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上級生達とはお互いに謝罪をした。
話を聞くと、レイに話し掛けた上級生達は、毎度無視されていたと言う。しかし、レイは自分に話し掛けられたと気が付いていなかった。お互い誤解をしていた事がわかり、これからは仲良くしようと握手を交わしたのだった。
「お前さ、キラキラした目で説教聞くなよ……おかげで司教様の説教に拍車かかってた」
司教様と上級生達と別れた後、サムとレイは二人、木の下で話をしていた。
「え?」
レイはサムの言っている意味がわからず、首を傾げた。
「説教はイヤなもんだぞ? あれするな、これするなって大人から言われるんだ!」
サムがレイに強めの口調で言うと、レイはキョトンとした顔でサムを見た。
「説教、勉強になったよ? ぼく、説教初めて聞いたんだけど、なるほどって思った…!」
レイが少し興奮気味に言うと、サムは「えー…」と引き気味の表情を見せる。
「お前、変わってんなぁ……」
「君の事も褒めてたよ?」
「ほ、褒めてた!?」
レイの言葉にサムが素早く反応した。
「うん。『サムは明るく元気で、皆んなに笑顔を与える存在だ。村の人達みんなに愛されているからこそ、村の為にその力を使え』って言ってた」
レイが言い終えると、サムは驚いた表情を見せる。
「そ、そうだったのか! こ、今度はおれも、ちゃんと、聞いてみるか……」
「うん。そうしてみて」
サムが宙を仰ぎながら言うので、レイも釣られて宙を見ながら頷く。
そして、ハッと思い出したようにサムを見た。
「そういえば、さっきの蹴り、すごかった…!」
「だろ! おれの新技だ! 名付けて『サム・スプラッシュ』!」
「おぉ……!」
胸を張るサムに、レイが目を輝かせる。
「これから、まだまだ新技作るから、楽しみにしとけよ!」
レイに向かって、拳を突き出し親指を立てると、サムはニカッと笑った。
「そういえば、名前言ってなかったな。おれはサム! サム・ブラットだ。宜しくな!」
「ぼくは、レイ・シェルマン」
ペコッと頭を下げるレイ。
「レイ……良い名前だな!」
サムが「かっこいいじゃん!」と付け加える。
レイは初めて名前を褒められ、少し戸惑った。
「あ、ありがとう。サムも良い名前だね」
レイが言うと、サムは明らかに不服そうな表情を見せた。
「えぇー!? おれはもっと強そうな名前にしてほしかったぜ! ヘラクレスとかさ!」
「そうかな。サムもかっこいいし、親しみやすい気がするけど」
レイが首を傾げサムを見る。
するとサムは、顔を赤らめ、レイを凝視していた。
言葉に詰まったように視線を逸らすと、急に声を荒げる。
「お、お前は……ッ、褒めてもなんも出ねーぞ…!」
さっきまで勢い付いていたサムが照れていると気付き、レイは驚く。
そしてーー
「はは」
思わず笑ってしまった。
コロコロと表情を変えるサムが面白く、レイの口元は緩みっぱなしだった。
すると、サムが目を見開き、深い茶色の瞳を輝かせる。
「レイ…! お前、笑ってた方が良いぞ!」
「え?」
「ぜったい笑ってた方が良い!」
サムの勢いにレイは少し面食らった。
「もう泣くなよ!」
「が、頑張る……」
レイは勢いに負けて、ぎこちなく頷く。
「また泣かせてくる奴いたら、おれが倒してやるからな!」
サムがニヤリと笑って見せるが、レイはサムの言っている事が不思議だった。
「え、な、なんで……」
なんで、そこまでしてくれるのだろう…そんな気持ちがレイの中で渦巻く。
するとサムは拍子抜けしたような表情でレイを見つめる。
「なんでって、おれ達、友達だろ?」
当たり前のようにいうサム。
レイはそれが衝撃だった。
「……友達」
レイにとって初めての友達。
(友達……!)
レイが心の中でも唱えると、心の中に温かな風が吹いたような気がした。
ドキドキと心臓の鼓動が速くなる。
(嬉しい…ッ!)
レイは嬉しさで胸がいっぱいになった。
サムと目が合う。
するとサムは満面の笑みを見せた。
その笑顔は、司教様の言う通り、皆んなが愛する太陽のような笑顔だった。
「そういうことだ! これからも宜しく! レイ!」
「! うん…!」
その時、マリーの言葉を思い出した。
『別れがあれば出会いもある』
(ウィア……母さんとの唯一のつながりが居なくなって寂しい……けど、新しい出会いーー友達が、出来たよ)
この出会いは、レイの一番大切な記憶。
揺らめく木漏れ日の中、春の匂いが二人を包み込む。
そしてあの笑顔が、
ずっとレイの心を照らしていたーー。
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