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レイは、エリオットへ先に家に戻ってもらい、小屋の裏へと足を踏み入れる。
そこには、小さな墓碑がひっそりと立っていた。その横に小石で作ったお墓も横並んでいる。
レイが墓碑の前に跪くと、優しく風が吹いた。
髪をなびかせるレイはゆっくりと目を閉じて、手を組み祈りの姿勢を取る。
(5日ぶりになるのかな、やっと挨拶に来れたよ、母さん。それとウィア)
レイは心の中で墓碑の下に眠る母と、ウィアという飼っていた小鳥の名前を呼ぶ。
小さい頃、マリーから聞いたことがある。
母のルナは、『自分が死んだら埋葬は必要ない。跡形もなく燃やしてくれ』と冗談とも本気とも取れない事を言っていたらしい。
マリーは流石にバチ当たりだと『そうなった時は、火葬して、裏庭にひっそりと骨を埋葬する』と話を付け、ここにルナを埋葬したのであった。
墓前にひざまづいたまま、レイはこの数日間の出来事を心の中で母に語りかけていた。
鑑定の儀式での出来事、サムやエリオットとの事、マリーへの感謝の気持ち、そしてーー
「母さんは、父さん…と、どうやって出会ったの? 母さんは、精霊が見えていたの?」
母に対する、たくさんの疑問もぶつけた。
もちろん、返事は返ってこない。
レイは静かに目を開くと、空を見上げる。
裏庭の土の湿気と近くの森の匂い、そして春の花の香りが、風に乗ってフワリとレイを包み込む。
(平和……な、はずなのに……)
どうしてかレイの心は、不安な気持ちがなくならない。
その原因は、自分でもよくわかっていた。
"ドラゴンの血"
これが、自分の心の重い枷になっている。そして、昨日見た"黄金の瞳"が不安と恐怖心を煽ってくる。
レイは、ざわめく心を振り払うように、パッと顔を"ルナ"と書かれた墓碑に向けた。
暫くして、ゆっくりと立ち上がる。
(母さん、戻るね)
そう語り掛けると、レイはマリーとエリオットの待つ家の玄関へと足を向けた。
その時、レイは怯える視線に気が付かなかった。
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