表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜血少年は、力加減が難しい  作者: moai
始まりの儀式
8/38

3-3



記憶の少ない母親の話を聞き、レイは少し嬉しくなった。


そんなレイに気付き、マリーも笑みを浮かべる。




「レイはね、顔立ちがルナそっくりなのよ」




マリーの楽しそうな声色に、レイは視線を上げた。




「レイの深緑の森のような、澄んだ瞳……ルナとまるで同じで綺麗なのよ~!」




マリーがうっとりしながら言うので、レイは興味津々で話に耳を傾ける。




「髪の色は違ったわね。本人は”夜空の色”って言ってたわ。濃い藍色で艶もあって…それは綺麗な色をしていたんだよ!」


「へぇ……」




レイは、母から譲り受けたものがあった事に、内心驚いていた。




「きっとレイの髪の色は、父親譲りなんだろうね。黒髪は、エルフにはいないらしいから、人間かしら? もしくは獣人かもしれないわね。目元も父親に似たのかもしれないね」




マリーの言葉にピクリと反応するレイ。




「……父、親……」




レイは、今まで口にした事のないワードを呟き少し苦しさを覚える。


自分にいるとは思えない父親の存在を聞き、胸がギュッと締め付けられた気がした。どこの誰なのかもわからない父の事を想像するが、レイには全く現実味が感じられなかった。




感傷的な気持ちを覚え始めたレイに、マリーは変わらず明るい声で続けた。




「そう思うと……レイの父親は、ハンサムに間違いないよ! レイは間違いなくカッコいいからね!」


「ハ、ハン…ッ?」




マリーの口から聞く事のない言葉に、レイは一気に動揺した。それを照れていると思ったマリーは「照れちゃって!」と今朝サムに叩かれた背中をバシッ--と叩く。レイは、(またか…っ)と痛みに耐えた。




だが気がつくと、感傷的な気持ちはいつの間にか吹き飛んでいた。




「そういえばルナは、私が相手の男の事を悪く言うと、『彼を悪く言わないで』と言っていたわねぇ」


「!」




レイは、母の反応に少し驚く。




「『彼の事は、これからもずっと愛している』と言っていたから、本当にその人の事を大切に想っていたんだろうね……」




レイは背中の痛みをジンジンと感じながら、物思いに耽るマリーを見る。




(母さんは、…父さんを恨んでると思ってた)




レイは、母の想いが自分の予想とまるで違うことを知り、胸が熱くなると共に様々な思いが湧いた。




どうして母と父は離れ離れになったのか。


父はどんな人だったのか。

母は、どんな想いでこの地にたどり着いたのか。




沸々と疑問が湧く中、レイは今まで聞けなかった事を口にする。




「……母さんは、僕が2歳の頃に亡くなったんだよね?」




レイが問うと、マリーは少し悲しげに頷く。




「そうね。病気を患ってから3ヶ月でね……」




「母さんは……僕が生まれる前からここに?」




ふとした疑問をマリーに投げかけるレイ。マリーは大きく頷いて見せた。




「えぇ。森の中で偶然出会ったのよ。お腹にはもうレイがいて、まだ妊娠2ヶ月って頃だったかしらね」




レイは、またも知らない話を聞き、目を見開く。それに気付きながらマリーは続ける。




「遠い所からやってきたのか、身体も傷だらけで、服もボロボロだったのよ。だけど、ルナを見た時はビックリ!! それはもう、美人でね! 私、驚いちゃったわぁ! 森の妖精でも現れたのかと思ったわよ!」




マリーが楽しそうに言うと、レイも釣られてほのかに微笑む。


それを見てマリーは優しく笑った。




「ふふ、レイのその微笑み、実はルナにそっくりなのよ?」


「え、そうなの……?」




レイは、不意にマリーに言われ、顔に手を当てる。


その姿にマリーはクスッと笑うと、胸に手を当て目を伏せた。




「ルナにもレイにもね、私は感謝しているの」


「……?」




レイはマリーの言葉の意図がわからず、キョトンとした表情で続きを待った。


暫くして、マリーは静かに口を開く。




「……私は、ルナと出会う前に、夫を亡くしてね」


「!」




思いがけない言葉に、レイは息を飲んだ。




「ルナと出会って、私は生きる希望を貰ったの。レイを産んで病気で亡くなってしまったけどね」


「……」


「だけど今度は、レイが私の人生に光をくれたのよ」


「……そう、だったんだ」




マリーの過去を初めて聞いたレイは、胸に重く静かな感情が広がっていく。




明るくいつも元気をくれるマリーにこんな過去を抱えていたとは思いもしなかった。


掛ける言葉が思い付かないままマリーを見つめていると、マリーは続ける。




「"レイ"という名前には、『自分の道を歩み、道を示す人になってほしい』という想いを込めたって、ルナが言っていたの」


「!」


「だから、私にとっての道しるべとなってくれたレイは、既に名前の役目を担ってくれているわね」




そう言ってマリーは、レイに穏やかな笑顔を向ける。




その笑顔を見て、レイは心から思った。




この人は、なんて強くて、優しい人なんだろう–––。




「マリーさん……いつも、ありがとう」




自然と出たレイの言葉に、マリーは瞳に涙を浮かべる。




「あらあら、先にお礼を言われちゃったわね!」




そう言って涙を拭うマリーは、レイに向き直る。




「こちらこそ、ありがとうね、レイ」




マリーは、少し震える声で頭を下げる。顔を上げた表情は、レイにはいつもの明るさを取り戻したように見えた。




レイは、じんわりと心に広がる優しい気持ちを感じながらマリーを見て微笑む。


自分の両親の話をしてくれた有り難みを感じると同時に、マリーが本当に心から自分の事を大事にしてくれているのだとわかり、心が温まった。




「さぁ! 食事の続き、頂きましょう!」




マリーが空気を変えるように明るく元気に声を上げる。


レイはコクリと頷いた。




「レイは、パン3切れは食べないとダメよ! 育ち盛りなんだから!」


「え……そんなに?」


「そうよ! レイもエリックぐらい逞しくならないと!」


「え、エリックさん……ムキムキ…」




レイは、先程見たエリックのがっしりとした体格の良さを思い出し、困惑気味に呟く。




「僕は、今のままで…」


「はい! スープもおかわりね!」


「っ!」




全く取り合ってくれないマリーに諦めを感じ、レイは黙々とパンと大盛りに盛られたスープを平らげるのだった。








––『鑑定の儀式』まで、あと2日。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ