表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜血少年は、力加減が難しい  作者: moai
始まりの儀式
6/40

3-1



商店街を抜けて少し歩くと、赤い屋根瓦が見えてくる。


森の出入り口より少し商店街寄りに建つ2階建ての家の前には、大きな庭が広がっていた。




レイが敷地の前にある門扉を潜り庭へ足を踏み入れると、色とりどりの草花が迎えた。若葉を付け出した木々からは、のどかに小鳥の鳴き声が聞こえる。




レイが春の訪れを感じながら玄関へ向かっていると、庭の一角で女性が汗を拭いながら作業している姿に気付いた。




「マリーさん」


「あら、レイ! お帰りなさい!」




マリーと呼ばれた女性は、顔を上げてレイに笑顔を向けた。


少しふくよかな体つきのマリーは、機敏な動きでてきぱきと作業を続けていた。


近付いてくるレイに、マリーは声を掛けた。




「今日の勉強会はどうだった?」


「うん、充実してた」


「そうかい! それは良かったね!」




明るく通る声でレイに言うと、「その頭どうしたの!?」とくしゃくしゃの髪の毛を見て驚く。




「エリックさんから、野菜もらった」


「まぁ! エリックったら、気を遣わなくて良いのに!って事は…その頭もエリックだね?」




マリーが納得の表情を浮かべると、レイは静かに頷く。


レイの様子を見てマリーは「やっぱりね」と眉を下げながら微笑んだ。




「さて、レイも帰ってきた事だし、お昼にしましょう」


「うん」


「先に手を洗ってきちゃいなさい」


「わかった」




レイは、返事をすると家の裏側にある井戸の方へと向かった。




井戸の水を汲み手を洗うレイは、ついでに貰った野菜も洗い始める。水の冷たさがちょうど心地が良く、レイは思わずしっかり野菜を洗っていた。




するとマリーも井戸場へやってくる。




「レイ、野菜も洗ってくれてたの? ありがとうね」


「つい、水が気持ちよくて」


「ふふ、そうね。暖かい気候になってきたから、井戸水がちょうど良いわよね」




マリーが野菜や果実を入れたカゴをゆっくり下ろすと、レイは「これも洗っておくよ」とマリーを見た。




「あら、じゃあお願いしようかしら! 私は戻ってスープを温めておくわね」




そう言って、マリーは素早く手を洗うと、家の方へと戻っていく。その後ろ姿を見送り、レイは受け取った野菜を洗い始めた。




マリーとのいつものやり取り、そしていつもの作業。


レイは、この”いつも通り"の日常に、安心感を覚えた。




空を仰ぎこの空気感を満喫する。


土の匂いが鼻を抜け、そよぐ風を肌に感じ、水の心地よい音が聞こえてくる。




(……平和だなぁ)




レイは、なんとも言えない心地よさを噛み締めていた。











暫く時間が経つが、レイは帰ってこない。




「レイったら遅いわねぇ。まぁた外でぽやっとしてるのかしら」




マリーは、煮え始めたスープをかき混ぜてレードルを置くと、火を弱めて井戸場へ足を運んだ。




すると、マリーが予想していた姿が目に飛び込んでくる。


空を仰ぎながら、目を瞑るレイの姿。




「ふふ、やってるわね」




マリーは、いつものレイの姿に笑った。




レイは天気良いの日に、一人で空を見上げては、その場の音や空気、風を感じてボーッとする事がある。


マリーは、この姿を"ぽやっ"とするとよく表現していた。




「レイー、ご飯にするわよー!」


「っ!」




声を掛けられたレイは、ハッと目を見開き、マリーの方へと目を向ける。




「マリーさん、ごめんなさい…!」


「良いのよ! ぽやっとしてるレイは、いつもの事だから!」




そう言って笑うマリーに、レイは「ぽやっと…」と複雑そうな表情で呟く。


このやり取りもいつも交わしており、マリーはさらに笑った。




「さぁ! その野菜はサラダにするから、持ってきて頂戴!」


「わかった」




レイは、しっかり洗った野菜を綺麗なカゴに移すと、急いで家の中へ運んだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ