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3-1



次の日ーー




レイとエリオットは庭に出ていた。




家の前には広い庭が広がっているが、家の裏に回ると、こぢんまりとした小屋がある。


その前は、井戸と少しスペースがあり、2人はそこで向き合うように立っていた。レイは、静かにジッとエリオットを見つめる。




すると、右手をかざすエリオットは目を閉じ、何かに集中する。




暫くすると、かざしていた右手に風が巻き起こり、泡のようにぶくぶくと透明な水滴が現れた。その水滴は風の中心に集まり出し、一つの大きな水の玉となる。




「へぇ……!」




レイが目を輝かせ感嘆を漏らすと、エリオットがゆっくりと目を開けた。




「これが、水性魔法だ。属性がなくても使える水の魔法で、空気中に含まれる水分を魔法で凝縮して、液体にする事が出来る」




エリオットがレイに見せるように、右手を差し出す。




「量は、魔力の大きさや、その場の湿度によって変わる。飲み水にしたり、浮遊魔法と併用して洗濯をする事も出来る。攻撃魔法としての実用性はあまりないな」




右手に浮かぶ水をレイがぷにぷにと人差し指で突き、その感触を楽しんだ。


エリオットがその様子に溜め息を吐き、レイに顔を近付けた。




「聞いてるのか?」


「聞いてます」




レイはエリオットに言われ、すぐに突くのをやめて答える。


疑いの目を向けられるレイは、ひやりと冷や汗を流した。「まぁいい」と呆れ顔のエリオットは、




「空気中の水分を使うから、汚れていたり毒が含まれている事もある。注意しろ」




と、最後に付け加える。




エリオットの提案で、レイは魔法を"見て"学ぶ事になった。




エリオット曰く、昨日のレイの暴走の様子から、実際にやるのではなく、見て使い方を知れば良いとの事。




更に言うと、レイ自身も正直に魔法を使うのは、まだ怖いと言う事もあり、まずは見て学ぶ所から始めようと話になったのだ。




「もう一度やるから、しっかり細部まで見ていろ。魔力の流れにも気を使え」


「は、はい」




この調子でレイはエリオットから基本魔法を学んでいた。




「基本魔法は、一通り見たな」


「そ、そうですね」




レイは疲れた様子で返事をする。




見るだけなら簡単だと思っていたが、エリオットが魔法の特徴や、使っている時の仕草まで細かく見るように言ってくるので、かなり頭を使った。




(頭の中が、いっぱいだ……)




レイがそう言って項垂れていると、




「では、今から言う魔法の特徴を言え」


「!」




エリオットの地獄のような言葉が耳に入り、レイは驚愕する。


容赦なく問われるレイは、パンク寸前の頭から絞り出し、エリオットの質問に答えるのだった。






日が天辺に登る前に、レイはエリオットから解放された。




「ふぁ〜、終わったぁ」




レイがその場に座り込むと、エリオットが腕を組みレイを見下ろす。




「あんな事で疲れたのか」




余裕綽々のエリオットが怪訝な顔で言うと、レイは「はい」と素直に頷いた。




(エリオットさん、細か過ぎるんですよ)




レイは遠い目をしながら、先程までのスパルタ教育を思い出していた。何度見たかもわからない、エリオットの仕草や魔力の動き。あえて動きがわかるようにエリオットも大袈裟に魔力を使ってくれたらしい。レイにとっては有難い事だった。




(おかげで、なんとなく使い方はイメージ出来た、かも……何はともあれ、エリオットさんに感謝しないと)




まだ自身で魔法を使いたくないレイは、とりあえず納得し、心の中でエリオットに感謝した。


すると、エリオットがおもむろに口を開く。




「レイ・シェルマン。お前には魔法の才能がある」




レイは目を丸くして聞き返す。




「……え、今なんと……?」




エリオットはさも当然のような表情のまま繰り返した。




「お前には、魔法の才能が、ある」




先程より少しゆっくり目に伝えてくるエリオットに、レイは目を白黒させた。




「え、いや、それは……ないでしょう」


「ある」


「うっ……」




エリオットの目力と強い口調にレイは身じろぎ出来ずにいた。


レイは、何処からそんな自信が湧いてくるのか不思議に思った。


するとエリオットは目を伏せる。




「俺はそう思うから、お前に魔法を教えている」




「え?」とレイはエリオットを見つめる。




「俺の考えを押し付ける訳ではない。ただ……」




エリオットがフッと優しい眼差しをレイに向ける。




「いつかお前の力が、誰かの為になると信じて、学べ」




エリオットの言葉を聞いて、レイは視界が開けた気がした。




『誰かの為』なんて、考えてもいなかった。




レイはグッと震える手を握る。




「……はい!」




エリオットに大きく頷いて見せると、握る拳を見つめた。




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