3-2
その日の勉強会の内容が、レイは全く身に入らなかった。常に自分の手の平を見つめ、冷たくなったウィアの感覚を思い出していた。
司教様のお話も終わり居なくなると、レイは早く帰ろうと立ち上がる。
しかし、いつもの如く上級生に取り囲まれた。
(またか)と、レイは思った。
いつも通りに話だけ聞いて帰ろうと深呼吸をする。
「もう帰るのかよ? 相変わらず友達いねーのなぁ」
(始まった)
レイはいつもの無表情で、特に答えることもなく相手を見る。
「まぁ、1人でも寂しくないんだもんな?」
「そうだった!」
そう言って三人が笑い、レイを指差す。
(大丈夫。ぼくは寂しくない。マリーさんと……)
そう思った瞬間、レイは胸がギュッと締め付けられた。
(そうだ。ウィアは、もう、居ないんだ)
その時、胸が苦しくなり、レイは戸惑った。
何かが、胸の奥で押しつぶされるような感覚。
それは、ずっと見ないふりをしていた何かだった。
徐々に目頭が熱くなる。
すると、頬に何かが、たくさん伝っていくのを感じた。
笑っていた三人もレイを見て仰天している。
レイの目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちていたのだ。
「え?」
レイは驚いた。
物心がついて、泣いたのは、ほぼ初めてかもしれない。
そして、胸の奥から込み上げてくる苦しさに、息が出来なくなる。
「う…は…っ、く……ぅう……」
その時、レイの頭にマリーの言葉がよぎった。
『私は、寂しいわね……』
「寂しい……っ」
レイがそう呟くと、更に涙が溢れた。
「ぼくも、寂しいんだ……」
レイが顔を歪めた。
その時ーー。
茶色の髪を揺らしながら、レイの前を走り通る少年。
レイはハッと、その少年の後ろ姿を見た。
その背中は同じ背丈なのに、大きく見える。
その少年は「たぁあーーー!!」と叫び地面を蹴り飛び上がる。そして上級生に向かって足を突き出すと、その蹴りは見事に上級生の1人に命中した。
一瞬の事で、その場は騒然となった。
跳び蹴りを喰らった上級生は、鼻を押さえながら泣きじゃくる。他の上級生が少年に向かって怒りを露わにした。
「サム!! お前何しやがる!!」
するとサムと呼ばれた男の子は、仁王立ちする。
「いやいや! せんぱい達こそ何してんですか! 三人でこの子泣かせて!」
「うっ……いや、それは……」
サムに言われ、上級生達は慌てる。
それを横目にサムはレイを見るなり、目を丸くした。
「って、めっちゃ泣いてるじゃん!」
サムがレイに駆け寄ると、
「ごめん、ハンカチとか持ってねぇんだ!」
そう言って服の袖でレイの涙を拭い始める。
「お前も泣くんなら言い返せよな! ずっと見ててイライラしてたんだ!」
「……」
レイはサムの言葉に返事をせず、目を見開いたまま、サムをずっと見ていた。
「おい、なんとか言えよ」
痺れを切らしたサムがレイに怪訝な表情を向ける。
すると、レイはやっと口を開いた。
「か……」
「か?」
サムが首を傾げ、復唱する。
それと同時に、レイは目を輝かせた。
「かっこ、いい……!」
「へ?」
サムはポカンと口を開けたまま、目を瞬かせた。
暫くすると、騒ぎを聞きつけた司教様が戻ってくるなり、レイ達の元へやってきた。
その後は事情を聞かれ、レイとサム、そして上級生三人は、司教様から長い長いお説教を聞かされたのだった。
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