5-3
エリオット達が商店街を抜けると、北側にシェルマン家が見えてくる。
その先に見えるセントラル西側の森の入り口。
(もうすぐだ……!)
エリオットがそう思った時だった。
「うぁああぁぁあーーーー!!!」
森の方から悲痛な叫びが聞こえたと同時に、一瞬森が黄金に光り輝いた。
「!?」
エリオット達は驚き、森の方を見た。
その時ーー。
『グゥアアァアアァアァアア!!』
人間のものではない恐ろしい雄叫びを聞く。
「なんだ、今の!?」
アウロが走りながら声を上げると、
「急ぐぞ!」
エリオットも強く言い放ち、スピードを上げた。
森へ入ると、辺りは薄らと瘴気の霧に包まれている。そこから見て一角の植物が、茶色く枯れているのを見つけた。
「あそこか……!」
エリオットが駆け出すと、コリーと先鋭部隊四人も追いかける。そして、枯れきった樹木に囲まれる少し広がったスペースに出た。
辿り着いた瞬間ーー
「「「「「「!!?」」」」」」
全員がその光景に仰天し、そしてエリオット以外は皆身を震わせた。
自分達の四倍はある魔物が横たわり、苦しみもがいている。
その横で消えゆく瘴気を浴びながら、ふらふらと立ち上がる黒髪の少年。
その少年からは、悍ましい程の魔力が溢れていた。
「レイ……シェルマン……?」
エリオットがその姿に名前を呼ぶ。
それにピクリと反応したレイは、素早く振り返りエリオットの姿を捉えた。
(! ……黄金の、瞳……ッ)
エリオットは視線を合わせるレイの瞳を見て、目を見張る。すると、レイの無表情だった顔が緩み出す。
「……ッ、エリオットさん……」
涙を流し、微笑むレイ。
瘴気を物ともせず佇むレイは、黄金の魔力のベールに包まれ、この世のものとは思えない金色に輝く瞳に涙を溜めている。
その神々しくも見える姿に、皆息を呑んだ。
恐ろしい魔力に脅える中、皮肉にも『美しい』と思ってしまう。
誰もが、言葉を失っていた。
(これが、ドラゴン……)
そう思いながら、エリオットはレイの身体を見て驚く。
服は埃まみれで所々破けており、打撲の痕や血が滲んでいる。魔力のせいか、身体は小刻みに震え、立っているのもやっとの様子だった。
(アイツ……本当に一人で……ッ)
エリオットが驚きを隠せずにいた、その瞬間。
魔物の右腕がレイに向けて振り落とされる。
「あ、危ないッ!!」
コリーが声を上げる前に、エリオットが瞬時に身体向上魔法を足に掛け、素早くレイの元に駆け出した。
「副隊長!!!」
アウロの声が聞こえた時には、後半分の距離まで詰めたエリオット。
(間に合え……ッ!!)
レイはもう逃げる気力も無い状態のようで、振り落とされる漆黒の腕を茫然と眺めている。
エリオットは手を伸ばす。
そして、レイに覆い被さるように急停止すると、伸ばした手でレイを抱き、反対の手を寸前まで迫り来る魔物の拳へとかざした。
『氷河!!』
エリオットが叫ぶと、青白い光が手の平から弾け飛ぶ。
その瞬間、魔物は拳からすごいスピードで氷に包まれていった。同時に、辺りの空気が凍り付いたように青く輝く。
氷漬けになっていく魔物が動きを止めた。それを見て、エリオットはコリーと先鋭部隊達の方へ視線を向け、声を上げる。
「アウロ、周辺を探れ」
「は、はい!!」
「コリー、浄化の準備」
「了解です!」
「他の者は、魔物を確保しろ」
「「「はい!」」」
エリオットの指示にそれぞれが動き出す。
アウロは気配を探る為、その場で両腕を突き出し目を閉じ、三人の先鋭部隊はシールドを展開し、魔物を覆う。そして、コリーは浄化の為の魔法詠唱を始めた。
エリオットはレイを抱えると、後ろへ退避し、再びピクリとも動かない魔物を見る。
コリーが詠唱を終えると、翡翠色の光が上空へ立ち上るようにコリーの体を包みこんだ。
『神聖なる解放!』
コリーが叫び両腕を開くと、凍った魔物の下に大きな魔法陣が現れる。翡翠色の円陣は一瞬にして輝きを増し、シールド内を覆い尽くすと、凍っていた魔物の身体は小さくなり、徐々に消滅していく。
エリオットが怪訝な表情でそれを見ている中、腕の中からレイもその様子を見て呆気に取られていた。
辺りが緑の光に包まれる中、アウロが目を開き、動き出す。
(深追いするなよ、アウロ)
エリオットはアウロを一瞥すると、浄化を終え、鎮まりゆく光の方へ視線を移した。
(やはり、この魔物も……)
エリオットは眉をひそめ、解かれゆくシールドを見つめた。すると、レイが弱々しく呟く。
「あれは……リス……?」
.




