4-1
朝食を食べ終わった3人は、片付けを進めていた。
その時、突然何か騒がしさを感じ取り、机を拭いていたレイは手を止める。
「?」
朝から感じる精霊と思われる気配。
話し掛けられる感覚にだんだん慣れてきた頃、その気配が騒ついているように感じる。
(この感覚は、あまり良くない感じがする……)
レイは部屋の辺りを見渡す。
食器の汚れを落とすエリオットと、残っている食材を片付けるマリーの姿。
何ともない日常のシーンが広がる。
(何だろう、この感じ……)
そう思った時だった。
ートントン
突然、玄関ドアからノックする音が聞こえる。
レイはビクリと身体を震わせドアの方を見た。
「こんな朝から誰かしら?」
マリーが食材を戻しかけたその時、再度ノックをされる。
「はーい!」
マリーはノックの相手に聞こえるように大きな返事をする。そして、手をエプロンで拭くと、玄関ドアの方へ向かった。
その様子を戸惑いながら見つめるレイ。
(あ、開けて、大丈夫かな……)
レイがマリーを制止するか悩んでいる姿にエリオットがふと気付いた。
その間にマリーが玄関ドアをゆっくりと開ける。
「どちら様です?」
マリーが声を掛けると、そこに居たのは2人組の男達だった。
マリーより少し背の高い男達は、帽子を被り、ヨレヨレのシャツの上にサスペンダーを付けている。少し薄汚れた服装の中年男達。
その1人は紙とペンを持っており、もう1人は魔法を使って姿を写す魔道具の写真機を持っている。
マリーが不審な目で見ていると、ペンを持つ小太りの男がニッと笑い、話し掛けた。
「あのー、こちらにレイ・シェルマンと言う、男の子がいると聞いたのですが、合っています?」
マリーはレイの名前が出た瞬間、怪訝な表情を見せる。
「貴方達は何ですか?」
「おっと、すいません。我々はセントラル新聞社の者でして、世界で初めて"ドラゴン"の血を持つ男の子が現れたと聞き付けて、直々に取材させて頂けないかと、訪問させてもらいました」
ニヤニヤと笑うペンを持つの男。
その横にいる細身の男は、部屋の中をチラチラと覗き見ていた。
玄関からは、ちょうどキッチンとダイニングが見えにくくなっており、エリオットとレイの姿は見えていないようだった。
「申し訳ないですけど、あの子は居ません」
「えぇ? 本当ですかぁ? 情報によるとここに居ると聞いたんですけどねぇ」
男は両肩を上げ、わざとらしく疑いの顔でマリーに顔を近づけた。マリーは眉に皺を寄せる。
「居ないと言っているでしょう! どうぞお引き取り下さい!」
マリーは仁王立ちをして、玄関ドアの前に立ち塞がる。それを見た男達は目を合わせ、ニヤリと笑う。
「中を見させてもらって、居なければ諦めて帰りますからぁ。少し入らせて下さい」
「いいえ! 家には入らせません!」
マリーが声を大にした時、エリオットは素早くレイの頭を押さえ、机の下に隠れさせる。
「!」
驚きつつレイは慌てて身を屈めた。
そしてズンズンと玄関の方へと向かうエリオットの足元を机の下から覗く。
エリオットは、首に掛かる黒い布を鼻の上まで引き上げ、鼻と口元を隠した。
「奥さん、そんなに声出さないで下さいよ~」
「お前らが口を慎め」
「「「!?」」」
突然マリーの後ろから声がした。
中年の男達とマリーは驚いていると、マリーの前にエリオットがスルリと現れる。
背の高いエリオットを見上げる男達は、殺気のようなエリオットの視線に冷や汗をかき、ジリっと後ろへと一歩足を引いた。
「この家の主人が帰れと言っているのが、わからないのか」
エリオットの威圧的な言葉と鋭い瞳に男2人は怯えた表情を見せる。すると、写真機を持つ男がハッと気が付き、声を上げる。
「もしかして、『氷霧のエリオット』…!?」
「あ、そうだ! あんた、教会の先鋭部隊の副隊長じゃないか!?」
続いた男も驚き、顔色を青くする。
「な、なんで部隊の副隊長さんが此処に居るんだ? やはりレイ・シェルマンの事が関係しているのか!?」
メモに何かを必死に書き綴る男は、恐怖の表情を浮かべながら質問をぶつける。
すると突然、メモとペン、そして写真機が男達の手元から宙へ浮かび上がり、エリオットの元に飛んでいく。
「な、なんだ!?」
男達は慌てて取り返そうとするが、エリオットの元に道具が移動してしまい手が出せず、グッとその場で踏みとどまった。
「浮遊魔法なんてズルいぞ!」
「じゃあ、取り返したらどうだ? お前らも"一応"魔法が使えるんだろう?」
エリオットが眼光を光らせながら言うと、男達は身震いし、急に態度を変える。
「い、いやいやぁ……副隊長さんに、魔力で敵うわけないじゃないですかぁ……なぁ!」
「あ、あぁ! あの、商売道具なんで、返してもらえませんか……?」
へつら笑いを見せ下手に出る2人の男に、呆れ顔を見せるエリオット。すると、魔法で写真機の蓋を開け、中からフィルムを取り出し、さらに何か記されている紙を数枚千切ると、写真機とペン、紙を男達の手元に戻した。
「レイ・シェルマンは此処には居ない。セントラルの神殿に連れて行かれている筈だ」
「またまた、そんな事をおっしゃって……」
エリオットの言葉に、作り笑顔で細身の男が言う。
すると、エリオットが2人の男をゆっくり交互に視線を向け、フッと笑った。
「セントラル新聞社は嘘だな」
「!」
「な、何を言うんですか!」
エリオットの言葉に慌てる男達。
エリオットは淡々と続ける。
「アイツらは、連携して取材にあたる。今の話を聞いて連絡をすぐに取る筈だが、お前らはそれをしてない」
「っ…!」
エリオットに言われ、男達は顔をしかめた。図星を突かれ言葉が出ない2人組に、エリオットは再び冷たい視線を向ける。
「なぜ副隊長の私が此処にいて、隊長や部隊の者達は居ないと思う」
「…?」
怯えながらも首を傾げる小太りの男。細身の男もエリオットの鋭い睨みで動けなくなっていた。
「ドラゴンの力と対峙するのに私1人で何とかなるとでも思っているか。儀式の時でさえ、多数の司祭でなんとか抑えられた力だぞ?」
「!」
「お前らみたいな違法取材を取り締まるぐらいなら、私1人で十分、と言う事だ。残念だったな」
エリオットが言い終えると、小太りの男は弱々しくエリオットを睨み付け、「くそっ」と悪態をつく。
「おい、いくぞ」
「お、おう」
男達は、体を翻し渋々と帰って行く。
2人組の男達の姿が見えなくなるまで、鋭い眼差しでエリオットは玄関前に立ち続けた。
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