9-1
エリオットが玄関をガチャリと開ける。
そこに居たのは、アイボリーのフードを目深に被った3人組だった。所々に金色や翠色の刺繍が施されている。
袖に描かれる紋様に、見覚えがあった。
(……早速お出ましか、ゲニウス)
ゲニウスーー古代ドラゴンを崇拝する団体で、当主が代わり、教会と対立する立場をとっている。
エリオットは冷静に3人組を見る。
観察するに、手前はエルフ、右奥は獣人、左奥は人間と察した。
「こちらはシェルマンさんのお宅で、間違いありませんか?」
手前のエルフは女のようで、落ち着いた高らかな声色で尋ねてくる。
「何の用だ」
エリオットは、エルフの質問に答える事なく逆に尋ねた。それに驚いたのか、ゲニウスの3人は一瞬止まる。
しかし、すぐにエルフが話し出す。
「突然の訪問で申し訳ありません。私共は、ゲニウスと言う団体の者です。こちらにいらっしゃる"レイ・シェルマンさん"にお会いしたくて伺いました」
「あの子供は居ない。帰れ」
キッパリと言い放つエリオットは、腕を組みゲニウスを鋭い目で見やる。
またも奥の2人が固まる中、手前のエルフは口元に薄らと笑みを浮かべる。
「そうですか。では何故、貴方のような教会の…しかも力をお持ちの方がいらっしゃるのですか? ……エリオット・ベイクウェルさん」
(やはりそこを突いてくるか)
エリオットは表情を変えず、小さく溜め息を吐く。
「宗教勧誘者を追い払う為だ」
「あら、それは大変ですね」
(……全く動じていない)
言われ慣れているのか、ゲニウスの3人共、口元しか見えないが余裕の態度だった。
「その為の…防音魔法ですか?」
エルフの言葉にエリオットは心の中で驚く。
「そう言う事だ」
(コイツ、魔法に精通してる者だな……)
何の変哲もない部屋……そこに魔法が施されている事に気付けるのは、魔力の強い者か、魔力の研究等を行う者達。
エリオットは、更に目を鋭くし、気を引き締めた。
「我々は勧誘しに来たのではありません。彼に提案、一つの道をお伝えしに来たのです」
(……勧誘ではなく、提案…。コイツらは、あくまで助言しに来たと言う程なんだろう。それが"勧誘"だと言うのに……)
エリオットは内心呆れる。
「レイ・シェルマンさんも、この世の理不尽さを感じる事でしょう。それも、全ては古代ドラゴン『ディグニタス』様のお導きにより救われます。悩みや苦しみは、全て、ディグニタス様のもとで意味をなします」
ゲニウスの3人が、胸の前で左の手の甲に右の手の平を乗せ、腕を水平にする。
「ディグニタス様のもとで学び、力を尽くせば、必ず私共は道を示して頂ける……どうか、その尊き選択を、誤られるように」
言い終えると3人は、まるで祈りを捧げるように暫く黙り、俯く。
だが、エリオットは見逃さなかった。
(後ろの人間、何か話している……)
不審に思い、魔力の動きを気付かれないように確認するが、特に何も感じない。
(……精霊使いか…っ)
エリオットがハッとした瞬間、フワリと柔らかな風が部屋の中に入っていくのを感じた。
それと同時に顔を上げるゲニウス。
すると、エルフの女がつま先立ちで、顔一個分も差のあるエリオットへ顔を近付けた。
「貴方も、苦労をしたでしょう……エリオット・ベイクウェルさん」
「……」
.




