良いみたいです」とロリエンは鷹揚に言う。
(ポーション? アクアヴィーテ? サムの技の名前みたい……)
レイが頭の上でハテナを浮かばせていると、ロリエンが気付いたように提案してきた。
「午後からはポーション作りをするので、後でどういう物か、お見せしましょう」
「あ、ありがとうございます」
レイは、知らない事に気付かれた恥ずかしさで、少し俯きながら頭を下げる。
すると、頃合いを見計らったギルミアが近づいて来た。
「師匠、俺はそろそろ――」
「おや、もうそんな時間かい。ギルミア、頼んだよ」
「はい」
ギルミアはロリエンにお辞儀をする。
頭を上げレイを一瞥したギルミアの目には、わずかに探るような色が宿っていた。
レイがびくりと身をすくめると、ギルミアは「フン」と鼻を鳴らす。その頬は少し緩んでいるようにも見えたが、何も言わずに背を向けて家へと向かっていった。
レイは一瞬、思考が固まる。
(あれ…僕、もしかして……馬鹿にされた?)
レイは戸惑いながらギルミアの背中を見つめる。
一つに結われた銀色の髪を揺らし、家へ入って行くギルミア。
相当嫌われてると、レイが肩を落とす。
すると、ロリエンが横でクスクスと笑っているのが聞こえた。
レイが落ち込みながらそちらを見ると、ロリエンは「すみません」と笑いながら謝罪を述べてくる。
「ギルミアが、あまりにもわかりやすかったので、つい……本当は心配しているのに……」
「?」
最後の言葉が聞き取れずレイが首を傾げると、ロリエンは眼鏡を押し込んだ。
「彼は、本当に素直じゃないですね。ウィアが来てくれて良かったです。良い刺激になっています」
ロリエンの言っている事がレイには分からず、さらに首を捻ると、ロリエンが切り替えるようにレイを見た。
「さて、ウィア。まだ時間がありますので、ポーション生成に必要な植物や実を説明しましょう」
「は、はい…!」
ロリエンに言われ、レイはパッと顔を上げると、畑を進むロリエンの後を足取り軽く追った。
レイは暫く、畑の事、ポーション生成に使う植物についてロリエンから説明を受けていた。
すると、徐々に家の煙突から、香ばしいハーブの香りが森中に立ち込め始める。
ロリエンが家の方をチラリと見て、レイへと視線を移した。
「……ひとまず、ここまでにしましょうか」
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