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5-1



明朝まで続いた戦闘が終わり、神殿もようやく静寂を取り戻していた。




エリオット達が通信を受け、駆け付けた時には、神殿にいたハルファウン大司教やローレンヌ司教含めた四人の司教が神殿全体にシールドを張り、魔物へ攻撃していた。




一瞥したところ、魔物の量が多く、苦戦を強いられている様子だった。




エリオット率いる先鋭部隊達は、エリオットの指示で、光の如く魔物を薙ぎ倒す。そして頃合いを見計らいコリーが浄化し、魔物を一掃した。




先鋭部隊の隊長達も神殿に集まり、魔物の数が激減する。




終戦の目処がつき、皆が安堵した瞬間、召喚魔法が神殿を取り囲むように多数現れ、大量の魔物が召喚された。


愕然とする先鋭部隊と大司教達だったが、すぐに交戦する。




何度か召喚魔法で魔物が送り込まれ、エリオット達は疲労しながらも、全ての魔物を浄化し終え、次の日の朝を迎えた。




流石に疲労困憊の先鋭部隊達。




エリオットも疲れを覚えていたが、レイの事が気になり、移動魔道具の照準をアグリ村へセットする。




それを見た先鋭部隊隊長がエリオットに近付いた。




「エリオット、お前もう行く気か?」


「……あぁ」




エリオットが横目で少し背の低い声の主を見ると、視線を魔道具に戻し、素っ気なく答える。




「休んだ方が良いぞ」


「邪魔するな、イアン」




イアンと呼んだ先鋭部隊の隊長ーーイアン・ラギア。彼は獣人で、姿は人間のようだが、頭には黒豹の耳があり、長い尾っぽが生えている。




「相変わらずだなぁ……と言いたいところだが……」


「……?」




イアンは腕を組み、怪訝な表情を浮かべる。エリオットは不審な目で、間を空けるイアンを見やった。




「お前が戦闘中、部下達に気遣いの声を掛けるなんて珍しいな。皆も驚いてたぞ?」




悪戯な笑みでエリオットを見るイアン。




「……それもこれも、あの"レイ"とかいう、ドラゴンを飼った仔猫のおかげか?」


「……アイツは仔猫じゃないぞ」




エリオットが真面目に答えるので、イアンは目を丸くする。そして、吹き出すように笑った。




「ははは! 俺達からしたら、仔猫だろう? それにしても、お前もやっと人の心を理解したか……」


「……」




笑いながら肩を叩くイアンをエリオットは眉に皺を寄せながら睨み付けた。しかし、お構いなしにイアンは続ける。




「子供から学ぶ事は多いだろ。まだまだやんちゃ盛り、ルールもわからない、守ってやらないとな」




体格は細身だがガッチリしているイアンは、エリオットより厚い胸板を張り、ニヤッと笑う。


その笑みの意図に気付いたエリオットは、呆れたように溜め息を吐くと口を開いた。




「お前の息子は元気か?」




イアンは顔を輝かせ、「良くぞ聞いてくれた!」と言わんばかりに尾っぽをブンブンと振った。




「元気そのものだ! 本当に可愛くてなぁ! 毎日が幸せだッ!! と言っても、最近は家に帰れてないから、会えないのが寂しいがなッ」




大人の獣人が顔を輝かせ興奮している姿に、エリオットは引いた顔を見せる。




イアンは先鋭部隊一の家族愛の持ち主で有名だった。家族自慢を必ず一日一膳……いや、一日一話してくる。


最近は、生まれた子供を傷付けてはいけないと、獣人の命である尖った爪をまめに切っているらしい。




「エリオット、愛する妻と子供がいると良いぞー! お前も早く結婚しろ!」




笑顔のイアンがエリオットの肩に力強く手置く。




「いらない世話だ」




エリオットは鬱陶しそうにイアンの手を払った。そして、苦笑気味のイアンをよそに移動魔道具に魔力を送り始める。




「全く……そういう所は変わらんなぁ」




呆れ笑いながらイアンは、腰に巻く鞄に手を入れ、何かを取り出す。




「エリオット。休まず行くなら、これ飲んでいけ」




そう言ってエリオットにそれを投げ渡すイアン。エリオットが反射的に掴み取り、手元を見ると、それは上級の回復薬(ポーション)だった。


エリオットが驚き顔を上げると、イアンは笑顔を見せる。




するとイアンの横を走り抜け、コリーとアウロが駆け寄った。




「エリオット先輩、僕も行きます」


「あ、俺も連れてって下さい! 副隊長を変えた仔猫ちゃんが見てみたいです!」




意気込むコリーと笑顔のアウロ。エリオットは目を見開くが、すぐにいつもの表情へ戻る。




「だから、仔猫じゃない」




エリオットが溜め息混じりに言うと、イアンが再び声を上げて笑う。そして、コリーとアウロに近付きポーションを見せる。




「お前らも使っとけ」




すると、コリーが少し焦りながら、首を横に振った。




「い、いえ、そんな高価なもの……。お気持ちだけ頂きます」


「俺も、さっき、コリーさんに回復魔法(ヒール)で治してもらったんで、大丈夫です!」




アウロが言い終えると、二人はイアンに向かって、左胸に右手を当てお辞儀をした。


イアンは「そうか」と微笑み、ポーションを鞄にしまう。




その様子を見ながらエリオットはポーションを飲み干した。するとエリオットの身体を一瞬、緑色の光が包み込む。身体が楽になったのを感じた。




エリオットは、空いた試験管をイアンに投げ渡し、




「恩に着る」




と、イアンを一瞥する。イアンはニコッと笑った。




「どういたしまして。何かあれば連絡しろよ」




それを聞いて、エリオットはイアンから視線を外し、手に持つ魔道具を作動させた。




(何も無いと良いが……)




少し不安を覚えるエリオットは、赤い光の円陣に囲まれる。コリーとアウロがその円陣に入るのを見て、一気に魔力を魔道具に送り込んだ。




イアンや他の部隊の者達に見守られる中、三人は赤く輝く円柱の中へと消えていった。




胸の中で騒つく不安……。




エリオットは、早くレイの元に行かねばと、汗を流すのだった。




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