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レイはサムと別れ、帰路についた。
賑わいを見せる商店街に通りかかると、突然声が飛んでくる。
「おう! レイ、元気か?」
ガタイの良い中年の男性が野菜を売りながら、レイに向かって手を挙げニッと笑顔を向けた。
「エリックさん」
レイは声を掛けられ歩みを止めると、男性のもとへ近付いた。
「勉強の帰りか?」
「そうです」
エリックという男性に問われレイが返事をすると、その横で野菜を並べていた女性が微笑み掛けた。
「偉いわねぇ!」
「いやいや、レイの事だから、今日も寝てたんじゃないのか?」
「!」
エリックに図星を突かれ、レイはピクリと反応する。
それを見て、エリックは大きな口を開いた。
「はっはっは! まぁ、勉強もほどほどにってな! ほら、これ持ってけ!」
「え…」
エリックが素早く袋に野菜を入れると、それをレイに渡した。
レイはどっさり野菜の詰められた袋に驚きながら、エリックを見る。
「お金を…」
レイは急いで財布を取ろうとするが、それをエリックが静止する。
「良い良い! 気にするなよ。レイも家族みたいなもんなんだから!」
「エリックさん…ありがとうございます…!」
「良いってことよ! マリーさんにも宜しくな!」
エリックが笑顔で返事をすると、野菜を並べ終えた女性がレイに近づく。
「レイちゃん、もうすぐ『鑑定の儀式』ね!」
「!」
レイは嫌でも耳に入ってくる話題に眉をひそめた。
「おぉ、そうだな! あんなに小さかったレイが、もう16歳か……信じられないなぁ!」
商店街でも、年に一度の恒例行事である『鑑定の儀式』の話で持ちきりだった。儀式に参加するレイは、皆の話題の種として注目を浴びているが、本人はあまり良い心地はしていなかった。
「僕は、平凡で良いんですけど……」
「なぁに言っているんだよ! 魔力はあった方が良いに決まってるだろ!」
エリックの力強い言葉に、レイはたじろぎ、言葉を詰まらせた。するとその様子を見ていた女性が思い出しように口を開いた。
「レイちゃん、最近は物騒だから、マリーさんの事しっかり守ってあげてね」
「守る?」
レイは女性の言葉に首を傾げた。
「カレン、もっと具体的に説明してやらないと」
エリックが女性に言うと、「そうね」とレイの方へ向き直る。
「最近、瘴気をまとったモンスターや動物が増えてるらしいの。レイちゃんの家は森に近いから、モンスターが現れやすいと思うわ。だから、何かあったらマリーさんとすぐに逃げるのよ」
カレンと呼ばれた女性は心配そうにレイを見つめる。レイは「わかりました」と頷く。
「セントラルの中枢機関でも問題になってるらしいんだが、浄化できるのは教会の浄化部隊か、限られた精霊使いだけ。その人数も少ないらしいなぁ」
「そうね……古代ドラゴンを崇拝する団体のゲニウスの中にも浄化できる精霊使いがいるらしいけど……それでも浄化活動は追いついてないらしいわ…」
「この村もセントラル内とはいえ、端の方だし、浄化の手も回って来ないだろうからなぁ…」
エリックとカレンは、暗い表情を見せていたが、ハッとレイの方を見る。
「暗い話になっちゃって、ごめんなさいね!」
「いえ…不安なのは、わかります」
レイが謝るカレンを気遣って言うと、カレンは「ありがとうね」と頬を緩ませた。
「私達は魔法も使えないから、ちょっと心配なのよ」
「そうだな」
カレンの言葉にエリックも頷く。不安気な表情の二人を見て、レイは野菜の入った袋を片腕で担いで見せながら口を開く。
「その時は、僕が守りますんで、安心して下さい」
出てこない力コブを必死に作りながら、安心させようとエリックとカレンを見た。
「「…っ!」」
それを見て、噴き出す二人。
「あははッ! 全然強そうに見えねぇな!」
エリックは、レイの力コブを指差し笑う。
「ふふふ、レイちゃん、ありがとね!」
「はは! 元気もらっちまったなぁ!」
「わわっ」
エリックは笑いながら、レイの頭を力一杯撫で回した。レイは、体を振り回され、無造作に伸びる黒髪はぐちゃぐちゃに乱れる。
「またいつでも来いよ! レイ!」
「気を付けてね!」
「あ、ありがとう、ございます…」
笑顔のエリックとカレンに挨拶をして、少しふらつきながらレイは急ぎ足で家へと向かった。
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