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ギルミアに言われ、レイはびくりと身体を震わせた。
ゆっくりと頷いて見せると、呆れたと言わんばかりの表情をギルミアが見せる。
「お前、セントラルの人間か。奴等は外に出ないから、森の特性を知らない者が多いんだ」
図星のレイは、何も言えずにロリエンとギルミアを交互に見た。
そんなレイにロリエンはふふと笑うと、ゆっくり口を開いた。
「セントラルを囲む森は、行先のない者や悩んでいる者が足を踏み入れると、一生彷徨う事になると言われています。先程言った魔法木とは、名前の通り魔力を持つ木で、意思を持っており、その魔法木や精霊により森から出られなくなるんです」
「そ、そうだったんですね……」
レイは自分の無知さを恥じる。
そして、シェルマン家の近くの森を思い出す。
どうやら自分が遊んでいた森は、普通ではなかったらしい。
レイはそうだったかなぁ…と考える。
言われてみれば、少し広がったスペースは、小さい頃なかったような気がする。サムが新技披露の際に、良い場所はないかと探していた所、忽然とスペースが現れ、サムと喜んだのを覚えている。
あの事かな…?と、レイは少し納得する。
その様子をギルミアは黙ったまま見ていた。
そんな二人を見守りながら、ロリエンは続ける。
「貴方を連れていた四人組は、人間国の者達で、方向からすると東に向かっていました。ここはセントラルから見ると南側になります。貴方の故郷は、西側辺りではないですか?」
「あ……そ、そうです」
レイがロリエンの推察に戸惑いながら頷く。
「やはり、そうでしたか。セントラルを通らず、わざわざ遠回りして人気のない森を抜けようとするんですから、よからぬ事を考えている人達だったんでしょう。あの中の一人は、地形を把握できる魔力の持ち主のようでしたし、尚更でしょうね」
穏やかな口調で説明するロリエンに、レイは感服した。
そして、ふとロリエンの言葉で疑問を持つ。
「あの……人間国の人達って、言いました?」
レイが恐る恐る聞くと、ロリエンが頷く。
「えぇ。あの黒いフードは、恐らくそうだと思います」
「ゲ、ゲニウス…と言う人達では……」
レイが言うと、突然、空気がピンと張り詰める。見ると、ロリエンとギルミアは目を見開いていた。
「貴方は、ゲニウスにも追われているのですか?」
少し真剣な表情を見せるロリエン。
レイは、ロリエンとギルミアの反応が明らかに変わった事に焦りを覚えた。
「あ、いや……そう言う訳では……」
必死に否定するレイは、自分の正体を言わない方が良いかも、心の中で思う。
「ゲニウスは、今、教祖交代により過激さを増しています。関わりがないのであれば、その距離感を保った方が良いですね」
ロリエンの声が低くなる。
レイは相当良くない団体なんだと身に染みた。
言動に気を付けようと思っていると、ロリエンがフッと穏やかな表情に戻す。そして空気を変えるように柔らかな声を掛けた。
「こちらのお話ばかりで、すみません。貴方のお名前を聞いていませんでしたね」
「!」
レイはびくっと肩を震わせた。
前にエリオットから、自分の事は世間に知れ渡っていると聞いた。名前を言ってドラゴンの混血だとわかったら、このエルフ達も自分に何をしてくるかわからない。
もしかしたら、殺そうとしてくるかも……。
(それはそれで、良いのかも……。だけど……僕は……)
レイはギュッと拳を握っていた。
心の何処かで、死にたくないと言う思いがある。自分がそう思っている事に、内心驚いた。
どうしようかと、レイが名前を告げれずにいると、ロリエンとギルミアは視線を交わせた。
そして、ロリエンがレイに向き直り、
「どうしました?」
と、心配そうに声を掛けてきた。
ギルミアは眉間に皺を寄せ怪しげにレイを見る。
(こ、これ以上黙ってたら、怪しまれる……)
レイは意を決して顔を上げる。
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