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2-2



扉の方へ視線を向けると、柔らかな表情で微笑むエルフが立っていた。




銀髪のエルフとは違い、年は重ねているようだが、年齢をあまり感じさせない外見のエルフ。




整った顔と、草の生い茂るような蒼色の瞳から織りなされる表情からは、優雅で落ち着いていて、おおらかそうなエルフだと感じさせた。


髪は長く、白っぽい金色だが、少し白髪が混じっている。




すると大人エルフが、丸メガネをクイっと押し、レイを見た。




「目が覚めて良かったです。ギルミアの特性ポーションのおかげで、傷も癒えたようですね」




ニコリと笑いレイの元へ近付くエルフは、部屋にもう一つある椅子を引き寄せ、座った。




「それで、ギルミア。さっき大声が聞こえたけれど、何かあったのかい?」


「あ、いえ……」




ギルミアと呼ばれた銀髪のエルフは、落ち着いた様子ではあるが、目線を泳がせ言葉を濁す。


それを見た大人エルフは、レイへ視線を向けて首を傾げる。


レイはおずおずと口を開いた。




「えっ……と、僕が、"すごい"と言ったら、急に怒られて……」


「お前…ッ!」




レイの言葉にキッと睨みの効いた視線を送るギルミア。


それを見た大人エルフは、




「なるほど。それで、ギルミアが怒ってしまったんですね」




と、苦笑しながら納得したような表情を見せた。


レイは、何が悪かったのかと心の中で悶々としていると、それに気付いたのか、大人エルフが「気にしないで良いですよ」とレイに告げ、続けた。




「ギルミアは、私以外に褒められると、嬉しいのに怒ってしまうんです。ねぇ、ギルミア」


「師匠! 変な事言わないで下さい!」




楽しそうに笑う大人エルフに、ギルミアが声を荒げる。




(う、美しい顔が般若のように……ど、何処かで同じような場面、見たな……)




レイがふとエリオットの事を思い出す。


すると、大人エルフがレイに向き直り、少し真面目な表情を浮かべた。




「さて、まずは自己紹介ですね。私は、ロリエン・イシリオンです。そしてこちらが……」




「……ギルミア・アノーリオンだ」




ロリエンと言うエルフに続き、視線を逸らし素っ気なく告げるギルミア。その様子を優しく見ながら、ロリエンはレイの方へと視線を移した。




「2日前の夜、貴方を連れて帰ったのは、私です」




ロリエンが穏やかな口調のまま続ける。




「貴方は黒い服装の四人組に連れ去られていました。……あの四人組とは、お知り合いですか?」


「し、知りません…ッ!」




レイはロリエンの質問に急いで答えた。




「突然家に来て、襲われました…! それで意識を無くして……気が付いたら、ここに……」




そう言いながらマリーの安否が気になるレイ。


その表情が寂しげに見えたのか、ロリエンは眉を下げる。




「そうでしたか……。それは、大変でしたね」




心配してくれるロリエンの言葉に、レイはグッと拳を握る。




(僕が、もっとちゃんとしていれば、マリーさんも、あんな酷い目に合わなかったのに……)




自分の無力さに胸が締め付けられる。そんな中、ロリエンが口を開く。




「……私が貴方を見つけ助けたのは、森に呼ばれたからです」


「?」




レイは顔を上げ、ロリエンを見つめた。


『森に呼ばれた』と言う意味が分からず、首を傾げると、ロリエンは続けた。




「私の専属魔力は、"自然"ーー植物と心を通わせる事が出来ます」


「!」


「あの日、森に呼ばれ歩いていると、貴方のもとに導かれました。こんな事は初めてで、驚きましたよ。木々達から『あの子供を助けてやってくれ』と言われたので、四人組から貴方を保護させてもらったのです」


「……」




レイは助けてくれたお礼を言うべきなのか悩み、顔を伏せる。




自分はあのまま連れ去られて殺された方が良かったのではないか…そんな事を思っていると、柔らかい声が耳に入る。




「もしかすると、貴方を助けるように言ったのは、"森"ではなく、"精霊"かもしれませんけどね」


「え……?」




"精霊"と言うワードにレイは思わず顔を上げた。


ロリエンはふわりと笑う。




「森達の『助けてやってくれ』という言い方は、本人達の意思ではないように思えました。精霊と森は密接な関係にあります。ですので、精霊の願いを、私に伝えたのかもしれません」




レイは驚き目を丸くする。


ロリエンは変わらず続けた。




「それに、あの四人組は目指す場所があったようなので、魔法木(マジックツリー)がわざわざ彼等を迷わすとは、考えにくい……」




ロリエンが説明をするも、レイは置いてけぼりを食らう。




(目指す、場所……? 魔法木(マジックツリー)?)




レイは知らない知識や言葉に眉間に皺を寄せ、ロリエンを見つめる。




その様子にギルミアが目を見張った。




「まさかお前……この森の事、何も知らないのか?」




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