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4-2



音が静かになったのを見計らい、レイは机からヒョコッと顔を出し様子を伺う。マリーも部屋の中からエリオットの背中を心配そうに見つめていた。




暫くすると、エリオットが家の中に入り、玄関を閉めた。その拍子にマリーがエリオットに駆け寄る。




「エリオットさん! 大丈夫だったかい?」


「えぇ、問題ありません」




口元を覆っていた布を首へ下げながら、エリオットは冷静に答えた。それを見てレイも立ち上がる。




「ありがとうね、エリオットさん。本当に助かったわ!」


「これも務めですから」




マリーの感謝の言葉に頭を下げるエリオット。




(エリオットさん、先鋭部隊の副隊長だったんだ……通りであの余裕な訳だ…)




レイは今までのエリオットの力や言動に納得する。


すると、エリオットはレイに気付き、視線を向けた。




「いきなり悪かったな」


「!」




レイは突然の謝罪に目を見開く。


そして首を横にぶんぶんと振った。




「むしろ、ありがとうございます」




一言伝えると、エリオットが視線を窓の方へ移す。




「ああ言った輩は、有る事無い事好き勝手書いて記事にする。関わらない方が良い」




先程の中年2人組の男達を思い出し、エリオットが呆れた表情を見せる。


レイは、先程の会話で気になる事を口にした。




「あの、僕が神殿に居るって……嘘ですけど、大丈夫なんですか?」




表情を変えず聞くレイ。




「あぁ。さっきのよう事を避ける為に、教会内でお前は神殿に連れて行かれた、と言う事になっている。ローレンヌ司教の指示でな」


「え」


「ローレンヌ司教様が!」




知った名前を聞き、レイとマリーがそれぞれ反応した。マリーも話に加わり、エリオットはゴホンと咳払いをする。




「はい。ただ4日前の話なので、偽造だと気付き始める者もいるでしょうが……」


「さっき来た怪しい人達ね」




マリーが険しい表情を見せる。




「ですが実際、神殿に司教達と大司教が集まり、レイ・シェルマンの事を話し合っている筈ですから、あながち嘘ではないです」




レイは一瞬、エリオットの顔を見つめる。




(……いや、涼しい顔してるけど、嘘だよね…)




淡々と話すエリオットに、レイは内心ツッコミを入れる。




(だけど……僕の知らない所では、たくさんの人達が動いてたんだ------このドラゴンの血のせいで……)




そして次第に自分の力に脅威を感じ始める。




心の中が騒つく中、ふふっとマリーが笑った。


レイは、ふと顔を上げる。




「エリオットさん、敬語じゃなくて良いわよ! 貴方は、そっちの方が自然だわ!」


「……」




笑顔で言われ、エリオットは気まずそうな顔で視線を泳がす。その変わらない2人のやり取りにレイはホッとした。


そして、ざわめく心を紛らわすように質問を投げ掛ける。




「あの、さっき聞こえた、ひょうむ? のエリオットって……なんですか?」




その瞬間、不機嫌そうな表情へと変えるエリオット。




(聞いたら、まずかった…?)




レイは冷や汗を流す。


すると、エリオットは諦めたように溜め息を吐いた。




「どこの誰か知らないが、勝手に付けた異名だ。俺の言動と表情が相手を凍てつかせるらしい」


「あぁ……」




レイが納得すると、




「なぜ合点がいった顔をしている…?」




と、エリオットが怪訝な表情を見せる。


レイは内心焦りながら「そういう訳では…」と言葉を濁した。




「それと……」


「「?」」




エリオットが、先程男達から奪ったフィルムとメモ用紙を取り出し、それらを手の平の上に乗せた。浮遊魔法でフィルムとメモ用紙がゆっくり浮かび上がる。




すると---、




---パキッパキパキッ




突然音を立てながら、フィルムとメモ用紙が一瞬にして凍っていく。




「まぁ!」


「!?」




驚くマリーとレイ。




完全に氷となった後、パキンと大きな音を立て、一瞬で霧のように細かく砕かれる。


そしてサラサラと氷が宙を漂った。




「俺の専属魔法は、"氷"だ」




エリオットが言い終えると同時に、氷の霧は静かに消えていく。




(なるほど……氷の霧で"氷霧"……)




レイは腑に落ち、大きく頷いた。


するとマリーが心配そうに口を開く。




「エリオットさん、レイは外にも出ない方が良いのかい?」




その質問にエリオットは少し悩み、静かに答える。




「……それは、レイ・シェルマン、お前次第だ」


「ぼ、僕、ですか」




レイは身体をびくりと震わす。




「今では、ドラゴンの事を知らない者が多い。知らないが故に、お前を恐れる者達が、心無い言葉を掛ける可能性は十分にある。それでも、冷静でいられるかどうかだ」


「冷静…」




レイが不安気に呟く。




「魔力の放出は意図的に出す時と、感情から自然と放出される時がある。何を言われても動じない冷静さを持った方が良い」


「……」




エリオットの言葉に先行きが心配になっていると、マリーが口を開いた。




「レイ、無理せずに、やりたい事は言ってちょうだいね。私も出来る限り手助けするわ」




笑顔を向けるマリーに、レイは心が軽くなる。




(マリーさんはいつも、僕の事を優先してくれる……)




感謝の気持ちに満たされるレイは、自然と頬が緩んだ。


マリーも笑顔になる。




そしてパンッと手を叩き、「さぁ!」と声を上げた。




「まずは、パパッと片付けをしちゃいましょう!」




マリーの一声に、レイは微笑み、エリオットは静かに頷いた。




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