2
襲いかかる黒い塊は、赤黒い眼をレイから片時も離さなかった。
振り落とされた両腕をなんとか交わし、レイは溢れ出る魔力を魔物に食らわす。
その度全身に痛みが走り、レイは苦しんだ。
レイは戦い方を、何も知らない。
とにかく、ひたすら魔力を放出させ、
ただ、がむしゃらに敵を向かい打った。
まるで、心の痛みを打ち消すかのように。
攻撃が偶然急所をかすめ、魔物の動きが止まった。
その刹那――。
突然、レイの体内で、光が脈打つように全身を走った。
そして脳裏に現れたのは、あの【ドラゴンの目】だった。
「ぐっ…ぁあぁあ……ッ!」
レイは全身を刺すような痛みと、黄金の瞳への恐怖で体が震え、汗が噴き出た。
身体が支配されるような苦しみ。
しかし今のレイにとって、こんな痛みや苦しみは痛くも痒くもなかった。
親友を失った悲しみに比べれば、ずっと。
(もう、僕は……どうなっても、良い……ッ)
そう思った瞬間、レイは人間とは思えぬ声で、空へ向かって咆哮した。
「ッーぁあアァあアァぁあぁあアァああぁぁあーー!!!」
それは、地を割くように空を突き抜け、森の鳥達が一斉に飛び立つ。
そんな中ーー。
『レイ! 俺達ずっと、親友だぞ!!』
『俺達二人で、村を守ろうぜ!』
頭に響き渡る声。
叫ぶレイの頬を熱いものが伝う。
それが、体の痛みなのか、心の痛みなのか、レイには、もう、わからなかった。
すると、レイの中で走馬灯のようにサムと出会った時の事が、思い起こされた。
サムと出会った、春の温かい日のことをーー。
.




