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初めて見る魔物ーー。
世間で騒がれているが、全く現実味を帯びていなかった。しかし、いざ目の当たりにすると、恐怖で動けない。身体が震える。
(エリオットさん達は、こんなのと戦ってるの……?)
エリオット達、先鋭部隊の凄さを思い知るレイ。
サムに目を向けると、同じように言葉を失い、目の前の巨大な怪物を凝視していた。
サムは先程、専属魔法を見せてくれて疲労している。レイは自分がなんとかしなくてはと、再び魔物を見た。
「ッ!」
その時、魔物と目が合う。
レイは自分が狙われていると瞬時に察知した。
(逃げなきゃ……!)
頭の中で警鐘が鳴る。
しかし身体が動こうとしない。
震えも止まらない。
その間に赤い光が消え、宙に浮いていた魔物の巨大な足が、ゆっくりと地を踏み締めた。その瞬間、大地がわずかに沈む。
その途端に、二足歩行の魔物は片腕を大きく振りかぶる。
(動け、動け……ッ)
レイは念じるが、足が動かない。
魔物はピタリと動きを止める。そして次の瞬間、恐ろしい程のスピードで片腕を振り下ろした。思わぬ速さにレイは驚く。
(や、やられる!)
レイがそう思った時だった。
「レイーーッ!!」
サムの叫びが聞こえると、レイは抱き抱えられ、そのまま横へ飛び込むように移動する。
それと同時に、レイの居た場所へ魔物の片腕が振り下ろされ、地面に食い込んだ。
凄まじい地響きが鳴り、砂埃が舞う。
レイは背中から地面に倒れたが、すぐに目を開けた。
「サム!!」
レイの上で項垂れるサムは、顔を上げると顔を歪めながらレイの元いた場所を見やる。
「か、間一髪ッ!!」
サムの変わらぬ声にレイは安堵する。
しかし魔物は既に逆の片腕を振り上げていた。
「レイ、逃げるぞ!」
サムは急いで立ち上がると、レイの手を取り、引っ張る。レイはサムのおかげで立ち上がり、走り出した。
振り下ろされる片腕のギリギリの範囲までレイとサムは逃げ切るが、その叩き付けられた振動で、二人はバランスを崩し倒れてしまう。
急いで振り返ると、魔物はレイをジッと見ている。
(やっぱり、僕を狙ってる……)
そう思ったレイは立ち上がると、サムと魔物の間に急いで移動した。
そしてサムに震える声を掛ける。
「サム、逃げて……」
「レ、レイ?」
サムは驚いた表情でレイを見上げる。
(サムを、助けないと…ッ!)
魔物が動き出そうとする。レイは恐怖で震える中、急いで魔物を睨み付け、心の中で叫ぶ。
(お願いだから! 暴走して良いから! ドラゴン…ドラゴンの力、溢れてッ……!!)
レイが念じるとドクンと心臓が大きく跳ねる。
「うぐっ……!!」
レイは、身体を突き刺すような痛みを感じた。
その瞬間、レイの身体から一気に黄金の光が放たれ、突風が吹く。
「うわっ!!」
サムの声が聞こえ、レイは胸を押さえながら、サムが後ろへ吹き飛ばされるのを見た。
「くっ……、サム…!」
魔物は"光"属性が弱点なだけあり、突風を受けただけで、苦しみながら後ろへ倒れている。
その間、痛みに耐えつつレイはサムに近付き、サムの身体を起こした。
すると、目を開けたサムがレイを見て、顔を歪めた。
「レイ……ッ、目が!」
「……目?」
レイは、前にもエリオットから言われた覚えのある言葉に、首を傾げる。
「目が、金色になってる! 瞳孔も、蛇みたいに……ッ!!」
「え……」
レイはサムの言う『目』に心当たりがあり、驚愕する。
まさか、そんな……。
嘘だ……ッ。
レイは血の気が引いた。
【ドラゴンの目】
レイが恐怖を感じる、あの瞳。
今の自分の瞳が、そのドラゴンと同じ瞳になっている。自分が恐れている存在に、自分がなっている。
ショックでレイは震えた。
そして、目の前にいる親友も顔を歪め、恐怖している。
恐れていた事が、起きてしまったーー。
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