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どれだけ時間が過ぎただろう…。
心を照らしていた太陽が消え、レイの心は冷え切っていた。
勝敗の付かない戦い。
レイは暴走の波に飲み込まれ、身体の痛みと苦しさに震えながら無我夢中に腕を振るう。
殴り方も、蹴り方も、わからない。
暴走した魔力と意識に身を任せ、ただひたすらに、目の前の大きな漆黒に挑み続ける。
レイの目からは、未だに涙が零れ続けていた。
何度か殴られたレイは、木の幹や地面に叩きつけられ、体もボロボロだった。
傷や埃だらけの体、頬からも足からも血が滲んでいる。
意識も朦朧とし出した。
(く、苦しい……身体も、痛い……ッ)
レイの息は、絶え絶えだった。
しかし、溢れ出る魔力は全く尽きる気配がない。
(……いつまで、魔力が出てくるんだろう……)
そう思った時、腕を振るう音が聞こえ、レイは急いで顔を上げた。真上から真っ黒の砲弾のような拳が目の前まで振り下ろされていた。
(避けきれない……!)
レイは、反射的に受け止めるような体勢を取る。受け止めるのは無理だと分かっていた。
レイは痛みと衝撃、そして死を覚悟する。
その時、レイの身体が一瞬金色に輝く。レイが驚く中、その光はレイの腕と足へ集まっていった。
(あ、これ……ッ)
レイが気付いた瞬間、魔物の拳が恐ろしい勢いでレイとぶつかる。その勢いでレイの足元が地面へと食い込んだ。
「っ……!!」
レイは歯を食いしばり、拳の衝撃と風圧に耐える。
恐ろしい程の重圧を感じるが、不思議なことに痛みはない。受け止めた腕は、むしろまだまだ力がみなぎる。
魔物の重圧が緩んだ瞬間、レイが腕を払った。
すると、魔物が叫びながら後ろへと吹き飛んでいく。地響きを鳴らし樹木を薙ぎ倒しながら倒れる魔物。
視界が霞む中、倒れた魔物を見るレイは確信する。
「……やっぱり」
(これ……エリオットさんが、前に見せてくれた、身体能力を上げる魔法…ッ)
そう分かった途端、レイは顔を歪めた。
エリオットが居てくれて、本当に良かったと、心の底から感謝した。
(もしかして……あれはわざと、僕に見せたの……?)
ジワリと冷え切った心に温もりを感じた。
そして、レイは身体を起こそうとする魔物を、黄金の瞳でキッと睨む。ふらつく身体をなんとか倒れないように保ち、地面を踏み締めた。
(魔物が、起き上がる、前に……ッ!)
レイは地面を蹴る。
すると驚く程凄まじいスピードで、少し遠くで倒れていた魔物に接近する。
そしてすぐ地面を蹴飛ばし飛び上がると、魔物より遥かに高い位置に到達する。目を見張りながらも、レイは右腕を振り上げた。
その右腕に光が集まる。
それと同時に稲妻のような痛みが走る。
「うぁああぁぁあーーーー!!!」
(右腕が、千切れそうッ……!!)
痛みと勢いで叫びながら、振り上げた右腕を魔物の左腕に向かって振り下ろした。
その瞬間ーー。
『グゥアアァアアァアァアア!!』
魔物が叫び苦しんだ。
レイが魔物の左腕を斬り落としたのだ。
起きあがろうとしていた魔物は、再び地面を揺らしながら倒れる。
転がり倒れたレイは魔物の倒れた風圧と砂埃を受けた。その風に乗って斬り落とした左腕は、漆黒の煙となって消えていく。
(痛い……ッ)
砂埃が舞う中、痛みに耐えつつゆっくりと立ち上がるレイ。痛む右腕を左手でギュッと握りしめ、肩を上下させながら必死に空気を取り込む。
そして、もがき苦しむ魔物をチラリと見た時ーー。
「レイ……シェルマン……?」
名前を呼ばれた。
聞き覚えのある声に、レイはハッと顔上げ、振り返った。
視界がぼやけるレイにはハッキリと姿はわからなかったが、声でわかる。
「……ッ、エリオットさん……」
その名前を読んだ時、レイは自分の口元が緩んだのが分かった。そして、また頬を涙が伝うのを感じた。
(来て、くれたんだ……)
レイは緊張の糸が切れる。
その時、背後で蠢く影にレイは気付けなかった。
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