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「ぼ、僕は……"ウィア・ブラット"、と言います」




(ウィア、サム、ごめん…!!)




心の中で謝罪をするレイ。




心が痛めながらも、レイはロリエンとギルミアとも、これもひとときの出会いだろう、と嘘をついてしまう。


そうとは知らず、ロリエンとギルミアは疑う事なく、名前を受け入れてくれた。




「ウィア……確か古い言葉で、『道』という意味です。良い名前ですね」




ロリエンが言うと、ギルミアが「へぇ」と頷いた。


レイも内心そうなんだ…と驚く。


そんな二人の様子を見てロリエンはニコリと笑い、レイへ提案する。




「ウィア。貴方が良ければ、暫くここに居ませんか?」


「え……!?」




レイは予想していなかった言葉に仰天する。


それはギルミアも同じだった。




「し、師匠! こんな見ず知らずの奴を、ここに留めるんですか!?」




声を荒げるギルミアを一瞥すると、ロリエンはレイを見つめた。




「貴方が今、家に戻ったとしても、また同じように襲われて、家族が巻き添えを喰らうかもしれません。ウィアの身なりや知識、手の豆などを見て、貴方は平民。常に守ってくれる人は居ない……ですかね?」




「違っていたら、すみません」と微笑むロリエンに、レイは目を丸くしながら頷いた。




「それに、今の貴方は何か迷いがある……その中でこの森を抜けられるとは考えにくいです」




ロリエンに気持ちを見抜かれ、レイは焦りを覚えた。そして、このエルフは只者ではないと確信する。




「ふふ、そんな目で見ないで下さい」




ロリエンが柔らかく笑って見せると、更に続けた。




「ここなら、襲われる心配はありません。森がここへ導く事は、異例な事がない限り、ありませんから」




レイはロリエンに言われ、納得せざるを得ない状況だと感じる。しかし素直に頷けないのは、名前を偽ってまで、自分の正体を明かせないからだった。


無言を貫くレイを見て、ギルミアは痺れを切らしたようにトレイを手に取り、部屋を出ていこうとする。


そして扉をくぐる前にピタリと止まった。




「師匠、俺は下に居ます」




そう言って部屋から出て行った。




「あらあら、せっかちさんですね」




ロリエンは苦笑気味に扉の方を見つめる。




「ウィア、ギルミアの事、嫌いにならないであげて下さいね」


「?」




レイは首を傾げる。




「いつもあんな態度ですが、根はとても優しい子なので」




フワリと笑うロリエンに、レイは不思議とこの人になら心を許してしまいそうだ、と思った。


それと同時に、騙している事が申し訳なくなる。




レイがここに留まっても良いものかと悩んでいると、それに気付いたのか、ロリエンが声を掛けた。




「答えは急がないので、ゆっくり考えてみて下さい。……いずれにしても、近々答えが出るのでしょうけど……」




そう言ったロリエンの視線は、一瞬レイの腕の方へと注がれ、ニコリと笑った。




レイにはその意味がわからず、首を傾げるのだった。




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