7-2
「少し待て」
エリオットはそう言うとゆっくり目を閉じた。
そして詠唱無しに、エリオットから青白い光が一気に広がる。
「わ…!」
レイは驚いて瞬間的に目を瞑る。
すると落ち着いた声色が聞こえた。
「これで中の音は外に漏れない」
その声にパッと目を開けると、レイは壁に張り付くように仄かに輝く魔力を目に映した。
「あ……これが、防音、魔法…?」
レイが天井や壁を見渡しながら言う。
「あぁ。これは保温魔法の応用だ。そう難しくはない」
そう説明しながらエリオットは魔力の放出を止めると、レイの方へと向き直った。
「では、お前が持つ魔法の核をーーお前自身で感じろ」
エリオットの声が僅かに低くなる。
「…え」
(い、いきなり…っ)
レイは突然の空気感の変化に戸惑い、慌ててエリオットを見る。
すると青白く輝きを放つ空間に、黒い祭服を纏った端正なエリオットの姿が浮かんでいた。
(……な、なんて絵になるんだ、エリオットさん…)
レイは神々しさのあまり目を閉じそうになる。
そして、いらない事を言うまいと口を噤んだ。
レイの様子を疑問に思いながらエリオットが静かに語り掛ける。
「まずは、目を閉じて、自分の鼓動を聴け」
コクリと頷き、指示に従うレイ。
目を閉じて規則正しく脈打つ鼓動を感じる。
「その鼓動に合わせて聴こえる、もうひとつの”音”がわかるか?」
「……」
レイはエリオットの言う"音"がわからず、眉間に皺を寄せた。
「すぐに聴けなくても良い。その音がわかったら教えろ」
優しく促すエリオットに頷いて反応すると、レイはもう一つの音を探す。
ドクン、ドクンと胸を打ち付ける心臓。
その音を集中して聴き続ける。
すると一瞬ーー
ドクン、ドクン……トクッ
少し遅れて小さく弱々しく聞こえてくる"音"に気付いた。
「!」
レイがハッと目を開くと、エリオットはすかさず声を掛ける。
「見つけたら、その音を聴き続けろ」
レイは音を見失わないように、更に集中して小さな音を聴く。
すると、小さかった脈動が段々と大きくなり、心臓と同じ程に感じるようになった。
(な、なんだろう……! まるで、僕を待ってたかのように、音が大きくなる……!)
レイはそれに戸惑いを感じた。
どうしたら良いのかと、急いでエリオットへ視線を移す。
すると、エリオットは「大丈夫だ」とレイを落ち着かせる。
「目を閉じて、ゆっくりとその音を辿れ。そうすると、心臓とは違う、光の臓が見えて来る」
レイは言われる通りに音の聞こえてくる根源を探した。不思議な事に、脳裏に浮かぶ真っ暗な暗闇からトクン、トクンと規則正しい音が聞こえてくる。
この音を辿り続けると、レイは真っ暗な中に眩い光を見つけた。
「え、これ……?」
この黄金に輝く光が臓器なのか? そう思いながらレイは意識をその光へと近付けていく。
「光を見つけたか。それが魔法の核ーー『真臓』だ」
「これが……ッ」
思っていた物と違い、レイは呆然とした。
温かく暗闇を照らす光。
(誰が臓器だって言ったのかな……)
レイはひたすらに輝き続ける"真臓"と言われる光を眺め、名付け親のセンスを疑った。
.




