2-1
「––っ」
ゆっくりと重い瞼を開ける。
瞳に映ったのは、暗がりの空間。
少しずつ視界が慣れる中、映される木材の板や梁をレイは、ぼんやり眺めていた。
そして目に映る天井が、どこか見覚えがある事に気付く。
(あれ、ここ……僕の部屋…?)
意識が戻ってきたレイは、目を泳がせ、ここが自分の部屋だと把握した。
(なんで部屋に……ん?)
帰ってきた経緯が全く思い出せず、右手を動かそうと力を入れると、何かを握っている。
それは、離すのを拒まれる温かい何か。
レイが握っている手を強めたり弱めたりすると、ピクッとその何かが動き、そして自分の横でゴソゴソと身じろぐ気配を感じる。
「気付いたか、レイ・シェルマン」
静かに声が掛けられ、レイは声のする右側へとゆっくり視線を移す。
「?」
すると視線の先には、ベッドに左肘をつきながら、レイを見てくるエリオットがいた。
「––っ!?」
驚きで硬直し、一気に覚醒するレイ。
エリオットの最初の印象が悪かっただけに、一瞬の恐怖を覚える。
無表情のまま固まるレイに、エリオットは怪訝な表情を浮かべた。
「なんだ?」
(何故この人、いやエルフさんが、ここに––っ?)
表情を変えずに思考を巡らせるレイ。
その様子をジッと見つめるエリオットは、自身の右手を上げた。
同時にレイの右手が引っ張られ、レイは驚き、自身の手の方を見る。
「!」
そこには、エリオットの手をギュッと握る自分の右手があった。
「あ……」
「離せるか?」
レイは急いで手を離す。
するとエリオットは「痺れてやがる」と呟き、右手をヒラヒラと振った。
(あの温もりは、エルフさんの手だったのか……)
レイは、触れていた温もりが名残惜しく、まだ温かさの残る自分の右手を見つめる。
だが、すぐに我に返った。
(じゃない! えっと、僕は…鑑定の儀式で、鑑定を受けて…それで……)
現況に内心狼狽えるレイは、ここまでの経緯を思い出そうと記憶を巡らせる。
するとギシリと床が鳴る。
その音の方へ目を向けると、エリオットが静かにベッドの横に立ち上がっていた。
「レイ・シェルマン、まずは謝らせてくれ。
……すまなかった」
そう言ってエリオットが頭を深々と下げる。
レイは何に謝られているのかが分からず、困惑する。そして、暫くしても頭を上げないエリオットに、急いで声を掛けた。
「あ、あの、頭あげて、下さい」
辿々しいレイの言葉から一呼吸置いて、エリオットは頭をゆっくりと上げ、レイを見る。
その表情は、何処か後悔の念を抱いているように見えた。
「俺は鑑定時、お前がドラゴンのだと気付いていた」
「!」
エリオットが告白した事実に、レイの心臓がドクンと大きく跳ねた。
エリオットの告白により、レイは自分が、異端な存在ーーードラゴンと人間のである事を思い出した。
大きな岩石を乗せられたように気が重くなる。
そんなレイを見ながら、エリオットは続ける。
「あの場で披露すると混乱が生じると思った。だからあの時、後に再鑑定すると伝えたんだ。司教に相談して、お前に真実を伝えようと思ってな」
「!」
レイは、思いもよらぬエリオットの気遣いに、目を丸くした。
その話を聞くまで、レイの事を考えて言わないでくれていたとは、思いもしていなかった。
(良い人…あ、エルフさん、だったのかも……)
レイがエリオットの見る目を変えていると、エリオットは再び口を開く。
「だが、あのクズ––いや、他の司祭が自欲の為に勝手な事をして、レイ・シェルマンの種族を晒してしまった」
(クズって聞こえた気が…、いや、触れないでおこう)
レイは空気を読んで、口を紡いだ。
気にせずエリオットは続ける。
「更に奴が、お前の魔力を無理矢理引き出した事で覚醒し、魔力が一気に噴き出した事で暴走してしまったんだ。苦しい思いをさせて、本当に申し訳なかった」
そう言って眉間に皺を寄せるエリオットは頭を少し下げる。
そんなエリオットを見て、レイは教会で暴走した事を思い出す。
(僕じゃ、魔力を抑える事が、出来なかった…。
魔力…ドラゴンの力……ッ)
『ドラゴン』というワードを思い浮かべただけで、失望や恐怖を覚え、魔力が暴れ出しそうになる。
そんな自分に嫌気を感じるレイ。
エリオットもレイから魔力が漏れているのを感じ取り、
「レイ・シェルマン、大丈夫か?」
と、しゃがみ込みレイに尋ねる。
レイは小さく頷き、自分を落ち着かせるように深呼吸をした。
暫くして少し落ち着いたレイは、先程から気になっている事をエリオットにぶつける。
「なんでフルネームで呼ぶんですか?」
「気にするな」
(そ、即答……)
レイの言葉が終わる前に返事をするエリオット。
レイは、その返事の速さに内心驚きつつ、真顔のエリオットを見た。
「…」
「…」
そして無言が続く。
(会話終了のお知らせ……。
これ以上聞くなって事かな)
レイは無言を貫くエリオットに少し困惑した。
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