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「エリオットさん、戻らなかったなぁ」




翌日、レイはマリーに頼まれ、カゴいっぱいに収穫したエンドウ豆のスジを取っていた。




外は晴れ晴れしており、窓から見ると、庭の草木がたっぷりと日差しを浴びながら、柔らかな風になびいている。


外に出たい気持ちを抑えながら、レイはエンドウ豆に向き合う。




マリーは朝から出掛けている。


今日は月に一度、村の人達総出で教会に行く日で、隣街ーーアルラユの教会へ行っている。レイは昨日のこともあり、教会に行くのは断念した。




静まり返った村に、今いるのは自分1人なのだろう。レイはそんな不思議な感覚に包まれた。


エリオットも戻らなかった為、レイは1人家で過ごす。




(マリーさん、凄いなぁ……昨日は商店街の人達に一喝しちゃうし、今日も堂々と教会に行っちゃったし……僕も見習わないとなぁ)




レイが黙々と作業しながらマリーの強さを実感する。




マリーに魔力のことを"綺麗だ"と言われ、レイは魔力の感じ方が変わった気がした。


恐怖でしかなかった力……もしかすると、自分がそう思っていただけで、怖がるものではないのかもしれない。昨日見た魔力は、確かに綺麗だと思った…。




だが、もう一つ問題がある。




あの『黄金のドラゴンの目』だ。あの目はレイにとって、まだ恐ろしいものでしかなかった。




(飲み込まれてしまいそうな、あの目……だけど、夢では助けてくれようとしてたなぁ)




先日見た『黄金のドラゴン』の事を思い出しつつ、レイはエンドウ豆を手に取る。


気が付くと、山盛りあったエンドウ豆は、半分処理を終えていた。かなり集中していたらしい。


マリーが帰るまで、まだ時間がある。レイは何をしようかなと1人考えていた。




すると、不意に頬を突かれるような感覚に、レイは(…妖精かな?)と思いながら、頬に触れ顔を上げた。




その時ーー




ートン、トン、トン




玄関の戸が叩かれた。


レイは不審に思いながら玄関の方を見る。




(……だ、誰だろう。この時間は、村のみんな教会に行ってる筈なのに……)




怪しい…と思いつつレイは、ひとまず玄関の前に向かう。




またあの記者や、ゲニウスと名乗る人達のような不審な訪問者かもしれない。レイは警戒し、扉を開けるのを躊躇った。しかし、ふとレイは気が付く。




(精霊達が騒ついていない……)




辺りの気配が、特にピリついた空気をしていなかった。変な人ではないと感じたレイはゆっくりと玄関を開ける。


不安を覚えながら扉を開けたと同時に、突然抱き付かれ、レイは驚く。




「レイ!!」


「!」




名前を呼ぶ声と揺れる茶髪を見て、レイは目を見開く。嬉しさのあまり手が震えた。




会いたくて堪らなかった人物ーー




「……サ、サム?」




信じられないと声を上ずらせながらレイが名前を呼ぶ。すると、「おう!」と返事が耳元で聞こえると、その人物はレイから離れる。


紛れもなくレイの目の前にいるのは、サムだった。ニカっと笑うサムに、レイは目頭が熱くなる。




(サムだ……!)




レイが感激していると、サムはいつもの調子で話しかけてくる。




「レイ、元気だったか? あれから体調大丈夫かよ?」


「あ、なんとか…ね。サムは、変わりない?」




レイは先程までの感動から一変、サムに釣られていつも通りに返す。




「俺は変わらず元気だぜ!」


「そっか……良かった」




レイが微笑むと、サムも笑った。


久しぶりの親友の笑顔に、レイは今までの辛さも吹き飛んでいった気がした。しかし、すぐにサムに質問する。




「サム、今日は教会に行く日じゃ……」


「そんなの、居ても立っても居られなくって抜け出してきた!」




前のめりで言うサムは、すぐに眉をハの字にする。




「母ちゃんから、レイが怪物になったって、村中が噂になってんのを聞いたんだ」


「……ッ」




レイは昨日の事だと、すぐにわかった。サムの耳にも届いていた事にショックを隠しきれない。サムはどう思っただろうかと怖くなり、一歩後退るとレイは、サムから視線を外してしまう。すると突然、両肩にズッシリと重みを感じ、レイはびくりと身体を震わせた。




「レイ! あんな話、気にするなよ!」


「!」




ハッキリした言葉に、レイは目を見開き、パッとサムを見た。




「俺は、レイが怪物なんて見えないから!」




サムの真剣な表情を見て、レイの心は温かくなった。そしてサムの前向きな言葉がレイの気持ちをより強くしてくれる気がした。


気が付くと視界が揺らぐ。


レイは涙が溢れないよう上を向いた。




そして、サムと視線を合わせ、




「ありがとう、サム…!」




と微笑んで見せた。


するとサムも安心したように笑う。




「え、わざわざそれを言いに……?」




レイがまさかと思い聞くと、サムは「ふっふっふ」と怪しい笑みを見せる。




「それもあるけど……今日は新技を見せに来た!」




ピースサインをレイに見せながらニヤッと笑うサムに、レイは目を丸くする。




「新技?」


「そう! 専属魔法を特訓したんだ!」


「!?」




レイは驚いた。




鑑定の儀式から一週間しか経っていない。専属魔法はすぐに習得できるのか、レイにはわからなかった。けれど、サムの事だから相当努力したのだろうと、レイは思う。


するとサムが不意にレイの腕を掴んでくる。




「レイ! 森に行くぞ!」


「え……!」




サムの言葉にレイはピクッと反応する。




目覚めた初日に、エリオットから『森には行くな』と言われた事を思い出す。




(僕の属性が魔物の弱点ーー"光"だから、狙われるって言われたけど……)




そう思いながらサムを見ると、サムはキラキラと期待を含んだ笑顔でレイを見つめている。そんな親友にレイは頷くしかなかった。




「よっしゃ! 行くぞ、レイ!」




そう言って駆け出すサムに、レイは意を決した。




(エリオットさん、マリーさん、ごめんなさい!)




心の中で謝罪しつつ、レイはサムの後を追い掛け森へと足を踏み入れるのだった。




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