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9-2



エリオットは怪訝な表情でエルフの女を見下ろす。




「"ベイクウェル家の異端児"と言われた貴方も、本当は心の奥で、助けを求めているのでは無いですか? 貴方にもディグニタス様のお導きが必要なのではないですか?」




口角を上げ、力強く告げる女。その勢いでフードの隙間から見えた髪色に、エリオットは見覚えがあった。




(それであの態度という訳だ)




フッと笑みを浮かべると、口を開く。




「あいにく、私は自分で見たものしか信じない」




ハッキリとした口調でエリオットが言うと、エルフの女の口元から笑みが消えた。




「今も、過去も、周りに助けられ、生かされている。見たもの、感じたこと、触れたこと…それを信じるのが、私の信念だ」




ニヤリと笑いながら、鋭い眼差しを女に送る。




すると、つま先立ちを止め、俯く様子を見せるエルフの女。




「……残念ですね。今の貴方となら、上手くやれると思ったのですが」




呟くように女が言うと、後ろの人間がその女に声を掛ける。話の内容は聞き取れなかったが、エルフの女は頷くと、エリオットの方へ向き直った。




「本日はこちらで失礼致しましょう。また、近日中にお伺いさせて頂きます。それでは」




言い終えると同時に、右奥にいた獣人が魔道具を掲げ魔力を送り込む。そして、ゲニウスの3人は赤い光に包まれ、その場に居なくなった。




「……移動魔道具(ワープ)か」




エリオットは、暫く魔力の流れがないか周辺を眺め、部屋へと入った。




ガチャリと玄関のドアを閉めると、レイが壁から顔を覗かせる。




「エリオットさん、大丈夫、でしたか?」


「あぁ、問題ない」




エリオットはいつも通りの態度で返事をすると、レイに近付く。




「お前は、何もなかったか?」




エリオットは精霊使いだろう人間の行動が気になっていた。




(もしかすると、精霊に部屋の中を調べさせて居たのかもしれない)




グッと拳を握るエリオットだが、レイはいつもの無表情でうーんと、緊張感なく宙を見る。




「特に何も……。一瞬、空気が騒ついて…でも、すぐに静かになった……と言いますか…」


「何だそれは」




意味がわからないと言う表情で、エリオットがすぐに聞き返す。それを見てかレイは慌てる。


あたふたと説明に悩んでいるレイに「まぁ、良い」と声を掛けるエリオット。




(ゲニウスがもし精霊に偵察させていたなら、レイ・シェルマンが居た事はわかった筈……。帰っていったと言うことは、コイツがいる事に気付かなかったのか……)




そう推測していたエリオットはハッと思い出す。




"鑑定の儀式"の日に、マッシモが発した『精霊達に好かれる体質』と言う言葉。




(精霊が、レイ・シェルマンを匿ったと言う可能性も……?)




エリオットがジッとレイを見つめる。




「ッ…?」




レイは居た堪れないといった表情で目を泳がせる。すると耐え切れなくなったのか、レイがエリオット方へ視線を向けた。




「い、色々、聞こえちゃったんですけど……ゲニウスとか、エリオットさんが、その……」




言葉がドンドン小さくなるレイ。


エリオットはハッキリと言わないレイに溜め息を吐いた。




「『ベイクウェル家の異端児』、だろ?」


「!」




レイは眉に皺を寄せながらパッと顔を上げる。


その表情は、聞いても良いのかと言う迷いが見て取れた。




(……何故こんなに人の事を気にするのか…。これもレイ・シェルマンの優しさなのか?)




エリオットが不思議に思っていると、視界でレイの身体がフラッと揺れた。




「レイ・シェルマン?」




レイの様子に声を掛けると、レイは膝から崩れるように倒れ始める。




「おい!?」




エリオットは急いでレイの身体を支えた。


レイの名前を呼ぶが、だんだんとレイの瞼が閉じていく。




(何が起こった…!?)




慌てるエリオットに、レイは苦しそうに微笑む。




「エリオットさん、すいません……なんだか、眠く、なって……」




レイは最後の言葉を言い切る前に、そのまま目を瞑り、規則正しい寝息を立て始めた。




エリオットは突然の事で、呆然と腕の中で眠るレイを見つめる。




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