6-3
「え?」
マリーが反応した時には、既にドアノブに手を掛け少し扉を開けていた。
すると勢いよく扉が開かれ、マリーが驚きドアから離れる。
「な、何ッ!?」
叫んだと同時に、後ずさるマリーの身体に、突如宙に浮く縄がグルグルと巻き付けられていった。
「マリーさん!」
レイがマリーに駆け寄ろうとレードルを投げ置く。しかし身動きの取れないマリーの横を黒い影がすり抜け、レイに向かってきた。
(な、なんだ…ッ!)
黒いフードを目深に被り、顔が見えない謎の四人組。
「レイ!!」
マリーが床に倒れながら名前を呼ぶ。
(マリーさんを助けなきゃ…!)
レイが急いで、ドラゴンの力を発動させようと念じる。
が、相手のスピードが速すぎた。
魔力が溢れる前にレイの腕を一人が鷲掴み、そのまま腕を引き上げてくる。
「痛ッ…!」
その痛みでレイが顔を歪めた。
「レイ! 逃げて!!」
マリーの叫びが聞こえる。
しかしレイが抵抗するものの、黒い影は全く動じない。力では太刀打ち出来ないと、レイは再度心の中で念じ始める。魔力の流れを感じ始めるレイ。
すると、
「させるかよ」
若そうな男の声が黒い影から呟くように聞こえた。レイが見上げると口元が笑っているのが見える。
その瞬間、レイの手首に何かが突然はめられた。
レイが手首の方を見ると、謎の紋様が刻まれたシルバーの腕輪が腕に付けられていた。
さらにレイは違和感を感じる。
(魔力を、感じなくなった……!?)
自分の中にある魔力の波を、一切感じなくなる。レイは焦り、黒いフードの男の腕から逃れようともがく。
その視界の中で、巨大な黒フードの影がマリーに近付いていくのが見えた。
「やめろ!」
レイは焦燥と怒りを露わにする。
「マリーさんに、近付くなッ!!」
レイが叫んだと同時に、微量な魔力波がレイから溢れ出た。その拍子に突風が吹く。
吹き飛ばされそうになる黒い影達はその場でそれぞれ身を屈めた。そしてレイを見るなり皆が身体を震わせる。
「コイツ……リングをはめても、力がッ!?」
レイを捕まえる若い男が声を荒げる。そしてレイに視線を向けると、更に驚いた様子を見せた。
「目の色が……ッ!?」
そう呟かれた同時に、レイはもっと力を…!と心の中で強く祈る。
徐々にレイの力は増していく。恐怖と焦りを感じたのか、男は胸ポケットから小瓶を取り出し、口でコルクの蓋を急いで開けた。その中身の液体をレイの顔に投げ掛ける。
「!」
レイは咄嗟にグッと目を瞑り、片腕の裾で顔の液体を拭う。しかし、頭が次第にぼんやりとし始め、ゆっくりと目を開けるが、視界が歪んでいく。
(な、なに……?)
レイの状態をみた黒い影は笑みを見せ、「暫くねんねしな」とレイの腕を離す。
レイは足に力が入らず、そのまま床に伏してしまう。その瞬間全身に痛みが走り、レイは眉間に皺を寄せた。
「レイ、しっかりしてっ……レイッ!!!」
マリーの絶叫が耳に入る。顔を上げるレイはぼやける視界の中、涙を流しながら心配そうに見つめるマリーを見た。
すると、すぐ近くにいる身体の大きな黒い影が、「うるさいぞ!」と低い声でマリーに罵声を浴びせる。マリーは怖気付く事なくその大きな黒い影をキッと睨み付ける。
「アンタ達! 警備隊に通報するわよ!!」
「その状態でどうやって通報するのさ、おばさん」
レイを捕まえていた若い声の男が、嘲笑うように言うと、マリーに近付こうとする。
(行か、せない……っ)
レイは影の足をグッと掴み、なんとか見上げた。すると、黒い影は動揺していた。
「こ、コイツ……ッ!」
恐れの帯びた声で黒い影が足を素早く引き、レイの手から逃れる。そして、その足でレイを蹴ろうとした。
「レイ!!」
マリーが叫んだ。
その時。
「やめろ」
落ち着いた声が静かに部屋に響く。
影はレイを蹴る前にピタリと止まった。
「傷は、付けるな」
落ち着いた声の主に、若い男は「すいません」と謝罪する。
「戻るぞ」
その一言に、他の三人は頷く。
そしてレイは意識が朦朧とする中、黒いフードの男の脇に抱えられる。
「マ、マリー……さんに、手を出さ、ないで」
レイは項垂れながら、振り絞るように告げる。
「心配するな。何もしない」
落ち着いた声がレイの耳に届いた。
段々と力が抜けていく。レイは目すら開けられなくなっていた。
「やめて! レイを放しなさいッ!!」
マリーの焦慮の声が聞こえた。
「マリーさん……」
レイが小さく呟くと、身体が大きく揺れるのを感じる。恐らく抱えているフードの男が走り出したのだろう。
その瞬間、
「レイッ、レイーーー!!! 」
マリーの悲痛な叫びが響き渡った。
意識を手放していく中、その叫び声がどんどんと遠ざかっていく。
(マリーさん、どうか、無事でいて……)
レイはマリーの安否だけをただ願う。
そしてレイの意識は、暗闇に飲み込まれていった。
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