3-1
レイがサムと出会ったのは、六歳の時だった。
四年前に母のルナが亡くなり、レイはマリーと、ルナが森で助けた白い小鳥の"ウィア"の、二人と一羽で暮らしていた。
朝起きたら、まずはウィアのカゴに掛けているマリーお手製のクロスを取り、朝日を浴びせてあげる。そして、マリーと共に庭の畑に水を遣り、朝食を一緒に作り、食べる。
これが日課だったレイ。
ルナが居なくても、マリーとウィアのいる毎日は温かく、楽しい日々を過ごしていた。
週に二回、村の中心に立つご神木のような木の下で、司教様が来ては勉強を教えてくれていた。レイも小さい頃からマリーに連れられ通っていたが、今は一人で勉強を聞きに行っていた。
この頃からあまり笑わなかったレイは、同じ年頃の子達と、なかなか馴染めず、いつも一人でいた。
「お前、なんで笑わないんだよ?」
「母ちゃんいないけど、寂しくないんだろ?」
「何考えてるかわかんない奴だな!」
そんな言葉を投げ掛けてくる年上の子供達はいた。
しかし、レイは気にしない。
(ぼくは、母さんいなくても寂しくない。マリーさんとウィアがいるもん)
そう思えば、不思議と寂しさを感じなかった。
そんなレイに上級生達は司教様の目を盗んでは、会う度に声を掛けてきた。心配そうに見ている周囲の子達の目も知っている。
しかし、レイは何食わぬ顔でいつも受け流し、一人帰路を行くのだった。
そんなある日。
朝起きたレイは、いつも通りウィアのカゴのクロスを取り、声を掛けようとした。
しかし、いつもと違う光景にレイは戸惑う。
カゴの床に横たわるウィアがそこにいた。
レイは一瞬固まるが、ピクリとも動かないウィアに違和感を覚え、急いでカゴを開けた。
息を呑むように手を差し入れ、そっとウィアを掬い上げると、フワフワで温かかったウィアは、固く、冷たくなっている。
ウィアの身体は、小さく、思っていたよりも重くてーーまるで、時が止まっているようだった。
レイは初めての感覚に手が震える。
すると、マリーの声が聞こえた。
「レイー? ウィアに餌はやったのー?」
レイは返事が出来ず、ウィアを見つめ続ける。レイの異変に気付いたマリーが近付くと、その手の平を見て、「まぁ…」と声を漏らした。
「ウィアは、お空のお星様になったのね」
「……」
マリーの言葉にレイは六歳ながらに察した。
ウィアは、死んでしまった。
母と同じ、居なくなってしまった。
心にポッカリと穴が空いた気がした。
すると、レイの頭にフワリと優しい温もりが乗せられる。
「レイ、ウィアのお墓を作ってあげましょ?」
「……うん」
レイの頭を撫でながら悲しげに言うマリーに、レイはこくりと頷いた。
母の隣に小さなウィアのお墓を作り、マリーと庭の花を摘んでお供えをした。
「出会いがあれば別れもあるの。その逆もあるのよ。別れがあれば出会いもある」
「そうなの?」
「えぇ。だから何か出会いがあるかもしれないわね」
マリーの言葉にレイはこくりと頷いた。
それから、レイはいつも通りに水遣りをして、朝食を作り、食べる。
しかし、食事はなかなか喉を通らなかった。
「レイ、今日は司教様の日だけど、お休みしても良いのよ?」
優しく気遣ってくれるマリー。
しかし、レイは気丈な態度を見せた。
「マリーさん、ぼくは大丈夫」
そう言うと、レイはマリーを見つめる。
「マリーさんは…大丈夫…?」
マリーは一瞬、目を見開いたが、眉をハの字にして「そうねぇ…」と手元のティーカップに視線を移した。
「私は、寂しいわね……」
レイを見て悲しげに微笑むマリーに、レイの胸はギュッとなった。レイは急いでマリーの横の椅子に移動し、立ち上がると、マリーの頭を「よしよし」と撫でる。
マリーはその行動に驚いた。
「マリーさん、ぼくが居るからね」
「レイ……!」
マリーは目を潤ませる。
そしてフワッと笑顔を見せると、
「ありがとう、レイ。元気が出たわ」
そう言って嬉しそうにレイを見つめた。
レイは「うん」と頷くと、急いで出掛ける支度をした。
「じゃあ、マリーさん。いってきます」
「気を付けてね!」
マリーの明るい声に後押しされながら、レイは駆け出していった。
.




