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音が静かになったのを見計らい、レイは机からヒョコッと顔を出し様子を伺う。マリーも部屋の中からエリオットの背中を心配そうに見つめていた。
暫くすると、エリオットが家の中に入り、玄関を閉めた。その拍子にマリーがエリオットに駆け寄る。
「エリオットさん! 大丈夫だったかい?」
「えぇ、問題ありません」
口元を覆っていた布を首へ下げながら、エリオットは冷静に答えた。それを見てレイも立ち上がる。
「ありがとうね、エリオットさん。本当に助かったわ!」
「これも務めですから」
マリーの感謝の言葉に頭を下げるエリオット。
(エリオットさん、先鋭部隊の副隊長だったんだ……通りであの余裕な訳だ…)
レイは今までのエリオットの力や言動に納得する。
すると、エリオットはレイに気付き、視線を向けた。
「いきなり悪かったな」
「!」
レイは突然の謝罪に目を見開く。
そして首を横にぶんぶんと振った。
「むしろ、ありがとうございます」
一言伝えると、エリオットが視線を窓の方へ移す。
「ああ言った輩は、有る事無い事好き勝手書いて記事にする。関わらない方が良い」
先程の中年2人組の男達を思い出し、エリオットが呆れた表情を見せる。
レイは、先程の会話で気になる事を口にした。
「あの、僕が神殿に居るって……嘘ですけど、大丈夫なんですか?」
表情を変えず聞くレイ。
「あぁ。さっきのよう事を避ける為に、教会内でお前は神殿に連れて行かれた、と言う事になっている。ローレンヌ司教の指示でな」
「え」
「ローレンヌ司教様が!」
知った名前を聞き、レイとマリーがそれぞれ反応した。マリーも話に加わり、エリオットはゴホンと咳払いをする。
「はい。ただ4日前の話なので、偽造だと気付き始める者もいるでしょうが……」
「さっき来た怪しい人達ね」
マリーが険しい表情を見せる。
「ですが実際、神殿に司教達と大司教が集まり、レイ・シェルマンの事を話し合っている筈ですから、あながち嘘ではないです」
レイは一瞬、エリオットの顔を見つめる。
(……いや、涼しい顔してるけど、嘘だよね…)
淡々と話すエリオットに、レイは内心ツッコミを入れる。
(だけど……僕の知らない所では、たくさんの人達が動いてたんだ------このドラゴンの血のせいで……)
そして次第に自分の力に脅威を感じ始める。
心の中が騒つく中、ふふっとマリーが笑った。
レイは、ふと顔を上げる。
「エリオットさん、敬語じゃなくて良いわよ! 貴方は、そっちの方が自然だわ!」
「……」
笑顔で言われ、エリオットは気まずそうな顔で視線を泳がす。その変わらない2人のやり取りにレイはホッとした。
そして、ざわめく心を紛らわすように質問を投げ掛ける。
「あの、さっき聞こえた、ひょうむ? のエリオットって……なんですか?」
その瞬間、不機嫌そうな表情へと変えるエリオット。
(聞いたら、まずかった…?)
レイは冷や汗を流す。
すると、エリオットは諦めたように溜め息を吐いた。
「どこの誰か知らないが、勝手に付けた異名だ。俺の言動と表情が相手を凍てつかせるらしい」
「あぁ……」
レイが納得すると、
「なぜ合点がいった顔をしている…?」
と、エリオットが怪訝な表情を見せる。
レイは内心焦りながら「そういう訳では…」と言葉を濁した。
「それと……」
「「?」」
エリオットが、先程男達から奪ったフィルムとメモ用紙を取り出し、それらを手の平の上に乗せた。浮遊魔法でフィルムとメモ用紙がゆっくり浮かび上がる。
すると---、
---パキッパキパキッ
突然音を立てながら、フィルムとメモ用紙が一瞬にして凍っていく。
「まぁ!」
「!?」
驚くマリーとレイ。
完全に氷となった後、パキンと大きな音を立て、一瞬で霧のように細かく砕かれる。
そしてサラサラと氷が宙を漂った。
「俺の専属魔法は、"氷"だ」
エリオットが言い終えると同時に、氷の霧は静かに消えていく。
(なるほど……氷の霧で"氷霧"……)
レイは腑に落ち、大きく頷いた。
するとマリーが心配そうに口を開く。
「エリオットさん、レイは外にも出ない方が良いのかい?」
その質問にエリオットは少し悩み、静かに答える。
「……それは、レイ・シェルマン、お前次第だ」
「ぼ、僕、ですか」
レイは身体をびくりと震わす。
「今では、ドラゴンの事を知らない者が多い。知らないが故に、お前を恐れる者達が、心無い言葉を掛ける可能性は十分にある。それでも、冷静でいられるかどうかだ」
「冷静…」
レイが不安気に呟く。
「魔力の放出は意図的に出す時と、感情から自然と放出される時がある。何を言われても動じない冷静さを持った方が良い」
「……」
エリオットの言葉に先行きが心配になっていると、マリーが口を開いた。
「レイ、無理せずに、やりたい事は言ってちょうだいね。私も出来る限り手助けするわ」
笑顔を向けるマリーに、レイは心が軽くなる。
(マリーさんはいつも、僕の事を優先してくれる……)
感謝の気持ちに満たされるレイは、自然と頬が緩んだ。
マリーも笑顔になる。
そしてパンッと手を叩き、「さぁ!」と声を上げた。
「まずは、パパッと片付けをしちゃいましょう!」
マリーの一声に、レイは微笑み、エリオットは静かに頷いた。
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