表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/98

1-4



サムにだけは、そんな目で見てほしくなかった。


何処かで期待していた。


きっとサムなら、どんな自分でも受け入れてくれる、と……。




たが、友の今の顔は、明らかに恐怖におののく表情だった。




レイは胸が締め付けられる思いがした。


魔力のせいで痛む身体よりも、苦しい。




心が、痛い…。




きっと優しいサムの事だから、これからも恐怖を抱きつつ、笑顔を見せてくれるだろう。




だけど、村の人達にとっても、サムは太陽みたいな存在だった。希望の光のように明るく照らしてくれる人だった。


自慢の親友。




そんなサムが、自分のせいで、村の人達から嫌われてほしくない。




(それならいっそ、僕の事を、嫌いになってよ……)




レイは倒れていた魔物が身体を起こしているのに気付き、自分の気持ちを押し殺す。




「立って」




感情のない声を作り、サムを立ち上がらせると、レイはサムを背に話し掛ける。




「逃げて、サム」


「レイ? ど、どうしたんだよ?」




サムは動揺した様子で聞いてくる。


しかし、レイは答えずに、言葉を続けた。




「早く、逃げて……!」




レイは振り返らず、出来るだけ声が震えないように話す。




「何言ってんだ! レイも一緒に……ッ」


「良いから早く行けって!!」


「!?」




レイはサムの顔を見ずに叫んだ。




今親友はどんな顔をしているだろうか……。




「サムがいると、足手まといなんだ」


「え……?」


(足手まといなんて、思った事は無い)




「だから、邪魔なんだよ……っ」


「な、なんだって……!」


(邪魔だと思った事も一度だって無い)




「いつもヘラヘラしてて、嫌だったんだ」


「レイ?」


(違う……ッ、いつもサムの笑顔に救われてたんだ)




「暑苦しくて、鬱陶しかった……」


(何かあればすぐに飛んできてくれて……)




「いらないお世話が多過ぎるんだよ」


(常に僕の事を考えてくれて、)




「本当に嫌だった…ッ!」


(本当は……! いつもいつも感謝してたんだッ)




「正義感振りかざして、ヒーロー気取り」


(正義感が強くて、ヒーローみたいなサム)




「もう、うんざりなんだよ!!」


(君は、僕の憧れなんだ…!)




「サムとは、親友じゃない……!」


(本当は、ずっとずっと、親友でいたいよ…!)




「もう、僕とは、関わらないで」


(本当は、これからもずっと、笑い合っていたいんだ…!)




レイの視界は揺らいでいた。


瞳に溜まる涙は今にも溢れ落ちそうだった。




するとーー




「それ、本気で言ってるのか……?」




静かに、そして震えるサムの声が聞こえた。




「……!」




サムは泣いているのだろう。


それに気付いた瞬間、レイの瞳から涙が零れ落ちた。




「う、嘘、だよなぁ? レイ……そんなの嘘だって、言ってくれよ………っ!」




震える声で絞り出すように訴えるサム。


その声には混乱と絶望の色が伺えた。




レイは振り返りたかった。




そして、抱きしめたかった。




傷付けたくなんてない。泣かせたくもない。




本当の気持ちを伝えたかった。




だが、レイはもう決意していた。




『もう、サムとは、親友じゃない』




振り返ってサムの顔を見た瞬間、その決意が揺らいでしまいそうだった……。




レイは本音をグッと胸の奥に押し込め、立ちあがり空気を震わす程の咆哮する魔物を見やった。




「早く、行って……っ!」




レイが振り絞るように叫ぶと、暫しの沈黙が流れた。レイは背中越しに、サムの迷いを感じる。




そしてーー駆け出す音が森に響いた。




遠ざかっていく足音が、やけに大きく、寂しく響く。その一歩一歩の音が、レイの心を締め付けた。


そして、音が消えた。風も、森のざわめきも一緒に。




レイは視界が霞んで何も見えない中、小さく微笑みながら呟き、心の中で叫んだーー。




「さようなら……ッ」






僕の大切な親友……!






.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ