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竜血少年は、力加減が難しい  作者: moai
始まりの儀式
7/36

3-2



丸太を組み合わせて建てられた木造の家は、室内からもその木肌が見え、木の温もりに包まれた内装だった。




マリーの趣味である刺繍の施されたレースや布が、家具やソファ、床にも敷かれている。机には庭で採れた花が飾られ、天井や梁にはドライフラワーやレースが吊り下げられており、華やかでありながら落ち着いた雰囲気を醸し出していた。




壁付けキッチン横には大きな煉瓦造りの暖炉がある。そこに吊り下げられた釜のスープはコトコトと煮込まれており、食欲のそそる香りが家中に満ちていた。




レイは、中央に佇む木製の大きなダイニングテーブルにカゴを置くと、食器が並べられているのに気付いた。レイの様子を見てマリーは、声を掛ける。




「レイ、その器に葉物の野菜をちぎって並べてちょうだい。それから赤い実はそのまま、果実は一口サイズに切って乗せてね」




いつものようにテキパキと指示をするマリーに、レイは頷き、慣れた手つきで野菜や果物を並べていく。


マリーはスープを食器へ注ぎ入れ机に置くと、布を被せていたパンを手に取り、4枚に切り分け皿に並べた。


最後に、レイが盛り付けたサラダに、マリー特製のドレッシングをかけて--昼食の完成。




二人は指定席に座り、手を組むと祈りを捧げる。




「さぁ、食べましょう」


「いただきます」




マリーの穏やかな合図を聞き、レイはスプーンを手に取りスープをすくった。




マリーの作るスープは色んな野菜が細かく切られており、そこに同じ大きさにカットされたベーコンも入っている。一口に含むと、煮込まれ柔らかくなった野菜が舌の上でとけていく。




レイは、このスープが大好物。


またもレイの心は満たされていった。




「レイは、このスープが好きねぇ」




マリーがレイの至福そうな表情を見ながら笑う。




「うん。……幸せの味がするから」




レイは再びスープをすくい、口に運んでいく。




「あらあら、こんな田舎スープをそう言ってくれるのは、レイだけだよ」




嬉しそうに笑うマリーはレイにパンを渡す。レイはパンを受け取りながら、今日の司教との会話をふと思い出した。




「そういえば、司教様から『鑑定の儀式』に遅れないようにって言われた」


「おや! 儀式は、いつだったかしら?」


「明後日だったかな」


「そう……もうレイも16歳なのね」




しみじみとレイを見つめるマリーは、何かを悩み始めた。




「うーん、少し早いけど……もう渡しちゃおうかしら!」


「?」




マリーは何か決意したように頷くと立ち上がり、2階の部屋へと向かう。


レイは、パンを頬張りながらその姿を見送ると、マリーが戻って来るのを待った。


レイは野菜をフォークに刺し、口に入れる。シャキシャキとした葉物の食感と、採れたて果実の甘味、そしてオリーブの効いたドレッシングが最高に合う。




(流石マリーさん、このドレッシングも最高なんだよな)




「堪能してるって顔ねぇ」


「!」




レイが野菜を頬張っていると、マリーが降りてきた。驚いたレイは、ゴクリと喉を鳴らし野菜を呑み込む。




「あらあら、焦らせちゃった?」


「だ、大丈夫…」




レイが胸を押さえながら顔をあげると、マリーの手には白いレースの小袋が握られている。


レイの視線に気付いたマリーは、「はい、これ」とレイに差し出した。




「これは…?」




レイがカトラリーを置き、小袋を受け取ると、マリーは微笑む。




「それは、あなたのお母さん--ルナから預かっていた物よ」


「……母さんから?」




レイは、久しぶりに聞く母親の名に、一拍心臓の跳ねる音がした。


マリーは、驚きの表情を見せるレイを見ながら、静かに頷き続ける。




「レイが、16歳の『鑑定の儀式』を受ける時、これを渡してほしいと頼まれていたの。そのレースの小袋も、私が教えて、ルナが一生懸命作っていたわ」




マリーは懐かしそうに小袋を見つめる。




「その中身を肌身離さず、身につけていてほしいと言っていたわよ」


「中身…?」




レイは、レースの紐を解き、小袋の中身を取り出す。




すると出てきたのは、透き通った透明の石だった。


石には、見た事のない金色の模様が細かい線まで丁寧に刻まれており、細い皮の紐が通されシンプルなペンダントになっている。


その石を手にした瞬間、レイは小鳥を乗せているようなほのかな温もりを感じた。




「綺麗な石……」


「それは、生前ルナが身につけていた物だね」


「……そうなんだ」




レイは石を見つめながら、少し浮き立った声で答えた。




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